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神域の従魔術師  作者: 泰明
王国の闇
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神界2

「それじゃあフレデリック、行ってくるよ」


「ゴ主人様……お気を付けて……」


 ユーマがフレデリックとがっしりと握手をし微笑みかける、仮面越しにもフレデリックが涙を堪えているのがよく分かる。名残惜しそうにするフレデリックの手を離し、ユーマはノルンを抱き上げ、魔剣を持ち祭壇に向かった……。


「準備は出来たわ、じゃあ、その台座の上でソウルイーターをかざして頂戴」


 レイアに言われるがままにユーマが廃教会の礼拝堂の台座に登り、光を放つ魔剣を掲げる。と、突如魔剣が眩い光を放ち辺りが光に満たされてゆく、思わず目を閉じたフレデリックがもう一度目を開いた時には、ただ静まり返った無人の礼拝堂に輝きを失った一振りの剣が突き立っていた……。


……


 神界の管理棟の一室でキリアが何やら椅子の後ろに隠れ様子を伺っている。キリアがおそるおそる水晶の様子を見守る背後では緊急事態を示す警報が鳴り響いている。


「も~、さっきからなんなのよ! 神の雷落としたら矢継ぎ早にドッカンドッカンと……なによもう……爆発したりしないでしょうね……」


 慎重に椅子を動かしながら水晶に近付くキリアの目の前で突然水晶が眩い光を放ち、慌てたキリアがバランスを崩し椅子の下敷きになる。


「もう! 驚かさないでよ!! 今の光は……!!」


 椅子を押しのけ立ち上がったキリアの目の前には見慣れぬ少年と女性、そして少年の腕の中には……。


「ノルン様!? ……酷い怪我! 一体これは……?」


 慌て駆け寄るキリアの眼前に槍の穂先が交差する、いつの間に現れたのか? 全周をぐるりと槍をもつ神兵に取り囲まれたユーマ達、その元に槍を押しのけ向かおうとするキリアを警備の天使が制し睨み付ける。


「貴殿らが何者かは分からぬが先の騒ぎからの来訪、只者では無いことは承知している。貴殿らが神界に仇成す者でないか今一度調べさせて貰おう、抵抗は無意味であると……」


 神兵らの隊長であろうか? 翼を持つ神兵が口上を述べる中、他の神兵らが包囲を狭めジリジリと近づいてくる、その槍の穂先の一つががノルンを向いた瞬間、部屋の中に満ちた重圧プレッシャーに兵達が槍を取り落とし、その場に強制的に平伏させられる。


「ぐっ……!? 一体これは……??」


 兵らが次々に気を失いその場に崩れてゆく中、それらを一跳びに越えユーマに迫る影が二つ……。


「何者かは知らぬが宣戦布告と受け取る! よもや申し開きはあるまい!」


「下界の英雄か勇者か知らぬがここで蛮勇が通ずると思うな!!」


 ユーマに向かい二人が息の合った動きで斬り掛かる、その気配を察してかユーマが伏していた顔を上げ、一つ大きく息を吐く。


「駄目! その二人は武神です! 下手に抵抗したら……!?」


 止めようと手を伸ばしたキリアの目の前で武神二人の持つ剣が砕け散り、どう、と音を立てて倒れ伏す。いつの間に抜いたのか? ユーマの手に握られたミドガルズオルムが魔力の残滓を飛ばし妖しい輝きを放つ。


「……勇者? 違う。……英雄? 違う。……僕は……。創造神様を呼んでくれ……下界から……大魔王が挑みにきたって!」


「ほっほっほ、こりゃまた威勢のいいのが下界から来たもんじゃのぅ」


 ユーマが向ける視線の先に光り輝く衣を纏った老人が現れる、豊かな白髭を指で弄ぶ老人は、ただそこに立っているだけだが凄まじい威圧感を放ち、場を支配していたユーマの魔力を打ち消してゆく……。


「お早いお到着で嬉しい事ね、ユーマもノルンに槍向けられたからってキレない! 焦る気持ちも分かるけど、神界に戦争しに来たわけじゃないでしょ?」


「ふむ、誰が来たかと思ったらフレイアか……しばらくぶりじゃが元気なようで何より、それにそこにぐったりとしておるのはノルンか……これまた無茶をしたようじゃの?」


「なっ!? フレイア!?」


 驚くキリアの目の前でレイアが光を放ち女神の姿に変化する、何か言いたげにするキリアを手で制し、レイアが老人に話し掛ける。


「まあ、爺さんの事だから用件は分かってるでしょ? このままだとノルンは危ない、治療の方法もない、だから……」


「時戻しの神殿を使わせろ……か? 数年前にもお前は使わせろと騒いだのぅ……なんじゃ? あれほど完膚無きまでにたたき伏せられて懲りておらぬのか?」


「私が敵わないのは百も承知よ、だけど……ユーマなら大丈夫だって信じてる、神界法第6条に基づき、創造神ゼルス、あなたに神殿の使用権を賭けて勝負を挑ませてもらうわ」


 レイアの言葉にゼルスがニヤリと口を歪める、何処から取り出したのかゼルスが杖を床に突き立てると辺りの景色が一変し、何も無い真っ白な空間にユーマ達とキリアが放り出される。


「ここは……?」


「神殿で暴れて破壊されたら敵わんからの、ここならいくら暴れても問題は無い、さて、キリアよ」


「ひゃい!!」


「お主が立会人じゃ、しかと結果を見極めよ」


「か……畏まりました!」


 ガチガチに緊張した面持ちで敬礼するキリア、固まったように動かぬ彼女の元にユーマがノルンを抱き歩み寄る。脂汗を流し接近を見守るキリアの前で、ユーマが深々と頭を下げた。


「巻き込んでしまい申し訳ありません。ノルンの事を頼んでもよろしいでしょうか? レイアだけだと少し不安なので……」


「ちょっと、私だけだと不安ってどういう事!?」


「……分かりました、大丈夫ですきちんとお守り致します」


 不満そうに抗議するレイアの前でユーマがノルンをキリアに預ける……。と、離れようとしたユーマの袖をノルンの震える指が掴む。


「ご……主人様……だい……丈夫です……私は、頑張れますから……だから……それに……せっ……かく、仲良くなれたのに……色々、思い出も……全部無くなっちゃうなんて……嫌です……」


 息も絶え絶えに必死で縋るノルンの頭を撫で、ユーマがにっこりと微笑む。


「大丈夫、何があっても、ノルンが僕のことを忘れてしまっても、必ず僕はノルンの所に戻ってくるから、ちゃんと待ってて。……大好きだよ、ノルン」


 するりと落ちたノルンの手を握り、キリアに一礼してユーマがゼルスに向き直る。


「さて、神界にも法はあるのでな、力持たぬ者、邪なる者においそれと神器を使わせる訳にはいかぬ、悪いが付き合ってもらうぞ?」


「あなたを倒せば、神殿を使わせて貰えるんですね……」


 ユーマが剣を構えるのに合わせゼルスが杖をかざしレイアとキリアの周囲に結界を作る。


「さて、かかってくるが良い下界の大魔王よ! 力を示し、我に認めさせてみよ!」


 ユーマの右手に握られた一振りの剣が、踏み込み振るうその動きに合わせ輝く光の結晶を辺りに振りまいた。

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