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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第2章 畜生の道
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地竜と悪魔


『地竜……』



……この世界には竜までいるのか。

まぁ、悪魔や魔獣がいるんだから、竜がいても不思議ではない、のかな?



地竜は俺の姿を捉えている。それなのに、襲い掛かることも逃げ出すこともせずただジッと居座っている。

地竜と目を合わせるも、揺らぐことのない澄んだ眼からは感情を読み取れない。


感情の揺れが発生したのは、隣からだった。

目の端で様子を伺うと、ウェルが目を見開いたまま硬直していた。



「ウェル、大丈夫?」

「っ!? あ、ああ、大丈夫。驚いただけだから」



地竜に敵意も害意も無いことを察知しているから平然としているけど、それが感じ取れないウェルは警戒心を解かずに声だけを返してきた。

まぁ、自分よりも大きな魔獣を目の前にして警戒心を解く方がどうかしているんだけどね。



「地竜って珍しいの?」

「……少なくとも、僕は初めて見る。図鑑でしか見たことが無かったよ」



俺が気軽に話しかけているせいか、危険が少ないと感じ取ったようで、ウェルも緊張を和らげた。



『兄ちゃん、地竜は止めといた方がええよ』



クリュスから念話が飛んできた。こっちはウェルと違って最初から落ち着いた口調だね。



『そんなに危険なの?』

『地竜は大人しい性格や。けど、攻撃したら相手を仕留めるまで止まらへん』



敵には情けを掛けないタイプね。そこは共感できるよ。



『それに見境無くなるんが怖いんや。竜種は魔法に長けとるで、本気で暴れられるとここら一帯が更地になるわ』

『えぇ……、質悪いね』



頭の中で会話を重ねつつも、視線は地竜の目から放していない。

いくら覗き込んでも、そこからは一切の感情が読み取れない。


徐に足を進める。ウェルとクリュスから静止の声が上がるも、それに答えることなく歩き続ける。

地竜の目の前で止まり、至近距離で目を合わせる。それでも、まだ感情に変化はない。


手を上げて、地竜の額に触れる。


地竜の瞳に、色が点った。


動きは無い。触れるだけなら問題ないみたいだね。

漸く生まれた警戒心をむき出しにして、俺を見据えている。

でも、先に手を出すということは無いみたい。


触れた手を経由して地竜の魂を感知する。

それは、今まで感知してきた魂とも該当しない、歪な魂だった。


普通、魂は肉体に重なるように存在し、肉体が死滅した後は球体となる。

それに対し、地竜の魂は既に球体となっており、体の中心部に鎮座している。

そして体の表面にだけ魂が重なっている。中心部以外は空洞になっている状態だね。


歪である原因は、表層と中心部で魂の性質が違うせいだ。

悪魔だろうが人間だろうが、魂の性質は単一だ。悪魔は異なる複数の魂を取り込んでいるけど、自我を形成する魂は単一の性質となる。

悪魔や魔獣が魂を捕食した時に一時的に異なる性質の魂が混在することはあるが、それも一時だけ。

地竜は二つの性質の魂が混ざり合うこともなく存在する。



表層と中心部の魂をそれぞれ感知していく。

表層からは、何も感じ取れない。確かに魂に触れているのに、意思が一切無い。

意思が揺れ動かないから同調することもできないね。


警戒心を発しているのは中心部の魂だった。

ここからははっきりと意思を感じる。


今抱いている意思で最も強いのは困惑だね、

まぁこれは俺の行動に驚いただけだろうけど。

攻撃の意思を持たないまま額に触れられたことなんて無いだろうからね。


困惑に続いて強いのが、恐怖。

原因は俺ではない。これは、自分の体を自由に動かせない所為だ。


俺は思わずウェルに目を向けていた。

この恐怖は、自らの意思で体を動かすことが出来ず、操られて意思と反する行為を強要される、ウェルが感じていた恐怖とそっくりだった。



つまり、この地竜も奴隷なのだろうか?

だが、地竜には首輪も奴隷紋も見当たらない。


誰に束縛されているのかは分からない。

けど、何で束縛されているのかは分かる。表層の魂だ。


本来の地竜の魂は中心部にある魂で間違いない。

それを押さえつけるように表層の魂があり、それが原因で魂が中心部に追いやられている。


個を抑え込み、命令を植え付ける。

魂を感知してここまでは読み取れたけど、実際に何を命令されているのかは分からない。

まぁ、クリュスの話が正しいなら、攻撃した敵を殺せって命令は下されていそうだね。



詳しいことは中心部の魂に干渉しない限り分からないけど、表層の魂が邪魔をして同調すらできない。



もう一度、地竜に目を合わせる。魂と瞳から心境を読み取る。


警戒心は、誰にも近づいてほしくないから。

恐怖は、誰も傷つけたくないから。

諦念は、己の運命を甘受したから。



全く、奴隷達の時も思ったけど、諦念を抱いた奴らの魂には干渉したくないね。

これが一番、俺の神経を逆撫でする。



醜く藻掻いて、周りを巻き込んで、それでも叶わずに死が確定したら、その時に諦めればいい。

それまでは、何一つ諦める必要はない。



「ウェル、クリュス」



口にした言葉は、念話も重ねて発している。

だから問題なく届いたようで、二人とも意識を俺に向けた。



「ちょっと離れてて」

「何を? まさか!?」

『いくら兄ちゃんでも危険やで?』



地竜に危害を加えるのだろうと予測してウェルが声を荒げる。

危険性をよく知っているクリュスも、注意を促す。



「大丈夫、すぐ済むから」



これ以上言葉を重ねても意味がないと察したのか、二人が距離を取る。

少し時間をおいて距離を確保してから、俺は地竜に念話を流し込んだ。



『死にたいなら殺す。生きたいなら手を貸す。どうする?』



念話を流した瞬間、地竜が立ち上がった。

念話は魔力に意思を込めて送り出すけど、これだけでも攻撃だと思われたのかな?


地竜の口が開いて前足を掲げた。獰猛な牙と鉤爪が脅威を示す。

臨戦態勢に移ったようだけど、その瞳に戦意は無い。



魔法の兆候を察して後ろに飛び退いた。

一拍して、元居たところの地面が陥没した。

使っているのは重力魔法みたいだね。


地竜が前足を振るうと、鉤爪から魔力で出来た刃が空を走る。

動作は遅いけど威力が高く範囲も広い。


身体強化を使って速度を増し、地竜の側面に移動することで攻撃を躱す。

そのまま手に魔力を込めて、魔法を放とうとした。



「っうわ!?」



だが、地竜に触れる前に、見えない障壁に阻まれて後方に吹き飛ばされた。

魔力感知でも引っかからなかった反撃に思わず声を漏らしつつ、空中で体勢を整えて足から着地する。


木の陰に隠れつつ隙を伺い、今度は後方から接近した。

気配を察知したのか、地竜が迎撃の為に尾を振るうが、威力は高くても動作は遅いため容易に避けられる。


地面を跳ねて大振りの尾を躱し、背中に向けて手を伸ばす。だが、ここでも地竜に触れることはできなかった。

見えない障壁は、反衝のように跳ね返す効果を持っている。違うのは攻撃を受けて跳ね返すのではなく、一定の距離に近づいた物を弾き飛ばすところだね。


先にあの障壁をどうにかしないと、魔法を当てられないな。

上空に跳ね飛ばされながらどうするか手を考えていたが、手を抜いて対処できるほど地竜は甘くなかった。


魔力の兆候を感知し、咄嗟に空歩で横に飛んだ。だが、上から降りかかる重力に抗えず地面に落下していく。

圧が強くて横に逃げられず、下からは地竜が放った斬撃が飛んできた。



「"断斬"!」



下から迫ってくる斬撃を斬撃で相殺する。

だが、攻撃は斬撃だけではなかった。


地竜の口に魔力が収束している。

これはもしかしなくても、ブレス!?



場違いに竜の攻撃に興奮してしまったが、見たい衝動を抑えて空歩で横に飛ぶ。

けど、圧が強すぎて落下が止まらずどんどん地竜に近づいている。



……クソ、仕方がないか。



俺は迎え撃つ為に地竜に手を向けた。

出来れば傷つけたくなかったけど、自分を犠牲にするつもりは無いからね。



けど魔法を放つことは無かった。

体に圧し掛かっていた力が消え、強風で体を横に飛ばされた。


元居たところを地竜のブレスが走り抜けた。

衝撃波の塊のようで、直撃していないのに横に吹き飛ばされてしまった。


高威力のブレスに驚きつつも、重力の束縛が解けたことで難なく着地することができた。

飛ばされて開いた距離を詰める為、身体強化と空歩を併用して駆ける。


上空から地竜が放った魔法が降ってきた。


重力魔法は面積と威力が反比例する。魔法で発生する重力の総量は変わらないから、面積が小さい方が加える力を大きくできるけど、その分操作が難しくなる。

そのはずなのに、今の光景を見るとそれは嘘なんじゃないかと思えてくる。

地竜は重力を無数に分け、更に雨粒ほどの範囲に絞って重力を放った。

高等テクをこんなに簡単に実演されては、思考が現実逃避気味になるのは仕方がないと思う。


重力の雨が地面に降り注ぎ、地面に小さな穴を穿っていく。

避けることは不可能な攻撃。だが、避けるまでもなく攻撃は左右に分かれて落ちていった。



『そのまま進みぃ』

『ありがとう!』



これはクリュスの魔法によるものだ。

クリュスは風魔法に精通している。風魔法は風を操る魔法だと思っていたけど、正確には物質の流れに干渉する魔法だった。

だから魔力の流れに干渉することで受け流すこともできる。今のように。



攻撃地帯を抜けて地竜に接近する。

地竜は俺に背を向けたままだ。よく見ると、地竜の足元が地面に埋まっているのが見えた。

ウェルも、力を貸してくれているみたいだね。


俺は笑みを浮かべたまま、地竜の元に駆けだした。



地竜は強靭な肉体で地面を砕いて飛び出ようとする。

だが、抜け出した途端に地面が緩んで再び拘束されている。


ウェルの技量に感嘆しつつも、早く負担を無くす為に魔法を放った。



「"封縛"!」



地面から伸びた鎖が地竜の体に巻き付いていく。

何度か障壁によって反発されたが、封縛の効果の方が上回っていた。


地竜は身動きが取れなくなり、再び膝を折った。



地竜の正面に回り込むと、そこにはウェルとクリュスが待っていた。

二人に感謝を伝えてから、地竜の額に手を触れる。



『どうするか、決まった?』



再び念話で意思を投げかけた。

意思がちゃんと伝わっているのか、そもそも意思疎通できる知能があるのか。

不安はあったけど、答えは直ぐに返ってきた。



『シニタ、ク、ナイ。タス、ケテ』



たどたどしい言葉だったけど、意思はちゃんと伝わった。



『分かった。痛いけど我慢してね』



そう言葉を残し、俺は手に魔力を込めて地竜に触れた。

正確には、地竜を閉じ込める表層の魂に。



「"破魂"」



放った攻撃が表層の魂に罅を入れる。

それと同時に地竜の体が跳ね上がるも、それを無視して魔力を流し込んでいく。


中心部と表層の魂が離れていて良かった。

混ざり合った魂を分離したり、魂に含まれた不純物のみを取り除いたりすることは、深淵魔法をもってしても不可能だ。

でも、元から分離されてあるから、中心部の魂を傷つけることなく表層の魂のみを破壊できる。


それでも、魂が壊される痛みに違いは無い。

なるべく早く終わらせてあげないと。


卵の殻のみを粉々に砕くイメージで慎重に魔力を流し込み、十秒もしない内に表層を砕き切った。



そして、中心部にあった魂に干渉する。

痛みのせいで意思が希薄になっているが、それでも耐えきってみせた。

封縛を解除し、最後にもう一度念話で意思を伝えた。



『よく頑張ったね。これで、お前は自由だよ』



朦朧とした意識の中でもちゃんと俺の意思は届いたようだね。

地竜は力を振り絞って立ち上がり、空を見上げて咆哮を上げた。


そして、地竜は事切れたかのように地面に崩れ落ちた。



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