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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第2章 畜生の道
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【side アージリナ】悪魔だと知らずとも


「ふぅ」



思わず溜息が零れる。肉体的な疲労は無いが、精神的に疲れた。本当に、騒がしい一日だった。



地竜擬きを連れた怪しい一行が門に現れた。

一瞬報告してきた門番の頭を疑ったが、実際に見てみると今や図鑑でしか見ない地竜がそこにはいた。

他の者には分からないだろうが、私は一目で本物の地竜だと分かった。


何故なら、私は幼少の頃、一度だけ地竜を目にしたことがあるからだ。

あの時の地竜はかなりの巨体だった。それに対してウェルが連れていた地竜はかなり小さい。生まれて間もない子竜だろう。


だが、さすが竜種というべきか。子供でも強力な魔法を行使していた。騎士団の中で地竜を止められる者が何人いるだろうか?


地竜はグラン連邦国南部に生息すると言われていた。私が目撃したのもアマゾン熱帯雨林の南部だ。

だが、それ以降の目撃例は無い。アマゾン熱帯雨林は全体が危険地域だからな。南部まで辿り着ける者がそもそもいない。運よく地竜に会うことが出来たとしても、生きて国に戻ることは叶わない。


恐らく私が最後の目撃者だろう。それももう半世紀も前の話だ。架空の存在と思われても仕方がない。


……そんな伝説とも言われる地竜を、まさか馬替わりにしているとはな。その次点で異常性を察しておくべきだった。



地竜にも驚いたが、それ以上にウェルが生きていたことに驚愕した。

魔法で姿を隠していたが、雰囲気や気配を読めばすぐにウェルだと特定できた。


あの時は、喜びを押し止めるのに苦労した。

直ぐに抱きしめてやりたかったが、どこに敵が潜んでいるのか分からないからな。


視察中に消息不明とされ、同行していた騎士達だけでなく父上すら音沙汰が無い。

王国は強力な魔獣の仕業だと考え、早々に捜索隊を撤退させた。確かに、騎士にすら満たない一般兵では悪戯に被害を拡大させるだけだからな。その判断は正しい。


だが、恐らく魔獣では無い。いくら衰えたとは言え、父上は国王から絶壁の名を賜っている。それは父上の特異体質によるものだが、どれだけ強大な攻撃もその身で防いでしまう。

攻撃力不足は否めないが、父上なら魔将相手でも生きてウェルを守り切れるだろう。


ただ、思慮が浅いというか短絡的というか、考えるよりも先に行動してしまうのが父上の悪い癖だ。そのせいで、搦め手には弱い。

悪魔以上になれば知能の高い魔獣もいるが、それよりも危険なのは人間だろうな。

グラン連邦国に裏切り者が紛れ込んでいるか、それとも他所の国が関わっているか、その可能性を考えると父上から連絡が来ないことも頷ける。下手に連絡をして敵に情報を流すことを恐れたのだろう。


全ては推測だったが、私はウェルが生き残っていることを前提に行動してきた。このサン・ホセ・デル・グアビアーレに一人残ったのもその為だ。

ウェルならば、隠密に国都へ向かうだろうと。……隠密というところは裏切られたが、それ以外の推測は当たっていたな。



館で話を聞いた時は、心が喜びから怒りに染め替えられた。

騎士の裏切りに対して、父上の不甲斐無さに対して、ウェルを奴隷に変えた所業に対して。


だが、当の本人が怒りと恐怖を堪え、自らの使命の為に尽力している。それを見なかったら、私は怒りに飲まれていたかもな。



その後は、混乱に陥っていたな。

ウェルが連れていた者達は全員癖が強い。

一人は司祭。それもウェルを奴隷に落とした調本人。用途があると言っていたが、怨敵を身の近くに置いている心境が分からない。

一人は魔獣。それも悪魔クラスは下らないほどの個体。知性が高く見た目は人間に近い。まだ危険性は感じないが、成長すれば魔将クラスになるかも知れない。


そして、もう一人。私にもその正体は分からない。

気配は人間ではなく、魔獣でもない。だが、本質は人間でもあって魔獣でもある。それなのに、生物特有の鼓動を感じない。


曖昧で異質で無機質な存在。それが、メアに対する印象だ。


人間味のある行動をとり、見た目通り子供っぽいところもある。

だが、たまに見せる冷酷で無慈悲な態度、見透かしたような視線には、人の枠を外れているとさえ感じる。


それに、メアが持つ力も脅威だ。

無詠唱の長距離攻撃。敵の位置を正確に捕らえる索敵。切断された腕を一瞬で繋げた回復能力。

最も気になるのは、腕が切断された時に血が流れなかったことか。



私はその瞬間を見ていない。だからメアが腕を切断されて繋げたと報告されても信じられなかった。


ちらっと、視線を横に向ける。そこには報告者である執事のゲインが控えている。

ゲインは私が信頼する従者であり、結界師の一人。ゲインの結界は相手の位置を正確に捕らえ、目で見なくても相手の動きや姿を認識することが出来る。

ゲインの報告で無かったなら、私は信じられぬままだっただろう。



「メアのことをどう思う?」



この場には、私とゲインのみ。言葉を取り繕う必要はない。

率直な意見を聞くため、ゲインに質問を投げかけた。



「……少なくとも、ウェルフェンス様に害を成す人物ではないかと愚考します」



少しの沈黙。それは、ゲインにとっては有り得ないことだ。

ゲインは常に数歩先を見ている。私がこの質問をすることも想定していたはずだ。

それでも、沈黙が発生した。これが意味する所は、ゲインもメアのことを測りかねているということか。



「その根拠は?」

「メア殿はウェルフェンス様の奴隷紋の主となっておりますが、それを使用された形跡はありません。それはクリュス殿の奴隷紋も同様です。フェリュス殿に対しては頻繁に奴隷紋の効果を発揮しているようですが、元々が敵であったため仕方のないこと。これらを踏まえると、メア殿は身内に率いた者には甘いのかと」



それは私も思っていたことだ。

さすがにゲインのように奴隷紋の使用履歴を読み取ることはできないが、ウェルとクリュスにはメアに対しての悪感情が感じられない。



「確かに身内には甘いのかも知れないな。敵には容赦が無かったが」



線引きがしっかりと出来ているのだろう。

敵と認定した者には容赦はしない。女性であっても、脅されて行動していたとしても、それは変わらないようだったな。



「襲撃者に対してどのような対応をとられるかを観察しておりましたが……正直申しまして、あそこまで無慈悲な対応を取られるとは想定しておりませんでした。襲撃者の殺害はともかく、脅迫されていたメイドに対しても殺意を募らせておいででした。その場で処分しなかったのは、慈悲ではなくより辛い選択をとらせたと言った方が正しいかと」



……サラッと言うが、襲撃者を放置するのは執事としてはどうなのだろうか?

ゲインの結界があれば、館に潜入された時点で敵の存在に気づく。それでも放置したのはメアの力量を測る為。

それに、敵の力量もある程度測定し、いつでも結界で守れると判断したからこそだろう。せめて主である私の許可は得て欲しいものだが。


しかし、敵を放置したという点では私も同罪か。

メアに伝えたように、私は魔力感知は苦手だ。だが、その代わりに気配察知は他の者よりも秀でている。

いくら魔法で気配を消そうが、殺意を持って接近していれば察知できるからな。


料理に毒が入っていることも把握していた。その上で、食すつもりだったが。

毒物は幼少の頃より耐性獲得の為に接種してきたからな、即死するような猛毒でも腹痛程度で済む。


瞬時にゲインの思惑を理解し、メアの動向を観察した。さすがに無警戒に食そうものなら止めていたが、その必要は無かった。

それに、料理を見ただけで毒物の混入を看破し、その犯人を特定して見せた。観察眼が鋭くてもできる芸当ではあるまい。あの時は感知できなかったが、何か魔法を使ったのだろう。



「襲撃者達の処置は?」

「生き残った二人はまだ意識が戻っていませんが、恐らく意識を取り戻した瞬間に自害するかと。メイドは放心状態のまま質問に答えてはいますが、何も知らない様子でございます」



襲撃者達の練度は中々だったからな。我が身可愛さに口を割るほど無能では無いだろう。

口を割ろうと自害しようと、意味は無いのだがな。



「自害したいのなら自害させてやれ。どうやって聞き出したのかは分からないが、メアから情報提供があった。だから襲撃者の生死はどうでも良い」



本当に、どうやって何時聞き出したのか、これはゲインにすら分からないとのことだ。

それでも、提供された情報の信憑性はかなり高い。


襲撃者を差し向けたのはハイエンス。

彼らはハイエンスが持つ暗殺部隊の人間だった。



「死亡した襲撃者の頭を切り落としてハイエンスに付き返してやるか」

「その必要はございません。彼らの体に魔法陣が彫られておりました。生死は既にハイエンスに伝わっているかと」



体に彫り付ける魔法陣に碌な物は無い。奴隷紋と似たようなものだろう。

それなら、たとえ襲撃者が口を割ろうとしても何も喋れないか。



「襲撃者が見聞きした情報を主人に伝える効果もあるかもしれん。早々に処分した方が良いか」

「承知しました」



ゲインが退室するのを横目に確認し、再び溜息を零した。



困惑はある。疑念もある。

だが、それでもメアに任せるしか手は無い。

例え、人外の存在であろうとも。



襲撃者は私の命を狙っていた。監視している者も隠れているだろう。

だからこそ、私がウェル達と行動すれば、むしろウェル達に危険が及ぶ。


それに、魔獣の進行も問題だ。メアから聞いた話だと、魔獣の異常行動はハイエンスとは別件だった。

別の暗殺者が仕組んだ可能性もあるが、もし本当に悪魔クラス以上の魔獣が発生したのだとしたら、騎士としてこの都市を守る義務がある。



それならば、私はこの場に残って敵の目を集めた方が良い。

襲い来る敵の悉くを打ち消して、無視しえない脅威として君臨する。

それが、今の私にできる最大の支援だろう。



体が熱い。

久しぶりに思いきりザイゲンを振り回した。その時の感触が手に残り、高揚した心が収まらない。


だが、まだ足りない。弱い魔獣を駆逐した程度では、私は満たされない。


歳を取って丸くなったと思っていたが、闘争本能は無くならないものだな。

暗殺者でも悪魔でも何でも良い。どうせなら、血沸き肉躍る戦いがしたいものだ。



王国の問題が片付いたら、メアと勝負してみるか。メアとなら、全力が出せそうだ。

どうやって戦うか、それを想像するだけで心が弾む。

……興奮して眠られる状態じゃないな。落ち着くまで雑務を処理しておくか。



そうして、興奮冷めやらぬまま夜は明けていった。


~就寝中~

メア:「……はっ!? 今、戦闘狂の若作りババアにロックオンされた気がする!!」

クリュス:「アホっとらんで、とっとと寝ぇ」

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