表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に転生した俺は復讐を誓う  作者: 向笠 蒼維
第2章 畜生の道
104/141

最深部の悪魔


暫く続いていた崩落が収まり、場が静寂に包まれた。

上への通路は大きな岩によって完全に塞がれている。最初から下に向かうことしか考えていなかったけど、もう元の道には戻れないね。

まぁ、最深部に通ずる道はここ以外にもあるから、帰りは別の道を通っていけばいいか。


最深部までは魔鉱石で作られているようで、その強度はやはり高い。あれだけ激しかった崩落が全く影響しなかったからね。

地獄では黒色に染まっていた魔鉱石だけど、この場の魔鉱石は茜色に染まっていた。魔力によって色が変わるから、ここの魔鉱石を染めた人物の魔力が茜色なのだろう。



足元に転がった物体は赤く染まっていた。魔鉱石が茜色に輝いてて目立たないからいいけど、かなりグロテスクな光景が広がっているよね。

自分でやっておいて何だけど、直視したくない。



ということで、足早に最深部に向けて降りて行く。


周りから感じる魔力は色と相まって暖かい。これはフェリュスの魔力なのだろうか?

いや、対峙した時に見た魔力の色は白だったはず。この魔力は別の誰かだろう。


最深部だけといっても規模は大きいからね。魔力量が多くなければ魔鉱石を染め上げることはできないはず。だとしたら、ビーウェか他の魔獣が染めたのだろうか?



そんなことを考えながら歩いていると、直ぐに最深部に辿り着いた。


通路を抜けて広い空間に出た。魔鉱石によって整えられた空間は綺麗な円柱型を模っている。

その壁面には文字がびっしりと刻まれているが、それよりも最初に目に飛び込んだのは空間の中央だった。地面が窪んでいてすり鉢状になっており、そこに黒い物体が溜まっていた。


一目見てすぐに分かった。それが闇であることに。



「何で、闇が?」



思わず声に漏らしてしまった。だが、それは仕方がないと思う。

破邪天明のせいで現世で闇は生まれない。生物が死ねば、その依り代から解放された魂は浄化されて天に還るからだ。


俺は腕をまくって魔力を手に収束させた。

黒衣で覆うことで辛うじて使えていた魔力が、今では違和感を感じることなく使えた。


この場では破邪天明の効果が無い……?



そう考えて、ふと周りを見渡した。そこには茜色に染まる魔鉱石。

破邪天明は物質には影響を与えず、精神生命体にのみ影響を与える魔法。魔法であるからには、対抗策も存在する。

黒衣のように魔法効果を対消滅で打ち消すこともその一つだね。


この場では、魔鉱石がその役割を担っているのだろうか?



ぺたっ



茜色の空間に、小さな足音が響いた。

そちらの方を向くと、そこに少年がいた。


短い黒髪に全身を包む黒い服。それは修道服のようにも魔法師のローブのようにも見える。

その佇まいは堂々としたものだが、その素顔からは幼さがみられる。


その見た目は、俺の生前と同じくらいかな。



ぺたっ



小さな足音を響かせながら、ゆっくりと俺の元に近づいてきている。

敵意は感じられないけど、こんな場所に唯の子供がいるわけがない。見た目からしてフェリュスの手下だろう。


俺は身構えたまま相手の動向に注視した。

一方、少年は身構える素振りの無いまま、ゆっくりと歩いている。



数歩近づいたところで少年の足が止まる。そして、少年から茜色の魔力が溢れ出た。

こいつが魔鉱石を染めているのか? そんなことを考えているうちに、魔力は一瞬で形成された魔法陣に収束して魔法を生み出した。



「"石礫"」



それは土属性の初級魔法。だが、規模が規格外だった。神官の一人が石礫を使っていたが、その時の石は拳大だった。

今、俺の元に飛ばされた石はその時の十倍くらいはある。あれは石礫ではなく岩と呼ぶべきでは?

それがものすごい勢いで飛来する。それも、百は下らないほどの数の岩が。


人間なら、この光景だけで絶望を抱くのでは?


そんなことを悠長に考えていられるのも、破邪天明の影響がないと分かったからだね。



「"反衝"」



眼前に形成した魔法陣に岩が次々と衝突する。

その悉くを防ぎ切り、衝撃を吸収していく。


全ての岩が打ち終わったタイミングで、取り込んだ衝撃を跳ね返した。

数十発分の衝撃がまとまって少年の元へ返される。



「"砂塵"」



少年を砂塵が包み込み姿を隠した。その砂塵を衝撃が払い除けるが、その後ろにいた少年には届かなかったようだ。


砂塵は消えることなく少年を中心に渦巻き、再び少年の姿を覆った。

隠れる前に見えた表情からは、やはり敵意は感じられない。そこに強い違和感を感じた。



「"石鏃散弾"」



砂塵が渦巻いて玉を築く。その表面にトゲトゲが生まれた。

トゲトゲの正体は石で出来た鏃だった。少年を中心に全方向に向けて鏃が放たれる。


再び反衝を発動して衝撃を吸収していく。だが、石鏃は止むことなく飛び続けていく。

一つ一つの衝撃は強くないから束になっても反衝の魔法陣が崩壊するということは無いだろうけど、絶え間なくぶつかってくるせいで衝撃を跳ね返せないでいる。


このまま突っ込んでいこうか考えていると、背中を何かに押された。

反衝を前に構えたまま後方を向くと、そこに砂塵が舞っていた。その砂塵が、再び収束して石鏃を生み出した。



「……まじか」



いつの間にか、空間を砂塵が覆っていた。そして、少年からだけでなく周囲からも石鏃が飛び始めた。

躱し切れずに石鏃が体に衝突する。黒衣によって対消滅しているが、全てを消すことはできずに衝撃が体を打ち抜いていく。



「"硬化"」



石鏃は黒衣を貫くことなく衝撃で粉々に砕かれていく。

黒衣によって対消滅はできないけど、硬化を付与して防ぐことはできたね。


攻撃は止むことなく飛んでくる。

砂塵もまだ放出が続いている。このまま待っていれば状況が改善されるなんてことは、まぁ無いよね。



反衝を停止する。溜め込んでいた衝撃が弾け飛んだ。黒衣によって衝撃を防ぐことはできるけど、破裂音が心臓に悪いよ。心臓ないけども。



「"断斬"!」



少年がいる砂塵の塊に断斬を打ち込む。近づく石鏃を吹き飛ばしながら放たれた斬撃は、石で出来た盾に遮られた。

斬撃が盾を真っ二つに裂いていくが、盾が何枚も重なって行く手を阻む。そして、四枚目の盾で止められてしまった。



砂塵で視界が塞がれているせいで気づかなかったけど、少年の周りに盾が浮いている。

そして、断斬で視界が開けたお陰で、盾以外の武器も見えた。上空に、大きな槍が切っ先を下に向けて並んでいた。



……ちょっと! 手数が多すぎるでしょ!?



視界を塞ぐ砂塵。縦横無尽に駆け巡る石鏃。行く手を阻む石盾。そしていつ降ってきても可笑しくない石槍。それらを同時に発動させている。

他の人間とは比べ物にならないほど強い。フェリュスやビーウェの実力は分からないけど、狼やゴリラの魔獣では相手にすらならないだろうね。



人間としては強すぎる。ということは、……悪魔か?



少年の魔力量はかなり多い。最深部にある魔鉱石を魔力で染めて、更にこれだけの魔法を使い続けているのだから。

魔力量だけで言えば上位悪魔にも匹敵するほどだ。


ただ、戦い方は雑な印象を受ける。

魔力量は多いけど、手数重視のゴリ押しだからね。


強力な魔法は使えないのか、まだ様子見をしているところなのか。



どちらにしろ、このまま攻撃を受け続けるのは鬱陶しい。

少年に感じた違和感の正体は確かめたかったけど、攻撃してくるのなら容赦はしない。


黒衣に付与した硬化を強めて一気に駆け出した。

防御によるゴリ押し。……俺も人のこと雑だとか言えないね。


上空から槍が降ってくる。けど、一本一本が大きいから避け易い。

槍の雨を避け、降りかかる石鏃を無視して突っ込んでいく。

目の前に翳された盾は殴って壊していった。


そして漸く、少年の元へとたどり着いた。目の前には砂塵の塊。けど、よく見るとその表面が硬質化しているが分かった。おそらく金剛を発動しているのだろう。



「"黒槍"!」



至近距離から放たれた槍が砂塵の塊を穿つ。

金剛による抵抗は一瞬だけだった。



黒槍に秘められた脅威が解放され、砂塵の塊を内側から弾き飛ばした。


空間を覆っていた砂塵も吹き飛ばして視界が晴れた。その先に、少年が蹲っていた。

どうやら直撃は避けられたようだけど、右腕の肘先が消失していた。左手で傷口を抑えているが、手から血が滴り落ちている。

服は衝撃で弾けているけど、腕以外の傷は見られない。体にも金剛を発動していたのかな。

……下半身の布が残っているのは男の矜持だろうか?



警戒しつつもゆっくりと間合いを詰める。


少年は蹲ったまま動かない。だが、それで警戒を緩めることはできない。

悪魔なら痛がる振りをして隙を突くことだって、……するかな? 直情的な奴らが多かったから、そういう騙し討ちは無かった気がするけど。


少年の目前に迫る。俺は少年の頭に向けて手を翳した。

そして、魔法を放とうとして、体が止まった。



「うぅ、う……」



少年から漏れ出る声が震えている。頬から雫が零れ落ちた。



腕が、震える。



今、俺は少年を殺そうとしている。向こうが攻撃してきたのだから当然だろう。

けど、少年は一度も敵意を持って攻撃してこなかった。殺意を抱いていなかった。


……攻撃されている最中なら、悩むことも無かっただろう。

でも攻撃が止んだ今、殺すという選択肢が正しいかどうか分からない。



少年に止めを刺すのは、俺の意思に反していないだろうか?



後顧の憂いを断つなら、少年の頭を吹き飛ばすのが一番だろう。

そう、頭では分かっている。


なら、何で動けない?


魔法が放てない。魔力が練れない。殺意が湧かない。

気が付いたら、俺は腕を下ろしていた。



動けない、ではなく、動かない。いや、動く理由がないというのが正しいかな。


別に俺だって、人殺しがしたい訳じゃない。

今までだって意味もなく人を殺したことなんてない。


非道な行いをやってこれたのは、自分が納得するだけの理由があったから。



目の前の少年を殺す。それに納得するほどの理由は抱けていない。

確かにこのまま放置していればまた攻撃を受けるかも知れないけど。それは、その時に考えればいいよね。



俺は生きたいように生きる。自分の思うがままに。



だから俺は腕を上げた。

止めを刺す為ではなく、手を差し伸べる為に。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ