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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第2章 畜生の道
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食べ物の恨みは恐ろしいのは悪魔も一緒


魔獣達を追い払ってから少しの間その場で待機していた。けど、後続の魔獣は来なかったね。

まぁ、あれだけ大規模な魔法が放たれれば、魔獣達も本能で逃げていくよね。


都市周辺に設置した結界から情報を読み取ると、結界内にいた魔獣達は外へ逃げ出しており、逆に外から中へ入ってくる魔獣はいないらしい。

まだ結界内に魔獣が複数体いるだろうけど、危機的状況は回避出来たと言っていいよね。

残りは兵士達だけで対処できるし、もしまた魔獣が進行しても地竜に一層させれば良い。まぁ、地形はボコボコになりそうだけど。


後のことは兵士達に丸投げして、早くご飯を食べようということで、俺達は都市の中へと戻った。



久しぶりに食べられるご飯の味を想像して、自然と気分が高揚していた。

馬車で移動している時に多少は料理していたけど、調味料が塩しかないから味気ないスープくらいしか作れず、肉も塩で焼くだけだったからね。

毒の無い魔獣なら食べられるって聞いたけど、基本臭みが強くて調理しないと食べられないらしいし、そもそもアマゾン熱帯雨林に生息する魔獣は虫系が多い。あいつらが動いている姿を見て食欲を失わない猛者は中々いないだろうね。


だからちゃんとした料理を食べるのは、悪魔になってから初めてだ。それに労働の後だからね、三割増しでご飯がうまいはず!



そんなルンルン気分で館の中に入っていくと、空気が変わった。

はっきりと分かるような変化ではない。そのためか、空気の変化に気づいたのは俺だけのようだ。


原因が特定できないまま、俺達は食堂へと連れて行かれた。



「ええ香りやな」

「あぁ、ここの料理人は腕が良い。味も期待してくれて構わないぞ」



食欲をそそる香りに、皆が釘付けとなった。

長方形の机には様々な料理が置かれている。多くの食材を使ってくれたようで、華やかな見た目で美しいと感じるほどだ。



だからこそ、残念でならない。黒い靄のようなものが料理から漏れ出ている。これは、悪意。いや、殺意だね。

殺意が宿る料理って、毒でも入っているのかな?


食欲が一気に失せ、代わりに俺の中で殺意が膨らむ。

殺意を外に出さないように注意しつつ、料理に降りかかっている殺意の元を辿る。


館に入った時に感じた空気の違いは、殺意が混ざっていたからか。

それも一人だけではなく、複数人。さすがに何人とまでは特定できないけど、不快であることに変わりはない。



食堂の隅には執事が一人、メイドが三人控えているけど、その中で殺意を抱いているのはメイドの一人。

料理から感じる殺意とは別だから、調理室にも敵が潜んでいるかな?


感の鋭いアージリナが気づいていないのは、メイドの魔法による妨害のせいかな?

俺も含めて全員が幻惑の魔法にかかっている。料理に興味を引き付ける効果しかない、規模の小さい魔法。だからこそ、全員が気づかずに魔法に掛かってしまったのだろう。


幻惑によって周りに潜んでいる者の気配を隠し、料理に手を出させようとしている。弱い魔法も使い方次第で厄介になるよね。

まぁ厄介ではあるけど、一度看破すればもう役には立たない。


敵がどれだけ息を潜めようと、魂感知を使えば用意に位置を特定できる。

姿を隠してこちらを伺っている襲撃者は四名。天井と食堂の入り口に一人ずつ、残りの二人は窓の外で待機しているね。

魂の感知が出来れば、魂の波長から感情を読み取ることが出来る。俺達に対して殺意を抱いているのは察知したけど、これだけで敵味方と判断するのは危険かな? 少し探りを入れるか。



「館に住んでいる人は何人?」

「ん? 私を含めてこの場にいる五人と、後は料理人が一人だな」



アージリナの回答を聞いて、直ぐに魂感知を館全体に広げる。敵が紛れているのは確定。後はどれだけ潜んでいるか。

食堂の隣の部屋に一人、それ以外は感知できないか。その一人は意識が無いのか魂の波長が弱い。敵では無く料理人と考えるのが自然かな。料理人で間違いないなら、早く助けないと。美味しい料理が食べられなくなるからね。


そうとなれば、とっとと片付けよう。



『フェリュス、館を障壁で覆え』



俺の命令を聞き、フェリュスが即座に魔法を発動させる。

念話を聞いたウェルとクリュスは俺に、それ以外の者はフェリュスに視線を向けた。



『ウェルは食堂の入り口に隠れている一人、クリュスは天井に隠れている一人を拘束して。無理なら殺して良いよ』



念話を飛ばしつつ、返事を待たずに窓を開けて外に出た。


外に隠れていた二人の内、一人が即座に剣を抜いて襲い掛かってきた。俺は振り下ろされた剣を、硬化の魔法を付与した黒衣で受け止める。

敵が驚いている内に、剣を持つ手首を掴む。そして、容赦なく握りつぶした。


敵は苦悶の声を漏らすも、落とした剣を反対の手で持ち直し、そのまま切っ先を突き出した。

それを半身になって躱しつつ、黒衣で作ったレイピアを相手の腹部に突き刺し、地面に縫い付けた。

痛みで叫ぶ敵を放置し、もう一人の敵の元に向かう。既に魔法の準備を終えていたようで、俺が向かってきた瞬間に魔法を放ってきた。



「"尖晶弾"!」



魔法名が呟かれ、複数の弾丸が飛んできた。

石礫の上位版かな? 弾丸は先の尖った鉱石で、石礫よりも速い。


空歩を使って空を駆け、弾丸を回避していく。



「"断斬"!」



敵の位置を確認してから断斬を発動して敵の体を真っ二つにした。

断斬はそのまま障壁にぶつかり霧散する。障壁が無かったら隣の建物に亀裂が入っただろうね。こういう建物の周りで戦うのに慣れていないから、凄く気を使うよ。



絶命した敵から魂を取り込みつつ、館の中の様子を伺う。先ほどまで聞こえてきた喧騒は収まっている。どうやら二人とも敵を無力化できたようだね。

生死は確認できないけど、どっちにしても捕虜が多すぎても困るだろうし、こっちは始末するかな。

情報だけなら魂から取り出せるから、生かしておく価値も無いし。



そんなことを考えながら視線を敵に戻すと、地面に横たわる男が目前に迫っていた。


腹部に刺したレイピアは抜き取られているが、そこから鮮血が溢れ出ている。

それを無視して身体強化を限界まで掛けているようで、敵の体から骨の軋む音が聞こえる。決死の覚悟で攻撃を仕掛けてきているのだろう。


咄嗟に黒衣に硬化を付与しようとするも、敵の方が速い。敵の剣が振り下ろされ、俺の腕が切り飛ばされた。



俺は落ちていく片腕を視界の端で捉えつつ、敵の首に手を伸ばして握りつぶした。

そこから魂を抽出して取り込み、死骸を投げ捨てる。



はぁ、油断して腕を落とすなんて、緩みきっている証拠だね。

怪我を負っても血が流れない。真っ黒な切断面を見れば生物出ないことは一目瞭然。

こんな姿を見られたら、俺が人間でないことがバレてしまう。


転がっている片腕を拾い、切り口を繋げる。一瞬で腕は元通りにくっついた。服も黒衣だから、魔力制御で直ぐに元に戻る。

悪魔になってから手足の切断は日常茶飯事だったし、怪我しても一瞬で治る。……これが油断の原因だよね。



振り返ると、館の窓からウェルが俺を見ていた。

驚愕しているところを見ると、魔法無しで腕をくっ付けたところを見られたかな。

んー、まぁウェルなら良いか。奴隷紋を使えば俺に不利益な情報を漏らすことは無い。最終手段だけどね。


基本、ウェルやクリュスに対して奴隷紋を使う気は無い。

流れで奴隷紋の主従関係が出来てしまっただけだからね。



『……メア、今のは、一体?』

『秘密。知らない方が良いことだってあるでしょ?』



ウェルの困惑の声を払い除ける。それ以上の言及を拒絶して、窓から館の中に入り込んだ。

奴隷紋を使わないようにするには、余分なことを話さなければ良い。不信感は持たれてしまうけど、こればかりは仕方がないね。



「メア、助けられたようだな」

「アージリナは気づかなかったの?」



申し訳なさそうな表情のアージリナに、疑問に思っていたことを質問する。

アージリナの勘は鋭い。幻惑の魔法に掛かっていたといっても魔法の効果は低いし、敵が潜伏していることに本当に気付かなかったのか疑問だったのだが。



「私は魔力感知が苦手でな。魔法で隠蔽されると気配が察知できなくなるんだ」

「アンジーの場合、脅威が迫れば本能で察知できるらしいが、今回の相手は脅威では無かったのだろう」



……サラッと弱点を教えてくれたけど、そういうのって隠さなくて良いのかな? まぁ、いいか。


外の敵は死んでいるが、館の中に潜伏していた敵は二人とも生きていた。

一人は血濡れになっていて虫の息だけど。そしてもう一人は岩に飲まれて固まっているけど。


……いや、うん。血濡れの方はクリュスが手足を切り裂いて動けないようにしただけだね。

もう一人は最初首チョンパされたのかと思ったよ。実際にはコンクリートで首から下を固められただけだった。

……敵が暴れたら、あのまま川に投げ込むかな。


まぁ、行動不能になっているから問題無い。



「執事さん」

「はい、如何なさいましたか?」



執事に視線を向ける。荒事に慣れているのか、動揺は無く直ぐに返事を返してくれた。



「料理人の様子を見てきて。多分、倒れていると思うから」

「……承りました」



間が空いたのは、何故俺が知っているか疑問に思ったからか。俺が敵の一味である可能性を考慮して、罠だと思ったからか。

疑問はあっただろうが口には出さず、執事は了承して食堂を出て行った。



「あぁ、君はこっち」



メイドの二人が食堂から出ようとしていたが、その内の一人を呼び止めた。

殺意を抱いていた者を放置はできないからね。



「……はい。何か御用でしょうか?」



困惑しているけど、まだ内に秘めた殺意は消えていない。

食事に何か細工をしたことがバレてないと思っているのだろう。だからまだ食べる機会があるとでも思っているのかな?

俺は机の上に置かれた皿を一つ取り、それをメイドに差し出した。ウェルの席の前に置かれていた皿なんだけど、これが一番殺意が濃い。



「食べてみて」

「……いえ、お客様のお食事を召し上がる訳には」



顔面蒼白で拒絶するメイド。その魂に干渉する。

殺意は霧散し、恐怖が募っている。俺の行動の意味を理解できないはずが無いからね。たぶん毒だろうけど、料理に仕込んだことがバレていると察しただろう。その犯人が自分であることも。


その恐怖に干渉し、魂にある門を閉じる。これでもう魔力は出ず、幻惑は使えない。



「気にしなくて良いよ。ほら」



言葉と共に、魂の波長を揺さぶる。恐怖が増幅され、メイドの呼吸が乱れていく。



「何を、怖がっているの? ねえ?」



魂の波長が乱れていく。窮地に追い込まれ、発狂しそうになる。まぁ、させないけどね。

恐怖以外の波長を弱めていく。思考が恐怖に塗り潰されていく。そうすると、暴れることも逃げ出すこともできず、ただ恐怖が身に染みるのを待つだけになる。


このまま続けても良いけど、そうすると廃人になるからね。この辺で終わらせよう。



「はい、あーん」



フォークを手に取り、皿に盛ってある一口大の肉を突き刺す。そしてそのまま、メイドの口元に持っていく。

メイドはもう抵抗できる思考が残っていない。恐怖に飲まれ、恐怖に従うだけ。

だから、自らの殺意が籠った料理を、自ら口にした。



「よく噛んで、飲み込んで」



俺の言葉に従い、十数回咀嚼して飲み込んだ。

様子を見るけど、苦しそうには見えない。これは遅効性の毒なのかな?



「ねぇ、料理の中に何を入れたの?」

「分かり、ません」



このメイドは何か知らずに料理に仕組んだのか?

先ほど入手した魂から情報を取り出す。……なるほどね。屑が考えそうな手口だよ。

俺はアージリナに対して、知り得た情報を口にした。



「料理に含めたのは、クラーレらしい」

「クラーレ?」



アージリナが声を漏らす。その表情には怒りではなく困惑が色濃く出ていた。



「クラーレは毒だが、狩猟の時に使用する矢毒だぞ? 確かに傷口から毒が入れば呼吸困難になるが、クラーレは経口摂取しても害はない」



アージリナの言う通り、この毒は口にしても死なない。まぁ、食べて死ぬ毒なら狩猟にも使わないからね。

クラーレは経口摂取しても毒の効果が発揮される前に体外に排出される。



「本来ならね」



俺は手の平をメイドに向け、魔力を放出した。

その途端に、メイドが苦しみだして地面に倒れる。


メイドの喉から息が漏れる。

呼吸が荒れ、苦しみに悶えて喉を抑え暴れる。

やがて呼吸音が小さくなり、体が小刻みに震え出す。そして、そのまま意識が遠退く。



「……これくらいで良いか」



魔力の放出を止めると、メイドが咳き込んで意識を取り戻した。

これ以上は死んじゃうからね。それに、俺が止めないとウェルかアージリナが割り込んできそうだったし。



「……今のは、一体何をしたんだ?」

「クラーレに魔力を供給しただけ」



それだけ言えば、アージリナには伝わるだろう。

クラーレは矢毒だが、魔獣相手には効果は薄い。そのため、狩猟に使う際には魔法を掛けて効果を高めている。


クラーレは植物から抽出される毒だが、魔法を使って毒素を抽出すると魔力の感受性が高くなるらしい。だから魔法で生成したクラーレは魔力量によって毒の効果が激増する。


襲撃者達は、俺達にクラーレを食わした後に魔力を放出する予定だった。

それが成功していれば、毒を食らった人間は呼吸困難に陥っていただろうね。まぁ、俺には効かないけど。



地に伏すメイドの頭を掴み、視線を合わせる。

掠れている意識、恐怖に歪む視線を感じながら、俺は事実を告げた。



「お前が俺達を殺しても、お前の母親は戻ってこない。もう、殺されているから」



言葉と共に、メイドの頭に襲撃者の記憶を流し込む。母親が殺される光景を。


記憶を渡した後、俺は手を放して魂の干渉も解いた。

どんな理由があろうと、殺意を向けられたら殺意で返す。殺しはしていないけど、これは死ぬよりも辛いだろうね。


命を賭けて犯罪に手を染め、何も得られず、全てを失い。

そして、残ったのは罪のみ。



放心状態となったメイドの姿を見ても、憐れみすら感じなかった。


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