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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第2章 畜生の道
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悪魔だけじゃない



再び都市の外に出ると、数十人の兵士が迎撃の準備を進めていた。緊迫した状況なのか、全員が緊張した面持ちで黙々と作業を熟している。


兵士が数人がかりで車輪の付いた大砲を運んでいく。二十門以上はありそうだね。

その砲身は全て上空に向けられた。


砲身の先を目で追うと、闇夜の空に魔獣の姿が小さく見える。

上空を見上げていると、足元から振動が伝わってきた。まだ木々に隠れて見えていないけど、地上からも魔獣が迫っているようだね。


都市の周囲には魔道具による結界が張ってあるんだけど、あまり役に立っていないみたいだね。

上方にも効果を発揮するけど、高度が上がれば効果は下がるか。それに、元々忌避感を与える程度の結界だから、全ての魔獣を追い払うこともできない。



アージリナの姿を確認して一人の兵士が近づいて来た。その兵士の手には、都市の周辺に設置されている杭型の魔道具が握られていた。



「結界を通過した魔獣の種類と数は?」

「空からは腐鷲が五十体以上、森林からは巨大蟻が百体以上、その他、黒狼や吸血蝙蝠などの小型の魔獣が二百体以上です。現在も結界を超える魔獣が増加中です」

「分かった。引き続き情報収集に務めろ」

「はっ!」



兵士は魔道具に魔力を流し込みながら情報を読み出していた。結界は魔獣を追い払うよりも通過した敵を察知するセンサーとしての役割の方が重要だったみたいだね。

兵士が下がったことを確認し、アージリナは俺達に近寄ってきた。



「いつもなら五十体もいれば多い方なんだが、今日は異常だな。それに、魔獣の種類が複数いることも気になる」



異常な状況にも関わらず、アージリナに焦りは無い。というより、何故か楽しそうだね?


腐鷲は腐肉を喰らう大型の鷲だ。音を立てずに忍び寄って死骸を食らう。

クリュスのように風を飛ばす個体もいるようで、上空から風刃を飛ばしてくるのが厄介なのだとか。


巨大蟻はその名の通り巨大な蟻。全長三メートルはあり、口からは強力な酸を吐く。

巨大蟻は食欲旺盛で黒狼や吸血蝙蝠も捕食対象。それなのに、餌には見向きもせずに並走している。


現時点で三百体以上だけど、まだまだ増えそうだね。



「まるで何かから逃げているようだな。悪魔でも発生したか?」



アージリナの言う悪魔とは俺のような精神生命体の悪魔のことではなく、聖教会が定めた魔獣の脅威度のことだ。

区分は魔獣、悪魔、魔将、魔王の四段階。悪魔クラスは撃退に一個中隊が必要と言われており、早期に討つ為に騎士団が派遣される。

兵士にとってはかなりの脅威だけど、騎士であるアージリナには脅威に感じないみたいだね。むしろ、強敵が来る可能性を感じ取って嬉しそうに笑っている。

……なるほど、これが戦闘狂という種族か。



「今のところは魔獣だけか。物足りないが、的は多い。互いの力量を測るなら丁度良いか」

「アンジー、そんな悠長なことを言っていていいのか? 対処が遅れれば都市の中に魔獣が侵入するぞ」



ウェルが小声で注意を促す。なお、ウェルは応接室を出る前に造形を使って変装していた。アージリナはともかく、他の執事やメイドにもバレる訳には行かないからね。

ウェルは次期国王候補。この国で生きている人達なら、知らない人の方が少ないだろう。

いくら兵士や執事達の口が堅かろうと、限界があるからね。用心を重ねるに越したことはない。



「心配ない。ここは軍事都市だぞ?」



アージリナはウェルの注意を聞いても特に気にした様子は無い。まぁ、実際に魔獣が侵入しても問題は無いだろうね。

都市内の建物には全て魔法陣が刻まれていた。設置型の魔法陣で、内容は魔力貯蔵と硬化魔法の二つ。

恐らくは、住んでいる人から微量の魔力を吸収して蓄え、衝撃を受けたタイミングで硬化魔法を発動する仕組みだね。

貯蔵していた魔力量によって持続時間は変わるけど、兵士の多い都市だから数分耐えられれば問題ないだろう。



「まずは、貴殿らの力を見せてくれるか? あぁ、クリュスは正体がバレない範囲で頼む」



クリュスが魔獣奴隷であることはアージリナに伝えてある。

アージリナは人型の魔獣にも会ったことがあるらしく、それほど驚いた様子は無かった。

奴隷紋で縛ってあるから他の兵士にバレても問題は無いけど、悪目立ちするから姿は隠したままとなった。

……まぁ、既に地竜で悪目立ちしているから、バレても今更だって言われたけどね。



「んー、翼はええけど、爪は出したいわ。全部魔法で倒すん面倒や」

「鉤爪は珍しいが武器として使う者もいるから言い訳は何とかなるだろう」

「僕は土魔法を使おう。広範囲魔法を使わなければ誤魔化せるだろう」

「じゃあ俺は後ろで見ているね」



立場上、俺は二人の主ということになるからね。

従者二人が力を見せるだけで良いと思ったんだけど……駄目らしい。周りからの視線が痛いよ。



「戦え。働かないなら飯抜きだぞ」

「そんな……!? そんなこと言われたら、もう戦うしかないじゃない!」

「……どしたん、兄ちゃん? また頭が可笑しくなったんか?」

「いや、いつも通りだと思う」

「情緒が不安だが、戦う意思が芽生えたのなら問題ない」



何か酷いことを言われた気がしたけど、そんなことはどうでもいい。

悪魔になってから漸く美味しいご飯に有り付けると思っていたのに、食べられないなんて辛過ぎる!

働かざる者食うべからずが世界共通とは知らなかったけど、確かにアージリナの言う通りだね。これはもう、本気を出すしかない。



「とっとと殲滅しよう、そうしよう」

「あ、不味いんちゃう?」

「そんなはずはない! あのご飯は美味しそうだった!」

「そういう意味やなくて……」

「せっかくのご飯、冷める前に戻らないと!」

「ちょっと待……」

「"黒槍"!」



魔法陣を手前に形成し、一瞬で魔法を放つ。黒い槍だから、夜目の効く魔獣でも闇夜の下では視認しづらいだろう。


黒槍はあっという間に腐鷲の群れまで飛来し、その内の一体を打ち抜いた。

それだけに留まらず、余波だけで近くにいた腐鷲も弾け飛ぶ。十体くらいは仕留めたかな?


もう少し密集していたら楽だったのにと思いつつ、追加で黒槍を二発放った。これで残り半分くらいかな?

生き残っていた腐鷲達は襲い掛かってくる様子もなく、方向を変えて逃げて行った。まぁ、逃げた分は放置でいいか。また来たら殺せばいいし。


上空からの襲撃は無くなった。後は森林から来る魔獣達だね。

そう思って視線を前に戻すと、物凄い形相のウェルがいた。



「何をしている!」

「え? 魔獣の殲滅だけど?」

「それは分かっている! 何であんな強力な魔法を使ったんだ!」

「早くご飯が食べたくて」

「これ以上悪目立ちしてどうする!」

「まぁ、今更だよね」

「お前が言うな!」

「……ウェル、落ち着け。後、怒り過ぎて肌が崩れているぞ」



アージリナに注意され、ウェルは口を噤んで崩れた土の肌を直した。

最初は小声だったのに、途中からヒートアップして声を荒げていたからね。

周りの兵士にも聞こえていたと思うけど、兵士達は皆遠くの空を見つめて固まっていた。



「私が悪かった。常識を捨てたという話を、もっと真剣に受け止めるべきだったと後悔している」

「いや、僕の方こそすまない。どれだけ非常識な人物かを正確に伝えるべきだった」

「もう何しても止められんで、早う諦めた方がええよ」



何だろう、評価が物凄い下降している気がする。

確かに悪目立ちしない方が良いと思っているけどさ、それよりも美味しいご飯だよね?



「……クリュスのいう通り、悪目立ちはもう避けられんな。これからはメアと地竜に注意を集中させればいい」

「分かった。どの道、もう隠しようもない」

「残りは地上の魔獣か、もうすぐ見えてくるはずだ」

「あ、不味いんちゃう?」

「……今度は何だ?」

「魔獣の進行方向に、地竜置いたまんまやで」

「ランガー!!」



ウェルが愛する地竜の名を叫ぶ。ウェルにとっては地竜に危機が迫っていると感じたのだろう。

だが、クリュスが懸念したことは違うよね。地竜が魔獣に負ける訳無いし。心配なのは、やり過ぎにならないかどうか。

残念ながら、その心配は的中した。



ゴシャアアン!!



目の前にあった森林の一部が消えた。


その直後、大きな音と共に地面が揺れた。その光景を見て尻餅を付く兵士達。

意識を失うような兵士はいなかったけど、皆放心状態だね。


固まってしまった兵士達を放置して地竜の元に向かうと、地面が大きく陥没していた。そしてその中で佇む地竜。

やっぱり地竜の重力魔法だね。陥没した地面は赤い染みになっていた。



「……地竜と認めていなかった者共も、これを見たら地竜だと認めざるを得ないだろうな」

「恰好良いだろう? この地竜、ランガって言うんだ」



呆れ果てたアージリナに、ウェルが目元をキラキラさせて自慢している。

変装していて見た目は老人だからね。少年のような目をした老人なんて見たくないと、アージリナはウェルから視線を外した。



「……クリュス、済まない。ウェルが迷惑を掛ける」

「大丈夫や。他の二人に比べたら、ウェルはちゃんとしとるで」



ウェルは大人っぽいのに、地竜が絡むと童心に帰ってしまうからね。

まぁ、誰かに迷惑をかけている訳ではないから問題ないけど。



「それにしても情けない兵士共だ。この程度で放心状態になるとは。精神面を厳しく鍛え直すか」



そんなことを言いながら、アージリナが陥没した地面を飛び越えて森林に向かった。

……軽く飛び越えたけど、二十メートルはあるよね?



「次は私の番だな。……ふふ」

「……アンジー?」

「魔獣の大群が押し寄せてきたんだ。それに既にメアと地竜がやらかした後。多少やり過ぎても、問題にはなるまい」

「何か不穏なこと言い出したんやけど?」

「あぁ、久しぶりにザイゲンを思いっきり振り回せる」

「……とりあえず、避難しとこうか」



青龍偃月刀を見て恍惚な笑みを浮かべているアージリナを放置して、地竜も連れて門の方に避難する。

アージリナの魔力が青龍偃月刀、ザイゲンという名の愛刀に充填されていき、銀色の刀身が橙に染まる。


地竜の攻撃から運よく難を逃れた魔獣達は本能に従い左右に逃げ去っているが、その後方では地竜の脅威に気づいていない魔獣達が押し寄せてきている。

このままだと都市を囲われる危険性があるんだけど、アージリナが怖くて誰も何も言えない。



「大地よ 我が魔力を捧げよう 刃よ 我が意思を宿らせよう」



アージリナがザイゲンを振りかぶる。魔力を限界まで充填したザイゲンから、ノイズのような音が零れる。

それでも魔力の供給を止めないようで、溢れ出た魔力がザイゲンを中心に渦巻いている。



「歓喜に震えて その身を揺らせ 我が意思に共鳴し 荒れ狂う力を開放せよ!」



アージリナの詠唱が進むにつれて、地鳴りが大きくなっていく。

大地が揺れ、空気が震える。


姿を現した魔獣達は足を止めて立ち尽くしていた。気が付いたのだろう、目の前に迫る絶望に。



「"衝刃波濤"!!」



横薙ぎに振るったザイゲンから蓄えられた力が解き放たれ、斬撃が荒れ狂う波となって森林を飲み込む。

斬撃と衝撃が交じり合った波は木々を容易に切り裂き砕いていく。その中にいる魔獣が耐えられるはずも無く、赤い血肉が闇夜に溶けていく。


衝撃が走り去った後、目の前には切り開かれた大地が広がっていた。

……ちょっと騎士団の力を舐めていたかも。



衝撃的な光景を目の当たりにした兵士達は、畏怖と尊敬の念をアージリナに向けていた。



「あ~、スッキリした」



静寂の中、アージリナの声がはっきりと聞こえてきた。

その弾んだ声を聞いて、ウェルが顔を引き攣らせている。もう土の仮面がボロボロに崩れているけど、気にする余裕も失ったようだね。

それはしょうがないと思う。俺でも、唖然としているのだから。



「……なぁ兄ちゃん、ここにはヤバい奴しかおらんの?」

「みたいだね」




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