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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第2章 畜生の道
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悪魔の新たな仲間


晴れやかな空の下、馬車が風を切りながら森林の上を飛んでいく。


俺は幌を捲って馬車の下を覗いた。流れていく木々の影に、多くの魔獣が潜んでいる。

もう少しで危険地帯を抜けるというのに、魔獣の数は一向に減らない。


この辺りにいる魔獣は脅威にはならないけど、群れを処理するだけでも手間が掛かるからね。

辟易としていた作業を省略できて良かったと、それに貢献した存在に目を向けた。



馬車を引いて飛んでいるのは、俺が手懐けた地竜だ。

破魂によって魂を閉じ込めていた殻を壊した後、押し込められていた魂は全身に広がった。

体と魂が重なる。それは何者かの束縛を完全に打ち破り、自由を獲得したことを示していた。


それを確認して、最初はそのまま放置するつもりだった。

鈍重な体躯で馬の代わりになるとは思わなかったし、何よりこれ以上地竜が自由になる邪魔をしたく無かったからね。


それを阻止したのはウェルだった。

地竜が目を覚ますまでは見守ろうと言い出し、地竜の近くに歩み寄っていった。

口にした言葉は献身的なものだったけど、その表情を見れば意思を読まなくても分かる。


ウェルは地竜を目の当たりにして興奮しており、興味津々で地竜を観察していた。

気を失っている状態だからか、地竜に触ったりはしない。けど、体を小刻みに揺らし、手を上げ下げしている。

……必死に触りたい欲求に抗っているんだろうね。



地竜は一時間も経たずに目を覚ました。

魂を壊した影響により最悪の場合は目覚めないという可能性もあったから、目を覚ましてくれたことに安堵したよ。


想定していたよりも破魂によるダメージは大きくなかったようで、自我も失われていない。

というよりは、解放されて自我を獲得したといった方が正しいのかな?


押し込められていた魂が体に馴染むには時間が掛かるようで、体の動きは今までよりも緩慢としている。

それでも魂は全身に広がっているから、時間が経てば体も自由に動かすことができるだろう。



今度こそと思って腰を上げると、今度は地竜が寄り添ってきた。

殺意や敵意は無く、むしろ好意を向けられて。



「クルルルル……」



低く唸りながら首を垂れ、額を俺の体に擦り付ける。

羨ましそうに見つめてくるウェルを視界から外して地竜のみを捉える。


地竜は知能が高い。だから俺が攻撃した理由を正しく理解しているのだろう。

空虚だった瞳に意思が宿り、その思いを俺に伝えてくる。


念話を使わなくても思いを知ることはできた。それは俺だけでなく、ウェルにも伝わったようだね。

移動速度を考えれば地竜は駄目だろうと思ったんだけどね。ウェルから潤んだ瞳で懇願されたらさ、断ることなんてできないよ。



そんなわけで地竜に馬車を引っ張ってもらうことにしたんだけど、移動速度に対する俺の判断は間違いだった。

肉体による移動速度は確かに遅いけど、地竜にはそれを補って余りある魔法があった。


それが今も行使している重力魔法だ。重力魔法は言葉通り、重力を操作する為の魔法。

この魔法は重力の強弱だけでなく、重力の流れをも操作できる。

重力を線でイメージすると分かりやすいね。上から下へ流れる重力線を一点に収束させれば重力点によって穴を穿ち、流れを反転させれば攻撃を跳ね返す障壁となる。

重力線を横向きにすれば、その流れに乗った物質は横に向かって落下していく。それが地竜の移動方法だった。


体はまだ動かせないのに魔法は問題なく行使できるようで、地竜は魔法による高速移動を続けていた。

浮いた状態だから、高速飛行といった方が正しいかな。


正面から来る強風はクリュスが受け流している。

クリュスが受け流していなかったら、今頃馬車は跡形も無いだろうね。


そしてウェルはというと、もう我慢することを放棄して地竜の背中に乗っていた。

……地竜も心なしか嬉しそうにしているし、楽しそうだからいいか。


なお、フェリュスは馬車の後方で立ったまま固まっていたが、こちらも放置で。



重力魔法の利点は、地球の重力を利用しているということだ。大きい力を生み出すのではなく、大きい力を制御する為の魔法。

だから魔力の消費が少ない割に大きな威力を発揮できる。


その分制御が難しいはずなんだけど、地竜にとってこの程度の魔法は負担にならないらしい。

それを証明するかのように同じ速度で飛行し続け、あっという間に危険地域を抜けた。




日が傾く前に俺達は地に足を着けた。今は夕方のはずだけど、厚い雲に光が遮られてすっかり暗くなっている。

朝晴れていたように、ずっと雨が降っているわけではない。逆に言えば、雨の降らない日が無い。どうやら今は雨季のようだね。


馬車の中で雨音を聞きながら、脳内に地図を表示して現在地を割り出す。

コロンビアの首都ボゴタまではまだ距離がある。問題は距離だけでなく、アンデス山脈を渡らなければならないことだね。

コロンビアの南部にいた人々は首都に集まり、軍はアンデス山脈を防衛ラインとして魔獣の侵入を死守している。


アンデス山脈を越えてくる魔獣は滅多にいないけど、一体でも侵入を許せば首都に密集した人々は恐慌状態に陥るだろう。

だから常にアンデス山脈は監視対象であり、魔獣の強さに関係なく出現した瞬間に軍が出動し、これを討伐する。


ここが問題なんだよね。地竜なら山越えも余裕なんだけど、地竜に乗っていたら確実に敵認定されるだろうし。

使役する魔獣を首都に連れて行く為には、特別な通行許可証が必要となる。

フェリュスも通行許可証は持っているけど、記載している魔獣は華流馬になっているからね。


首都でも発行できるけど、審査は厳しく常に混雑しているようだから、他の都市で発行してもらった方がいい。

そのための目的地として選んだのが、ここから一番近い都市だった。



コロンビア南部に住んでいた人々は魔獣を恐れて首都に流れ込んだ。それによって無人になった都市に国は軍事施設を設置した。

これらの都市は軍事都市と呼ばれ、住民の半数が軍関係者だ。残りは商人と農民、それから奴隷だね。


そして、俺達の最初の目的地はこの軍事都市の一つだ。

都市の名前はサン・ホセ・デル・グアビアーレ。昔からある都市らしいけど、千年前からあるのかは俺は知らない。


まぁ、軍事施設を設置する段階で住宅の再建や防壁の建築等もあったからね。

昔の光景を知っていたとしても、もう面影すら感じられないだろう。



既にサン・ホセ・デル・グアビアーレは視界に捉えていた。

地竜の速度で行けば、日が沈む前に到着できた。けど、さすがに軍事都市に地竜で飛んでいくのは自重したよ。

魔獣を使役する商人も多いから、通行許可証を持っていなくても魔獣に馬車を引かせているだけなら直ぐに攻撃されるということはない。

ただし、通行許可証があっても厳重なチェックが実施される。通行証が無いと基本的には門を通ることができず、門外で通行許可証の発行手続きを行う。

そして全ての責任は魔獣の所有者が負い、使役する魔獣が危害を加えた場合は即処分、そして魔獣の所有者も奴隷落ちか死刑となる。


フェリュスは華流馬で行き来をしていたのだから、華流馬クラスなら問題は無い。

けど、華流馬よりも地竜の方が明らかに危険だ。ウェルも図鑑でしか見たことがないと言っていたし、他の人間にとっても未知の魔獣ってことだからね。

いくら従順なところを見せつけても、許可は降りないだろう。


それに、クリュスとウェルも都市の中に入れるべきではない。

クリュスは魔獣で、翼と爪が目立つからね。マントで隠したところで限界がある。


ウェルに関しては判断できない。国の情勢が分からないうちは、表に出すのを控えた方がいいだろう。

敵が出てきたら処理するけど、今は国に戻ることが最優先だからね。



そうなると、明日からはフェリュスと二人で行動か。

幌を捲って外を覗くと、また木の前でフェリュスが棒立ちしていた。

……明日からが凄い憂鬱だね。



ドシン、と大きな地鳴りがして、そちらに目を向けると地竜がいた。地面の窪みからして、上から落ちてきたみたいだ。

その大きな口には、地竜より一回り小さな魔獣が加えられていた。

頭の大きな蜥蜴、頭はワニっぽい。見るからに狂暴そうな魔獣は、全身を押しつぶされ、体から血を零していた。

目玉は零れ落ちて無くなっており、口から内臓が飛び出ている。


地竜の重力魔法によって圧殺された死骸は、中々にショッキングな見た目になっている。



「メア、見て! ランガがこんなに大きな獲物を仕留めたんだ!」

「……そうだね」



それなのに、ウェルは引いた様子もなく燥いでいた。

ウェルは昔から地竜に憧れを抱いていたようで、地竜の聞きしに勝る雄姿を見て童心に帰ったまま戻ってこない。

ランガという名前まで付けてしまったから、もう手放す気は無いんだろうな。



クリュスに風で雨の侵入を防いでもらいつつ、食事をしながら明日からの予定を告げた。

なお、食事は魔獣肉のステーキだった。魔獣も毒が無ければ食べられるそうで、ウェルもクリュスも気にせず食べていた。

俺も食べてみる。少し臭みはあるけど、普通に美味しい。淡泊で鶏肉の触感が懐かしいね。


予定を告げた後、二人から否定の声が上がった。



「兄ちゃん達だけズルいわ。俺達も連れてってや」

「別に、遊びに行く訳じゃないよ? 通行許可証を手に入れて、国の情勢を聞き出して、後は物資を調達したら直ぐに出発するし」

「交渉や調査は僕の方が適任だろう。それに、その、二人だけで行かせるのは危険、……いや、不安だ」

「言い終えた後で言い換えないでよ」

「危険なんは確かやん? 方や何仕出かすか分からん危険人物、方や直立不動の廃人。問題が起こらん方が可笑しいやん」

「反論できぬ」



口にした通り、何も反論できずに全員で行くことになったよ。

まぁ、確かに廃人と化したフェリュスに命令を下しつつ情勢を聞き出すとか、俺には無理だからね。

襲ってきた奴から情報抜き出せばいいよねって考えていたから、危険人物扱いされても否定できないし。


全員で行くなら、解決しないといけない問題がある。


ウェルは口元を布で覆って隠せば何とかなるかな。

クリュスは手足の爪の長さをある程度なら調整できるようで、最短にすれば人間の手とあまり差はない。

まぁ、翼はどうしようも無いし、手もよく見れば骨格の違いがバレてしまうから、マントは脱げないけどね。


一番の問題はやはり、地竜だね。

奴隷紋を刻んで見せれば問題ないんだろうけど、地竜には奴隷紋は刻まない。

地竜は俺達を認めていて、好意を持って接している。だからウェルがべったりくっ付いていても嫌がる素振りを見せない。

嫌がるどころか、地竜も喜んでいる様子だけどね。他の生物と接することはできなかったから、恋しく思っていたのかも知れない。


そんな地竜に奴隷紋を刻むという案が出るはずも無く、ならどうしようかと意見を交わした。

その結果、魔獣を使役するのに使われる首輪と足枷を着けることにした。

奴隷達に着けていた手枷と同じ物だが、本物は馬車に積んでいないし、あったとしてもウェルが断固拒否していただろうね。

だからウェルが土で作った偽物を地竜に装着している。硬度も鉄並みだから、そうそう壊れることも無いだろう。



不安は残るけど、とりあえず準備は完了したし、後は成り行きに任せるだけかな。

どれだけ手を尽くそうと対処できないことは多いからね。

想定外を無くすことは無理だから、想定外に対処できるように余裕を持って構えていないと。


……決して、考えることが面倒だとか、強行突破すればいいやとか考えている訳では無いよ。

何故か胡乱な目を向けるウェルとクリュスに対して、そっと心の中で言い訳を呟いた。



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