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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第2章 畜生の道
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悪魔を動かす強い意思


クリュスとの雑談を楽しんでいる中、一応この施設のことについても教えてもらった。


ここが魔道具を作る為の施設だっていうことは分かっていたけど、一応聖教会の持ち物らしい。

聖教会では魔獣の討伐も仕事の内に含まれているらしく、魔道具はその為の道具として製造・所持が許可されているのだとか。

一般に知られている魔道具は魔法の補助の為の道具だから、訝しく思う者はいないだろうね。実際には人間を材料にした自動魔法発生器なんだけど。



神官達が奴隷になる光景を眺めながら、今後のことを考える。


神官達を奴隷にしたのは闇の意思を尊重した結果であって、その後のことは全く考えていないんだよね。この施設を維持する必要もないし。

奴隷にしといて使わないという暴挙。まぁ、後のことは奴隷達に任せよう。同じ思いを味わわせたいなら好きなようにさせればいいか。



まぁ、神官数人を奴隷にしたところで無意味なんだけどね。聖教会の信者は世界人口の半分以上なのだから。

たかが数人の神官を奴隷にしたところで、根本的な問題解決になることは無い。この施設が無くなろうと、奴隷制度も魔道具作りも、無くなりはしない。


本気でやるなら、聖教会を潰して奴隷制度を廃止させなければならない。

でも、その必要性は感じられない。俺に関係ないことだし。


元々は俺が住んでいた世界だったとしても、それからもう千年以上も過ぎている。

この問題は、今を生きる人達が解決すべきだろう。



俺に関する事柄であれば、関係者になるわけだから手を出しても問題は無い。

まぁ、俺の意思じゃなくても闇の意思に干渉した場合はそれを遂行しようと動いてしまうんだけどね。

そこはほら、悪魔の王だからってことで。言い訳には、なるかな?



千年の眠りから覚めてから、俺の意思は闇の干渉を深く受けている。

何百、何千という意思の干渉を受ければ、自己の意識が希薄になるのは仕方ないか。むしろ、この状況でも個の意思を確立していることが奇跡かな。


だからこそ俺の根底は変わらないし、変えられないんだけどね。





神官達が全員奴隷になるのを見届けてから、フェリュスとクリュスを連れて魔道具作りの工房に向かった。


工房には神官は勿論のこと、神官の仕事を手伝う奴隷もいない。

ここにいるのは、魔道具の材料とされた者達だけだ。


工房は外の光を取り込んでいる為、破邪天明の効果が強い。

黒衣を纏っているけど直接光に触れたらまた動けなくなるんだろうな。……というか、既に体が怠いんだけど。



陽の光で照らされた作業台の上には、人間だった物が散在している。

作業台の上には4つの魔道具。もう一つは作りかけのようで、両足を切断された死体が横たわっていた。

目の前の惨状を見ても、あまり心が動かない。本当、慣れって怖いよね。



黒衣に魔力を供給して破邪天明の効果を相殺しつつ、黒衣で作った針で作業台に刻まれた魔法陣に傷をつけた。

死体に掛かっていた魂魄保護が解け、魂が死体から抜けていく。

魂が抜けた瞬間に破邪天明の光によって穢れが浄化され、白い魂が光の元へと昇っていく。


それを見届けた後、残りの魔道具に目を向ける。

これは魔道具自体に魂魄保護が刻まれている。それを壊さないと魂は解放されない。



「フェリュス、魔道具を出せ」



フェリュスが所持していた魔道具も含めて、その一つ一つを手に取っていく。

光が射す工房の中でも、黒衣に包んで直接触れれば何とか魂を感知することができる。


その意思を感知して、魂魄保護の魔法陣が刻まれた部分を壊す。中から粘性の液体が垂れ、体の一部が目に留まる。


それを作業台に戻した途端、死体と同じように穢れが剥がれて白い魂が昇っていく。

それを繰り返し、一つの魔道具を残して全ての魂を開放した。


本当なら輪廻天昇を使って魂を開放してあげたかったんだけどね。

今はもう、魔力が変質してしまったせいで聖霊魔法は使えない。


破邪天明の光の先も、輪廻の輪に繋がっているといいんだけどね。





一つの魔道具を手に持ったまま、工房を後にする。


次に来たのは、工房の横にあった洞穴。そこに、残りの素体が乱雑に寝かされていた。

気を失っているけど、まだ生きてはいるみたいだね。


奴隷に着けられた首輪には隷刻印が刻まれているだけで、主人なら簡単に外すことができる。

フェリュスに命令して首輪を外させた。怪我をしている者もいるけど五体満足のようだし、この後どうするかは本人に任せればいいか。

目を覚ますのもまだ先だろうし、説明は後で神官にでもさせればいいかな。



一通りやることを終えて、少年とドルフの元に戻ってきた。

少年の腕は綺麗に治っている。まだ一時間くらいしか経っていないんだけどね。


ドルフの使う再生魔法は対象の生命力を使用する。魔力だけで手足を再生している訳では無いから、対象の生命力に大きく依存する。

特殊な魔法を使いこなすドルフもすごいけど、少年の生命力も凄まじい。これも聖人だからなのかな?


フェリュスに命令してドルフの首輪を外させた。

成すがままになっていたドルフが、状況を理解できずに茫然と佇んでいる。



「これで、自由だよ」



俺の言葉を聞いても呆けたまま突っ立っている。

その目は混乱に揺れ、悲愴に染まっている。


魂に干渉しなくてもドルフの感情は手に取るようにわかる。

静寂が、ドルフの抱えている恐怖を駆り立てていく。



「……儂は、これからどうすれば?」



ドルフが時間を掛けて感情を発露させる。

それに答えることはできない。言えるのは、ありきたりな言葉だけ。



「好きなようにすればいい」



結局は、己の意思に従って生きること。どんな世界であっても、それが全てだろう。



今までの行いが罪かどうかなんて、法律のような目安が無ければ本人次第だ。

ドルフの場合、死にたい奴隷を延命させて苦痛を引き延ばしたことを罪としているが、それは命令されてやったこと。

俺から見たらドルフの罪ではないように思うけど、闇の中にはドルフに恨みを持つ奴隷も確かにいた。


誰の気持ちを尊重するかによっても、罪の見方は変わってくる。

だから、自らが過ちと認めるなら罪を償えばいい。正義と思うなら貫けばいい。

そういう意味でも、好きなようにするしかないよね。



困惑が晴れていないドルフを放置して、もう一人に視線を向けた。


少年の奴隷紋は、残念ながら外すことができない。


奴隷紋は契約魔法の一種。だけど、双方の合意なく一方的に契約を締結する方法がある。



所有表明という魔法がある。これは所有権を表明する為の魔法。

魔法陣に魔力を流すと文字が浮かび上がり、その所有者の名前を表示することができ、その所有物の場所や状態を把握することもできる。


窃盗防止に有効であり、広く普及している魔法。

本来は生物には掛けることはできないけど、生物でなければ、具体的には死体であれば効果を発揮することができる。



だからこそ、少年は一度殺され、死んで聖人に生まれ変わる間に魔法を掛けられた。



そして、魔法付加によって所有表明に隷刻印の効果を付与する。

物体に使用しても何の意味も無いし、生物には使えない魔法だけど、蘇生という特定条件でのみ発揮する魔法。まぁ裏技だよね。

誕生した時点で発動している魔法は本人の意思で拒絶することはできない。

奴隷紋がある状態が正常であると誤認してしまう為、奴隷紋を解除しようとすると生命に影響を及ぼす。


この魔法を解除する為には、魔法を掛けた時の状態にしなければならない。

つまり、生物として死ぬまで、この魔法を解くことはできない。



まぁ、奴隷紋を解くことはできないけど、所有者はフェリュスから俺に変更済。

攻撃でもされない限りは使うつもりも無いし、もう奴隷として生きる必要はない。

聖人となってしまったけど、傍から見れば普通の人間と大差ないし、首元の痣だけ隠せば問題なさそうだね。



俺は少年に歩み寄り、持っていた魔道具を渡した。

それを手に取った少年は、徐に膝をついて両手でその魔道具を握りしめた。

……どうやら、この魔道具の中身は知っていたみたいだね。



「レイラから託された。一緒に国に帰ろう」



俺の言葉を聞いて、少年は体を震わせながらも握る力を強めた。



レイラは、死んだ今でも少年を思い続けている。

魔道具に詰められてもなお、少年の手助けとなることを望んでいる。


ベンダーとの約束はもう果たすことはできない。

それでも、少年を国に送り届けたい。



その意思に干渉し、それを叶えたいと思った。

だからこそ、壊さずに少年に魔道具を渡すことにした。


少しでも少年の役に立てるように。

そして、母国でその魂を解き放てるように。



「すまない、すまない。レイラ……」



少年の口から嗚咽が零れる。こうやって見ると、気丈に振る舞っていてもやっぱり子供なのだと思う。

まぁ、生前の俺と同い年くらいなんだけど、精神年齢は俺の方が上、なのかな?


同い年の人に少年と呼ぶのも可笑しいかな。

でもウェルフェンスって名前長いんだよね。毎回呼ぶの大変だし、俺も愛称で呼ばせてもらおうかな。



それについては、ウェルが立ち上がってから聞いてみよう。



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