神界3
ユーマの振るう剣が光の残滓だけを残し躱すゼルスを追い駆ける、短距離転移を繰り返すゼルスがおもむろに口を開きユーマに問う。
「神域に至りし者よ、汝に問う、何故に過去に戻るを望む。お主の得た強大なる力、それを失うのが恐ろしくはないのか?」
ゼルスが放った雷を払い落としユーマが答える。
「力なんか失っても構わない! もっと失いたくない、失っちゃいけないものがあるんだ!」
「お主の歩んだ道も、成した事も、全ては灰燼に帰し水泡となり爆ぜる。得た知己も、愛する者も、全てを失い時には敵とし相まみえよう、それらにお主は耐えられるか?」
ユーマの放つ巨大な火球を吹き消し、その倍はあろうかという火球をゼルスが放つ、火球がユーマを呑み込まんとした刹那、その表皮を光が撫で、火球が欠片も残さず霧散する。
「例え何が起きようと……皆が僕のことを忘れようと……今の僕の力で、僕にしか出来ない事がある……! ならばその可能性を追うのが僕の役目だ!」
「その進む道が何処に繋がっておるかは分からぬ、今以上の絶望が口を開け待ち構えておるやもしれぬぞ?」
ゼルスの頭上に雷雲が召喚され、凄まじい雷鳴を伴い吠え声を響かせ雷の龍がユーマを睨み付ける。顎を開き向かい来る龍を紫電一閃、迎え撃ったユーマの一振りが跡形もなく消し飛ばす。
「それでも、それでも諦念を乗り越え可能性に賭けるのが僕らなんだ……! 今ある絶望に、未来にあるかもしれない絶望に歩みを止めるなんてしたら……それは死んでるのと同じだ!」
「ふむ……ならば最後の質問じゃ、そなた……ノルンに惚れておるな?」
「……! なっ……! ああそうさ惚れてるよ! だからどうしたんだよ!」
「……ふふふ……ふはははははは! よかろう! ならば思う存分かかってくるが良い! お主の力を示し、未来への可能性とやらを掴み取ってみせよ!!」
ゼルスのかざした杖が空間の魔力に同調し、火球が、氷槍が、雷龍が、真空の刃が、大地を穿つ岩槍がユーマに向かい襲い掛かる。眼前を覆ったそれらを睨み、剣を構えたユーマが大地を砕かん程の踏み込みで剣を振るう、砕け散るそれらの放つ鮮やかな色彩が無機質な空間内を覆い尽くしていった……。
……
「ここが……時戻しの神殿……」
何も無い真っ白な空間、先程までゼルスと戦っていたあの空間にそっくりなその場所にユーマとレイアが立っている。一つ違うのは何も無い空間の中に一カ所、大気が揺らぎ、景色を歪めている部分があることだ。
「それにしても……爺さんに『参った』って言わせるとはね……」
「えっ? でも倒さなきゃここ使えなかったんでしょ?」
「私は別に倒さなきゃとは言ってないわよ? あの戦いは膨大な魔力を必要とするこの陣の起動に耐えられるか、そして正しい心をもって力を行使できるかのテストみたいなものよ。普通は素養と人格を見て『合格!』で使用許可、まさか普通に負けるとは思ってなかったんでしょうね、あの爺さんの顔ったら……!」
「はぁ……そういう事なら早く言ってよ……。ってか、何でレイアもここまでついてきてんの?」
「そっ……そりゃああんたが陣を正しく起動できるか立ち会いよ! 爺さんは負けたショックで塞ぎ込んじゃったし。まあ、いいから! さっさと起動起動!」
訝しげに睨むユーマを急かし空間の揺らぎに魔力を注がせる。と、揺らぎが渦を巻き始め、目の前に輝く空間がぽっかりと穴を開ける。
「それじゃあレイア、ありがとう、また……ってうわっ!?」
振り返り、礼を言おうとしたユーマにレイアが体当たりし、もつれ合うように空間の中に吸い込まれる。光の中に一直線に落下する中慌てるユーマが口を開く。
「ちょっ!? なんでレイアも入って来てんの??」
「あちゃ~、足が滑っちゃった♪まあ、あれよ、巻き戻った世界で誰もこれまでのあんたを知らないなんて寂しいでしょ? だから優しい幼馴染みが付き合ってあげるわ♪」
「……違うね、ノルンから聞いてるんだよ? レイア、魔王が孵化する前に戻る気でしょ?」
「んなっ……!? そ……そそそそんなことないわよぉ? ただ私はユーマが寂しくないようにねぇ?」
「はぁ……ま、そういう事にしとこうか、それじゃお互い頑張ろう」
「ふふん……私は持てる知識でフレデリックを全力サポートするからね、どちらが世界を統一するか勝負よ!」
「うん、楽しみにしとくよ、じゃあまた会おう!」
ユーマの視界が光に包まれ意識が遠のいていく……。自らの体から抜けてゆく力の奔流を感じながら、ユーマは穏やかな気持ちで瞳を閉じた。




