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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第2章 畜生の道
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悪魔の好きな物


フェリュスに魂魄隷化を施して、漸く一息吐いた。

フェリュスを手中に収めてしまえば、奴隷達からの攻撃も阻止できる。

最深部に来た神官達は全員死んでいるし、他の場所に神官が残っていたとしても、フェリュスの魔法で倒せる程度だから問題ないね。


後は、無事にこの場を離れること。

……それが結構大変そうだけどね。


落石が雨のように降り注ぐ。魔鉱石の光が弱まり、周りは徐々に暗闇に包まれていく。

暗視があるから暗闇に包まれても落石は避けられるけど、問題は体を覆っていた魔力が減少していることだね。


最深部が崩壊するにつれ、破邪天明の影響も戻ってきている。

崩落の範囲にもよるけど、もし破邪天明の光を直接浴びてしまうと身動きが取れなくなるからね。


生き埋めになっても死ぬことは無いと思うけど、俺以外は無理か。


周りには少年とフェリュス、ドルフの三人。

少年とドルフの魔界の門は元に戻してある。支配権を獲得したから、もう攻撃される心配は無いからね。


少年には魔法行使を許可している。

砂塵が落石を受け流しているお陰で、落石に頭を小突かれる心配は無くなった。

まぁ、普通は直撃したら頭が陥没するだろうけどね。



受け流している落石は壁際に堆積していく。既に通路は埋まっていて通れないね。

通路自体が無事かどうかも分からないし、崩落が止むのを待った方がいいかな。


そう思っていたら、少年が砂塵だけでなく落石をも巻き上げて通路の一つを確保していた。

砂塵よりも動きは遅いけど、それでも数多の落石を操作している光景を見て少年の強さを再確認した。


取り込んだ知識から、この世界には貴族階級があり、上位の貴族ほど魔力も高くなるらしい。

その頂点になる王の血を引く者なら、なおさら魔力量も高いのだろう。


少年でここまで強いのなら、王自身はどれほど強いんだろうね。

人間相手なら負けないと思っていたけど、これは破邪天明が無くても手古摺りそうだ。



後ろで崩落の振動を感じつつ、通路を駆け上がっていく。

まだ魔鉱石の光が消えていないけど、この通路も崩壊は時間の問題だね。


フェリュスは致命傷を受けていたが、ドルフの魔法によって一命を取り留めている。

だからフェリュスに身体強化を使わせてドルフを運ばせている。

ドルフは身体強化は使えないみたいだからね。こういう時の為の奴隷だから、粉骨砕身で頑張ってもらおう。


一方で、少年は魔法は凄まじいのに、身体能力はあまり高くない。

身体強化を使って無理やり体を動かしている感じだ。単純に、体がまだ馴染んでいないんだろうね。


聖人になれば身体能力や魔力の伝達率が激増するらしい。

体を強くするというよりは、体を道具に作り変えたって感じだよね。

今はまだ馴染んでいなくても、時間が経てば今まで以上の身体能力を得ることができる。

そうと分かっていても、死んでまで聖人になりたいなんて思わないけど。



通路を突き進み、広い空間に躍り出た。

崩落の音はまだ止まないけど、振動はあまり感じない。

斜め上に向かって逃げてきたから、ここまで来ればもう崩落の心配はしなくても良さそうだね。


後ろに付いてきていた放心状態のフェリュスに声を掛けた。



「フェリュス、ここに神官は後何人いる?」

「8人」

「奴隷は?」

「人間の奴隷が2体、魔道具の素体が23体、魔獣奴隷が1体」



人間の奴隷は、ドルフと少年のことかな。

それ以外だと23人の奴隷が生き残っているのか。……魔道具の材料にされているなら、五体満足の状態なのかは分からないけど。


魔獣奴隷についても気になるけど、それよりも気になるのは想定していたよりも奴隷の数が少ないことだね。

俺に差し向けられた奴隷達の中にも生き残りはいた。あの奴隷達は捨て駒として使われていたけど、魔道具の素体だったのだろうか?



「他に奴隷はいないの?」

「現時点で確認できる奴隷は2体のみ。それ以外の奴隷は死亡した」

「俺との戦闘で?」

「否」

「なら、何で死んだの?」

「私の魔力が変質した影響により、心刻烙印を維持することができなくなった。心刻烙印を刻んだ107体の奴隷は全員焼死した」



それを聞いた時、悪魔になった時のことを思い出した。

俺の魔力も元々は白色だったが、悪魔になった後では黒色に変質していた。

フェリュスも同じ変化が生じたのか、白色だった魔力が灰色に変わっていた。



……間接的に、奴隷達を殺してしまったのか。


心刻烙印は奴隷の魔力を使って炎を発生させる。それを抑える為には主人の魔力で発動を阻止する必要がある。

その魔力が変質してしまったせいで、心刻烙印の発動を阻止することができなくなったのだろう。


フェリュスを殺しても心刻烙印は消えない。一度刻んだ印は、もう二度と消すことはできない。

どの道、救う手立ては無かった。けど、他に方法は残っていたかも知れない。



今さらどれだけ考えても、死んだ者は戻らない。

神や仏でも無いんだし、救えない命の方が多いなんて当たり前だろう。


自分の行いに後悔はしない。

でも、次に生かす為に反省はしないとね。

全ては無理でも、関わりを持った人たちは守れるように。



後は、死んだ人達が残した悪意を解消して、それを手向けにしようかな。



「心刻烙印を発動していた場所に、神官を集めて」



フェリュスは首肯した後、身動きすることなく通信用の魔道具で神官達に命令を下した。

これで神官達はまとめて処分できるし、残るは後1体か。



「魔獣奴隷はどこ?」

「外で警備をさせている」

「ここに連れてきて」



フェリュスは黙ったまま懐に手を入れ、ロケットペンダントを模した魔道具を取り出した。

魔道具を開くと、その中には小さな魔鉱石の粒が4つ埋まっている。


フェリュスはその中で唯一光っている魔鉱石に触れ、魔法を発動させた。



「"魔獣召喚"」



足元に魔法陣が形成された。魔力が変質しても召喚魔法は使えるのか。それとも、あの魔道具を使えば聖壁だけでなく召喚魔法も発動できるのか。

まぁ、どうでもいいか。とりあえず、魔獣を仕留める準備をしておこう。


黒衣の内側に魔法陣を形成し、いつでも黒槍を放てる状態にする。

フェリュスの奴隷だから逃げられることは無いけど、他の魔獣奴隷と同じなら生かしておく必要はない。



潜ませた殺意は、魔獣の召喚と共に霧散した。



そこにいたのは、鷹と人間が合わさったような魔獣だった。


少年よりも幼く、人間で言えば10歳にも満たないだろう。

鷹のような大きな翼に鋭い爪が魔獣であることを物語っているが、それ以外の部分はほぼ人間に等しい。

マントで翼と爪さえ隠してしまえば、魔獣だとはバレないだろうね。


端正な顔立ちで逆立った茶色の髪。こげ茶色の民族衣装のような服で細い体を覆っている。

鋭い雰囲気を漂わせているが、くりくりとした目と少しぷっくらとした頬に幼さを感じる。



「か、可愛い! 名前は何!?」



脊髄反射で声を掛け、目の前まで接近する。

魔獣は困惑した表情に変わり、緊張を強めた。



「えーっと、クリュス言います」

「クリュスかぁ」



イントネーションが少し可笑しい声を聴いて、ますます俺の顔が崩れていく。

久しく摂取していなかった可愛い成分が、荒んだ心を癒していく。


他の3人からの視線が気になるが、そんなことはどうでもいい。

今一番に優先されるべきは、俺の癒しだ!



クリュスの頭を撫でまわして可愛がっていると、クリュスは困惑した表情で視線を泳がせていた。



「え、ちょ、これ、何? フェリュス卿、この状況何なん? この人誰なん? ちょ、そんな揺らさんでや!」



クリュスは助けを求めるも、フェリュスは声を出すことなく静観している。

ドルフと少年も困惑した表情でただ突っ立っているだけだった。


止める者がおらず調子に乗って頭を撫でまわしていると、ついに耐え切れなくなったのかクリュスは翼を広げて飛び上がった。



「ええ加減にしてぇな! 剥げてまうやろ! てかフェリュス卿、説明してぇな!」



フェリュスが俺に視線を送ってきたから、発言を許可した。

俺は癒しの余韻に浸りたいから説明はよろしく。



「これは奴隷だ。だが、今は私の主人になっている」

「うん、意味わからん」



癒しの余韻に浸っている間、フェリュスは説明を続け、事の顛末をクリュスに伝えた。

クリュスはより困惑した表情で話を聞き取り、そして溜息をついて俺の元に降りてきた。



「状況は理解したわ。んで、自分は何で呼ばれたん?」

「処分するかどうか、確認するため」

「へぇ」



処分という言葉を聞いても、クリュスから恐怖は感じられなかった。

むしろ、好奇心を抱いているように感じる。



「魔獣なら即処分って訳や無いんか」

「うん。癒し、……クリュスは処分しない」

「そっか、命拾いしたわ。……ん? 癒し?」



良し、これで常に癒しを得ることができる。

ここにきて一番の収穫だね。


リフレッシュできたことだし、残りも片づけてしまおうか。



「ドルフ、少年の腕は治せる?」

「はい」

「じゃあ、お願い」



ドルフはそのまま少年の腕の治療を開始する。

敵対していたから腕を奪った事に後悔は無いけど、治せるなら治してあげたいからね。


それに、少年には残酷は光景は見せたくない。

ここに置いておくついでに治療させた方が効率がいいよね。



「フェリュス、神官のところまで案内して」



無言で歩き出したフェリュスに続いてクリュスと共に歩き出す。

見た目は子供でも、クリュスは魔獣だし、残酷な光景にも耐性があるだろう。


何より、癒しを手放したくない。これが一番大事!



「奇妙な展開やけど、まぁええか。よろしくな、兄ちゃん」

「あ、兄ちゃん……ほわぁ~」



凄い、幸せが内側から溢れてくる!



「……うん、あんま関わりとうないな」



脳内がぽわぽわして幸福感に酔っていた為、ぼそっと呟かれた言葉は耳に入らなかった。




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