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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第2章 畜生の道
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お説教される悪魔


感動の再会が終わり、ウェルはここに至るまでの出来事をアージリナに説明した。





ウェルは軍事都市の視察という名目で、王都となったエクアドルから離れてガイアナを訪れた。


ガイアナは南米の北東部に位置する小さな国だ。

南部から押し寄せてくる魔獣はブラジル北部で食い止められている為、ガイアナは魔獣の被害が少ない。

だが、魔獣を恐れて逃げてきたブラジルの難民を多く受け入れた為、国土に対して人口が高い。そのため、ガイアナ南部にアッパー・タクツェセという名の軍事都市が誕生した。


アッパー・タクツェセは他の軍事都市とは毛色が違う。軍事都市の主な目的は魔獣駆除だが、アッパー・タクツェセでは兵士育成が主な目的となっていた。

人が多く、危険性が少ない国。だからこそ、兵士を志願する者を集めて教育を施すには適していると言える。


アッパー・タクツェセでの兵士育成如何によってグラン連邦国の行く末が左右される。

グラン連邦国ではそれほど重要な要因として捉えている。次期国王の最有力候補であるウェルが視察に赴くほどに。



ウェルはベンダーとレイラを含む15人の護衛を率いていた。

次期国王としては少ないと思ったけど、護衛の内4人はグラン連邦国の騎士団に所属する騎士だ。これだけでも十分過ぎる戦力だね。


レイラを含む8人は騎士団に所属していないが、王都の防衛を任されている守護兵達。

特にレイラは、守護兵の中でも突出した力を有しており、王国に数人しかいない結界師の称号を持つ一人だ。


残りの2人はウェルの従者。ウェルの身の回りの世話と、視察先でのサポートを任されていた。


そして最後の1人がベンダーだ。

ベンダーは元々騎士団所属だったが、老齢を理由に退団している。

それでも未だに騎士団員以上の力を有している為、国王直々にウェルの護衛を依頼されたそうだ。



過剰戦力を率いて、魔獣の少ないグラン連邦国の北部を進み、何事もなくアッパー・タクツェセに辿り着いた。

視察も問題は無く、兵士の育成も想定よりも高い水準で進行しており、満足の行く結果だった。


兵士達は皆ウェル達に敬意を払い、難民の子供達は笑みを浮かべて歩き回っていた。

軍事都市の中の平和に、ウェル達は感銘を受けていた。


この時、警戒を怠っていなかったのはベンダーと、そのベンダーから指示を受けたレイラだけだった。

他の騎士や守護兵も気を抜いていたわけではない。だが、アッパー・タクツェセの中に広がる平和な空気に当てられて、注意力が低下していたことは否めない。

例え普段通りに気を張れていたとしても、惨事は免れなかっただろうが。



平和はいつも、唐突に終わる。


視察が終わり、帰国前夜。ウェル達が滞在していた館が爆撃された。



魔法による攻撃だと分かったのは、レイラの結界が攻撃を防ぎ切った後だったらしい。

レイラが館の表面を覆うように結界を展開していたお陰で、館の中にいた者は無事だった。


だが、それで安堵する者はいなかった。レイラが結界を張っていたのはベンダーからの指示だった。

これは本来なら必要の無い指示だ。守護兵はローテーションを組み、館の四隅に分かれて防御魔法を維持している。

ベクトル反転の魔法であり、攻撃を跳ね返し、侵入者を阻止する防御魔法。それが、全く機能していなかった。


爆撃の直前、発動していた防御魔法が消えた。つまり、守護兵の無力化と爆撃が同時に行われたということ。

敵は複数人、それも守護兵の守りを突破するほどの手練れ。危機的状況であることは、荒事に慣れていないウェルでも感じ取れたそうだ。


だけど、まだ命の危険までは感じていなかったみたいだね。

傍にはベンダーとレイラがいた。結界を打ち破られるとも考えていないが、万一突破されてもベンダーがいれば問題ないと思っていたらしい。

後は騎士達が敵を捕らえるのを待つだけだと。


そんな平和ボケは、残酷な現実が打ち払った。



多くの人の気配に釣られ、ウェルは窓の外を覗き見た。

そこにいたのは、アッパー・タクツェセに住まう兵士達だった。

全員が抜き身の武器を手に持ち、館を包囲していた。


その兵士達の前に、4人の人物が立ち並んでいた。

見間違えるはずも無い。そこにいたのは、ウェルに付いてきてくれた騎士達だ。


心強い味方の姿に安堵した心は、一転して恐怖に変わった。

四人の騎士は片手に武器を携え、もう片方の手に球のようなものを掴んでいた。


それが守護兵の頭だと理解するのに、十秒も要した。

時間が掛かったのは、心が耐え切れず現実逃避を選んだからだろう。


どれだけ心が望んでも、現実を無かったことにはできない。

当たり前のことだけど、絶望の中で子供に求めるには酷だろうね。



ウェルの心を慮る余裕も無く、ベンダーはウェルを脇に抱えて走り出した。

騎士がいる正面ではなく、後方の壁に穴を穿ち、そこから飛び降りる。


裏口にも兵士はいたが、正面と比べれば脅威では無かった。

ベンダーが兵士達を吹き飛ばし、そのまま作り出した道を身体強化も併用して一気に走り抜け、兵士達でできた人垣を抜けた。


遅れて動き出した兵士達を守護兵が防御魔法で無力化した。

防御魔法も使い方によっては攻撃になる。この時使った防御魔法は雷壁。触れた者を感電させる防壁だ。



その防壁によって維持された道を通り、従者の2人が追いついた。

そのうちの一人の従者が、雷壁を発動させていた守護兵の腹部に剣の先を突き刺した。裏切り者は、騎士だけでは無かったんだね。

負傷した守護兵は呻きながらも魔法の制御を手放すことなく、暴挙に出た従者を感電させて無力化した。


致命傷では無かったが、逃げ回ることは出来なくなったのだろう。

負傷した守護兵は殿を務めると申し出て、ベンダーは黙認した。



ウェル達はアッパー・タクツェセを飛び出しても兵士達に追われ続けた。

だが、4人の騎士は誰も追いかけて来なかった為、ウェル達は捕まることなく逃げ切ることが出来た。



ガイアナの隣国であるベネズエラへ向かう道は全て封鎖され、敵が待ち構えている状態だった。

そこで選んだ道が、ガイアナを南下してブラジル北部を進み、ベネズエラ南部に向かう経路だった。

危険地域が含まれているが、ブラジル北部にはロライマという名の軍事都市がある。そのお陰でガイアナへの魔獣侵入が阻止されている状態だ。


ロライマにはグラン連邦国の騎士が4人いる。

騎士の中に裏切り者がいたため、ロライマの騎士も信頼できる状態では無い。

だが、魔獣を駆逐しているお陰でロライマの周辺は魔獣が少ない。ロライマに入らなくても、その外周を通ってベネズエラ南部に向かえば、比較的安全に進行出来ると、そう考えていた。



その考えはロライマに辿り着く前に打ち壊された。

ガイアナを南下している途中で、大量の魔獣に襲われるようになったのだ。


残っている人数はウェル、ベンダー、レイラ、守護兵2人、従者1人の計6人。

守護兵が防壁を張り、ベンダーが前線に立ち、残りの3人が後方支援を務めながら魔獣を駆逐していった。


魔獣の数が多くて連戦による消耗はあったが、魔獣だけならどうとでもなった。

レイラの使う断魔結界があれば魔獣は寄ってこない。設置型の結界の為、移動しながらでは使えないが、魔獣によって足止めされているのは敵も同じだ。


そのはずなのに、気が付けば敵兵の奇襲を受けるようになっていた。

連戦によって消耗していた守護兵が、従者が、その凶刃によって倒れていく。


後方から敵兵に攻撃され、前方からは魔獣の襲撃が後を絶たない。

ウェル達は魔獣達の注意を後方の敵兵に向けさせて一気にその場を離脱した。

その途中でもう一人の守護兵も致命傷を負い、その場に倒れてしまった。





……この後のことは、ウェルの記憶に触れて追体験した内容と同じだね。

ベンダーは敵兵と魔獣の群れを足止めする為にその場に残り、ウェルとレイラは道中でビーウェに襲われた。


そしてウェルは聖人となり、レイラは魔道具の材料にされた。

ウェルは懐から魔道具を取り出してテーブルの上に置いた。レイラの体の一部が入った魔道具の中には、まだ魂が残っている。フェリュスが持っていた魔道具の内、レイラだけは魂を開放しないまま残していた。

それはウェルと共に本国へと帰す為。レイラがベンダーから受けた約束を、半分でも叶えてやる為だった。



「……聖人になり、奴隷とされたが、ここにいるメアに助けてもらった。そして、今は王国に戻る為に力を借りている」



そう締め括り、ウェルの回想は終わった。

改めて聞いても、悲惨としか言い様が無いね。


アージリナはウェルの話を表情一つ変えずに聞き入っていた。

感情は酷く揺れ動いていたが、それでもウェルにそれを悟られないように。



軍事都市内での襲撃、騎士と従者の裏切り、兵士の反乱、仲間の死、そしてウェルを奴隷に落とされた屈辱と憎悪。

それにベンダーはアージリナの父親だ。いくら強者であろうと、敵兵と魔獣の群れを相手取って無事であるはずも無い。

父親の喪失も理解しているはずだが、アージリナから悲愴は感じられない。



「……本当に、よく生きていてくれた。メア、だったか? ウェルを救ってくれたこと、感謝する」



アージリナは立ち上がり、深々と腰を折った。

そこに言葉通りの思いが込められていることを感じとり、俺は素直に感謝の言葉を受け入れた。




ウェルの回想が終わり、次に待っていたのは説教だった。



「状況は理解した。グラン連邦国で謀反が起きている、だから王国に行って現状を確かめたいということだ。ならば、隠密行動をすべきだった。……何故、地竜を引き連れている? 伝説とされる地竜を使役していれば目立つことは阿呆でも分かることだぞ? まさか、変装していればバレないとでも思ったか? 魔力感知の鋭い者なら造形を使っていることは直ぐに見破られる。そんな素性も得体も知れない存在を、王国が許可するとでも? それとも何か? サン・ホセ・デル・グアビアーレの兵士なら容易に騙せるとでも思ったか? 私が直々に鍛えた兵士達だ。王国の兵士よりも質は上だぞ。もし他の軍事都市だったとしても、地竜を使役獣として登録する愚者はいない。世の中舐め切っているとしか思えん。そんな温室育ちにした覚えはないが、王国では何を学んでいたんだ? やはり、国王と父上の教育方針を是正しなかったことが間違いだったか。問題が片付いたら、私が直々に教育を施してやらねば」



説教が進むに連れ、アージリナの圧が強くなり、ウェルの存在がちょっとずつ小さくなっていく。

大人と子供、というより小型犬って感じだね。


立場上はウェルの方が上なんだけど、説教はごもっともなので言い返せない様子だね。



「地竜使役したんは兄ちゃんやん」

「っ!?」



説教の様子を見ながらお茶を啜っていたところに、クリュスが爆弾を投下する。

ボソッと呟いたクリュスの言葉に反応し、アージリナの首がぐるんと回った。



「……ほう。メア、元凶は貴殿か」

「いやその、馬がいなかったから、仕方がなく……」

「馬ん代わりに、フェリュス卿に馬車引かせててん」

「ちょっ、クリュス!?」

「馬の代わりに人間に馬車を引かせて王国に向かおうとしていたのか? 貴殿に常識というものは無いのか?」

「常識も地獄にポイ捨てしてきたんやろな」

「しーっ!」



クリュスの告げ口にアージリナが口角を上げる。それは悪魔が畏れを抱くほどの笑みだった。

クリュスはそれを見て笑いを堪えている。この野郎、楽しんでやがる!

そしてウェルは説教仲間ができて頬を頬を綻ばせている。いや、アージリナの視界に入っているから、そんな顔しないで! 説教の圧が高まるから!



「安心しろ。もう二度と常識を手放すことが出来ないよう、私が直々に教育してやろう。骨の髄まで常識とは何かを刷り込んでやる。クリュス、勿論君もだからな」

「うぇ!?」



急に標的に加えられて驚くクリュスと、説教仲間ができて頬を綻ばせる俺とウェル。



「ふふふ、今から楽しみだ。さぁ、その為に早く王国の問題を片づけてしまおうか」

「「「……ハハハ」」」



新たな問題の発生に、俺達3人は乾いた笑いしか出なかった。


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