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神域の従魔術師  作者: 泰明
王国の闇
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神域に至る道

「――マ君……ユーマ君!」


「へっ? あれ……? あ……マリア姉さん……?」


「学校では先生でしょ! 居眠りなんて珍しいわね、寝ぼけてちゃいけないわよ? 授業はちゃんと聞く! いいわね?」


 マリアが教科書でユーマの頭をパシンと叩き、教室に笑い声が起こる、恥ずかしそうに顔を赤くするユーマの耳に聞き慣れた声が響いた。


「や~い、怒られてやんの♪」


 弾かれたように声がした方向を向くユーマの視線の先で、悪戯に笑うレイアが手をヒラヒラと遊ばせていた。



……



「どの位まで戻る気かと思ったら加護を貰った当日とはね、なかなか記憶が戻ってこないから見ててやきもきしたわよ」


「一番印象に残ってる日がここだったんだよ、ってか、レイアこそこっちでのんびりしてて大丈夫なの? 魔王は?」


「っ……ま……まあね! 順調順調! ってか巻き戻されたからって幼馴染みとの楽しい記憶が無いじゃ寂しいでしょ? だからわざわざこっちまで来てあげたのよ!」


 言われてみて記憶を辿れば確かに以前と変わらぬ生活を送ってきた記憶がある……。それもシスターやマリアに行ったえげつないイタズラも……。ましてそれによって受けた激しい説教やおしおきまでも巻き戻り以前をしっかりとなぞっている。


「それにしても……イタズラやらお説教やらは再現する必要無いんじゃない?」


「出来るだけ事象を変えない方がいいのよ、ちょっと何かが狂うだけでユーマが存在しなくなる可能性だって否定出来ないんだからね?」


「……ひょっとしないでもレイアとの同時時間遡行って滅茶苦茶高リスクだったんじゃ……」


 ジト目で見つめるユーマの視線を躱し、レイアが思い付いたようにポンと手を打つ。


「あっ! さ……さーあとはマリアと教会の掃除して火球ファイアボールの撃ち合いしないと! ユーマも薪割りスタンバイ! 早くしないとマリアが来るわよ! まかり間違うと愛しいノルンに会えないわよ!」


 箒と叩きを準備し背中を押すレイアの言葉にユーマが表情を曇らせる。


「? どうしたのよ? 元気なノルンに会いたいでしょ?」


「いや、さ……ノルンがああなったのって僕がテイムしちゃった影響じゃない? だから顔を合わせてもさ、僕が好きでもノルンの方は……」


「はぁ~……! あんたはノルンの何を聞いて何を見てたんだか……。ひとつ良いこと教えたげる、あんた託宣の時にノルンにおでこにチューされたでしょ?」


「えっ? あぁ……確かに……そういうもんなんじゃないの? 女神の祝福的な……」


「鈍いわねぇ! 普通は浮いたまま加護の名前を告げてそのままさよならよ! それに、どうでもいい相手を助けるためにどうして女神が下界に降臨すんのよ! 自信持って一発ぶちかましてきなさいな!」


「ぶちかま……って、一体何を期待してんのさ……でも、まあ、うん、早く会いたいな……」


 レイアにバシンと叩かれた背の痛みを感じながら、耳まで真っ赤になったユーマが薪割り場へと駆け出す、その様子を見て満足そうにレイアが頷いた。


……


 今は懐かしい故郷の礼拝堂、あの日のように緊張した面持ちでユーマが祈りの所作を行う、あの日と同じ空気、あの日と同じ光景……。程なくし、清浄な空気を纏い現れたノルンを見てユーマの目頭が熱くなる。


(人の子よ、こちらへ……)


 ユーマは促されるままノルンの前に歩を進める、あの日と同じ、優しく微笑むノルンがユーマを見つめる。


(人の子よ、そなたに加護を与えましょう……あなたに与える加護の名前は『――もの』です)


 ノルンの言葉を遮るように、ズズン……と地響きのような音が響く……。


(人の子よ、貴方のこれからに幸多からんことを……)


 瞳を閉じ、ユーマの額に口づけようとするノルンの唇に……ユーマがが自らの唇をそっと重ねる……。


(ふぇっ!? えっ? ひゃうっ! え? ユーマ君!? えぇっ!?)


 顔を真っ赤にして飛び退き、手足をバタバタさせるノルンに同じく顔を耳まで真っ赤にしたユーマが口を開く。


「ノルン……待ってて! 僕はこの世界で強くなって絶対に君の所に辿り着く! 何年かかるかは分からないけど必ず君の所に行くから! だから……」


(ふぁ……ひゃ……ひゃい! おっ……お待ちしておりますっ!)


 ユーマの姿を顔を隠した両手の隙間から伺いながら頓珍漢な受け答えをし、その場から逃げるように神界へと戻ったノルンがそのままの勢いでソファへとダイブする。


「うわっ! ノルン様もう戻って来たんですか? ってかまだ何人も託宣待ちしてますよ! 急がないと!」


「――された」


「はっ?」


「ユーマ君にプロポーズされたあああぁぁ! なにこれ! 何で私の名前知ってるの!? 奇跡……! これは奇跡よおおぉぉ! ああ! 私もう死んでもいいっ!」


 ソファのクッションに顔を埋め、足をバタつかせるノルンを見てキリアが大きな溜息をつく。


「ついに頭がいかれましたか? 駄女神っぷりを披露するのは勝手ですが、余りに酷いと創造神様に言って女神交代させますよ?」


「ちょっ! それは駄目! ぜっっったい駄目! 本当なんだからぁ! キリア信じてよ!!」




……




「ねーねー、一体何があったのか教えてってば!」


「だ~か~ら! なにもないって言ってるでしょ!」


「うっそだぁ~! ならなんで耳まで真っ赤になってたのよ! はっ!? もしや言えないような破廉恥な事を!? ユーマったらけだもの~♪」


 森の中を歩くユーマをレイアがしつこく追いかける、顔を真っ赤にして礼拝堂から出て来たユーマを見て、シスターとマリアは女神様に会って照れているのだと認識していたが……裏事情を知るレイアはそうはいかない。


「も~! しつこい! ってかレイアは今の時間は応接室の掃除してるんじゃないの!? 早く戻りなよ!!」


「誰かさんが『何か』したせいで世界はしっかり別の方向に動き出してるわよ! ここから先は神のみぞし……いや、神様さえ知らない事柄よ」


「っ……そんなこと言ってサボりたいだけでしょ? 後でマリア姉さんのお説教が待ってるんだからね?」


 ユーマの言葉に肩を跳ね上げたレイアが嫌な予感を振り払うように話題を逸らす。


「っ! そ、そういえば何処に行こうとしてんの? 森に用事なんか無いでしょ?」


「いや、加護も宿った事だし、早速従魔を捕まえようかってさ、スライムはまた魔王だったらいけないから他の魔物を……!!」


 と、ユーマが突然立ち止まり、何事かとレイアが背後から覗き込む。


「ゴブリン……ね、単独行動してるのは珍しいわね……」


「おあつらえ向きな相手だね……レイア、邪魔しないでよ?」


 睨むユーマの視線を感じレイアが慌てて宙に描いた魔法陣を掻き消す、その様子を確認しユーマがゆっくりと魔力を練り始めた。

 ゆっくり、ゆっくりと糸をより合わせるように編み物を編むように魔力を練る感覚、地を這う蛇のように這わせた魔力線がゴブリンに触れた瞬間、ユーマが叫ぶ。


「テイム!!」


 魔力の糸が光を放ちゴブリンとユーマを繋げる、次の瞬間、ユーマは頭に逆流してきた膨大な魔力と情報に、思わず目を閉じ頭を抱えた……。




 ズキズキと頭が痛む中、ぼやける視界の中でレイアが驚いた表情でこちらを見ている、だがその視線の先はユーマではなく……。


「えっ……? はっ? はあああぁぁぁぁ!?」


 そこに居たのはゴブリンではなく白髪頭に豊かな髭の見覚えのある老人……。


「「創造神ゼルス様!? なっ……はっ!? はああぁ!?」」


 息を揃えて叫ぶ二人の前にゼルスがかしずく。


「御主人様、我が力、今日この時より御主人様の為に……」


「ちょっと! なんでこんなとこにゼルス様が居るの!」


「? 儂は今日は下界の視察に来ておりまして……」


「あ~……そういや抜き打ち視察の時期、今頃の筈だわ……」



 かくして、齢数えて十歳と三ヶ月、様々な偶然の巡り合わせにより少年は神々の記録よりも遙かに早い速度で神域に至る、彼がこの先勇者となるか大魔王となるか……


「ちょっ! やり直しやり直し! ゼルス様神界へのゲート開いて! もっかい戻るよ!!」



……



 神々の刻む下界の歴史に記された少年の物語……。世界に溢れるありとあらゆる魔物を従魔とし、歴史の表で、裏で暗躍し、ついに人界魔界を繋げ世界を平和へと導いた少年の物語。

 『勇者』の称号を与えられ、『英雄』と称された少年の足跡は北の聖地にてパタリと途絶える……。

 人々は口々に伝説にある英雄をなぞり、彼は神の国に渡ったのだと噂する……。

 従魔術を極め、神域に至る力持ちしその少年は、何時からか人々の間でこう呼ばれていた。



      『神域の従魔術師』

長く続きました彼等の物語もこれにて終幕です、応援頂きました皆様、読者の皆様に限りない感謝を……!右も左も分からず書き始めて最後まで書ききれたのは皆様のおかげです、ありがとうございました!!

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