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悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第2章 畜生の道
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毒毒しい悪魔


「"黒槍"!」



殺意を込めて黒槍を放つ。一撃で殺さないように威力を抑え、狙いは下半身に絞った。

魔獣なら下半身が吹き飛んだだけでは死なないよね。


槍は一瞬でビーウェの元へ飛来する。

だが、ビーウェは構えることなく一瞬で横に移動して槍を躱した。


黒槍は魔鉱石の壁に衝突して消滅した。衝突した部分に少し罅が入っている。

相変わらず堅い石だけど、地獄にあった魔鉱石よりは脆いかな。


それにしても、ビーウェの動きが以外に素早い。

狼やゴリラの魔獣のような雑魚と一緒と思っていると痛い目に合いそうだね。



「すごいねぇ。今の魔法、かなり強力だったよ」



ビーウェは新しい玩具を与えられた子供のように燥いでいる。

まだ余裕がありそうだね。強者故か、愚者故か。まぁ、どちらでもいいけど。


少年がいるからこの場で戦うのは避けたかったけど、来てしまったものは仕方ないか。



「結構楽しめそうだねぇ」

「なら、楽しんで死ね」



ビーウェに向けて駆け出す。対して、ビーウェはその場に留まったまま魔法を発動した。



「"毒沼"」



俺とビーウェの間に魔法陣が描かれ、そこから黒色の液体が溢れ出た。

俺は足を止めて後ろに飛んだ。普通の毒であれば効かないけど、もしあれが魔毒だと抜け出せなくなる。

一度受けて魔毒の解毒方法は分かっているけど、常に魔毒に曝されている状態では解毒のしようがないからね。


溢れ出る毒が平らな地面をゆっくりと侵食していく。

遮る物が無いせいでどんどん広がっていく。その先には少年もいるんだけど、ビーウェが気にしている様子は無いね。


少年はまだ痙攣が収まっておらず、膝をついたまま動けないでいる。

俺は少年の魂に干渉して門を開き、少年の魔力を使って砂塵を発動させた。


砂塵が吹き荒れ、空間を埋め尽くす。魔力を多く練り過ぎたみたい……。

大量の砂塵を毒沼の外周に堆積させ、毒の流出を堰き止めた。そのまま攻撃しようかとも思ったけど、少年の魔法で攻撃すると標的にされる可能性もあるから自重した。



「あ、ごめん、ウェルフェンス君のこと忘れてた。でもこの毒に触れても呼吸困難になるだけだから、問題ないよね?」

「問題しかない」



飄々とした態度に殺意が募る一方だ。

魔法だけでなく、存在がこの世の毒だね。



「んー、ただの麻痺毒だけど、いっぱい浴びちゃうと死んじゃうんだよねぇ。でも、魔毒は解毒されちゃったみたいだし、他の毒だと即死しちゃうし。……ま、大丈夫だよねぇ。死なないように頑張ってね」



だったら毒を出すなよとツッコみたいけど、これ以上言葉を交わしたくもない。俺にとっては一番厄介なのは魔毒だから、使わないのであれば好都合なんだけどね。

即死する毒も精神生命体には効かないけど、少年のことを考えると使われる前にどうにかしないといけないね。


そんなことを考えながら出方を伺っていると、ビーウェは毒沼に自ら入っていった。

そして、まるで生き物かのように毒沼がビーウェの体を上っていく。



体を毒が包み込み、青白い体と白髪が黒く染まる。

腕と足は毒によって倍以上の大きさを模り、禍々しい爪が伸びる。


……これは、接近戦は無理だね。



それだけに留まらず、毒沼から蛇が這いずり出てきた。牙どころか全身が毒の毒蛇。それが何十匹も蠢いている。

蛇の動きはそこまで早くないけど、放置しておくと足の踏み場が無くなりそうだね。


麻痺毒なら効かないんだけど、あいつの言っていることが本当かどうかも怪しいからね。万全を期して触れない方がいいか。

それに、まだ悪魔だとバレていないはず。今は人間の振りをしていた方が隙を作ることもできるだろう。

そうなると闇を使った攻撃はまだ出さない方がいいかな。



「"断斬"!」

「"硬化"」



手を横に振るって生み出した斬撃をビーウェに向けて放つ。

対するビーウェは毒沼の毒液を盛り上げて硬化を付加することで強固な壁を生み出した。


斬撃が壁を深く切り裂くも、後ろにいるビーウェまでは届いていない。



「"黒槍"!」



追加で放った黒槍が毒の壁を吹き飛ばす。黒槍は毒沼を弾き飛ばし、毒液を爆散させた。

だが、穿った穴の先にビーウェはいない。壁の残骸に隠れているのか、それとも毒沼に潜っているのか。

見渡してもビーウェは見当たらず、探している間に蛇が少しずつ近づいている。


蛇は毒沼から絶え間なく這い出てくる。数は……、地面一面に蠢いていて数える気が起きないね。



俺は両手を広げ、五指に魔力を込めて魔法を放った。



「"断斬"!」



十本の斬撃を蛇にぶつける。切り裂いた蛇は形を崩して黒い水たまりとなった。

ただ、数を減らしても意味は無いか。蛇だけじゃなく、毒沼自体をどうにかしないと。


そのためには魔法を発動しているビーウェを見つけなきゃいけないけど、姿が見えない。

探そうにも毒には触れないし、攻撃で炙り出そうにも、弱い攻撃だとさっき見たいに壁に防がれてしまう。


黒槍なら壁ごと貫けるから、運任せで乱発してみるかな?

でも、攻撃に時間を掛けると蛇がどんどん湧き出てくるからなぁ。


あれだけ蛇を量産しても毒沼の水嵩は減っていない。

それどころか少しずつ増えているようにも見えるし、毒沼から黒い蒸気も噴出されている。


……あれって毒霧だよね? 空気も汚染されているんだけど。あいつ、殺す気満々じゃない。

少年は勿論のこと、俺も殺しちゃ駄目だと思うんだけど? 悪魔だってバレているなら別だけど、そうじゃないなら頭おかしいよね。頭の中、毒で侵されてんの?



俺も心の中で毒を吐きつつ、打開策を模索する。

ビーウェを探し出しつつ毒を無効化し、敵を捕らえる魔法。


複数のことを一つの魔法で実行するのは難しい。

でも、複数の魔法を重ねることで実現することは可能だ。こんな風にね。



「"暗糸乱操"!」



地面に描いた魔法陣から黒い柱が出現する。それは黒い糸の塊。それが解れて髪の毛のように細い糸が宙を漂う。


暗糸乱操は索敵用の魔法。離れていても糸に触れた物を感知できるが、攻撃や拘束には使えない。

この魔法では蛇の一匹も仕留めることはできない。この魔法だけならば。



黒い糸が蛇に、毒霧に、毒沼に殺到する。すると、糸が溶けるように消えていった。触れた毒と共に。



暗糸乱操には黒衣の効果を付与している。それにより、触れた魔法を対消滅されることができる。

拘束力は相変わらずないからビーウェを捉えることはできないけど、これによって魔法で出来た毒は無効化できる。


空気中に漂う毒も糸が取り込むことによって霧散させている。俺なら吸い込んでも問題は無いけどね。

蛇は糸に触れてもすぐには消えないけど、糸が触れる度に刻まれていく。何重にも重なった糸がぶつかることで細切れになって水たまりに変わる。そして、その水たまりすらも糸で霧散していった。



蠢いていた蛇が一気にその数を減らし、そして毒沼の水嵩も徐々に減少していく。


すると、痺れを切らしたのか毒沼の中から黒く染まったビーウェが姿を現した。

まるで毒沼自体が盛り上がったかのような、巨大な体躯。どうやら。毒沼の毒を全て体に取り込んだようだね。


ビーウェは巨大な腕を振り下ろして毒で出来た爪を飛ばしてきた。宙に漂う糸が爪に触れるも、俺よりも大きな爪は勢いを削がれることなく飛来する。

俺はその爪を余裕を持って躱し、魔力を練って三重の魔法陣を形成した。



「"破刻一線"!」



三条の光線が一切の抵抗を許さず、ビーウェの顔面、胸、腹部の三か所に穴を穿つ。

そして力を失ったビーウェが毒沼に落ちて水飛沫を上げた。俺もやったことあるけど、巨大化って的が大きくなるから使いどころが難しいんだよね。素早さが厄介なのに巨大化して鈍重になるなんて阿呆過ぎるよ。



「……あ、しまった!」



苦しめることなく一瞬で殺しちゃった!

……まぁ、思ったより苦戦してたから仕方がないか。ともかく、生死は確認しておかないと。



油断したのは一瞬。けど、その一瞬で戦況は一変する。



グチャッ



首元を噛みつかれた。視界の端には、ビーウェの顔があった。



「な、んで……」



俺の声を聞き、ビーウェの表情が喜色に染まる。

そして、首元に何かを流し込まれる感覚がした。


俺は膝から崩れ落ち、仰向けになってビーウェを見上げた。



「フフフ、計画通りぃ」



首を動かしてビーウェの背後を見ると、そこにあったはずの巨大な毒の爪が無いことに気づいた。爪の中に潜んでいたのか?



「楽しめたけど、もう終わりだねぇ。んー、期待していたよりは物足りなかったなぁ」



そういいながらも、ビーウェは笑みを浮かべたまま俺を見下す。その表情からは嗜虐心が見て取れた。



「物足りなかった分、もう少しだけなら痛めつけてもいいよねぇ?」



そういいながら、毒濡れの手を伸ばす。

毒で動けなくした相手を甚振る。狩の基本ではあるね。


でも、その慢心が思考を乱す毒となった。



「"断斬"!」



放った斬撃が、ビーウェの両足を切断した。

支えを失ったビーウェが、力なく地面に崩れ落ちる。



「な、何で……!? 毒は……!?」



地面に衝突するも、ビーウェは状況を飲み込めずに呆けた顔で俺を見上げた。

初めて見せる困惑の表情を見て、俺は思わず笑みを浮かべていた。


いつの間にか、ビーウェの魂に干渉していたのだろうか?

今ならビーウェの気持ちが理解できるね。


弱者を甚振ることの快楽。そこに憎悪が籠っていれば、快感は倍増する。



「楽しみは、これからだよ」





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