神界
巨人が消えた大地の上に光り輝く剣が回転しつつ降ってくる、歪な形はそのままに邪気を失った聖剣を受け止めたユーマが、天に向かい目を閉じ頭を下げる。再び瞳を開いたユーマが降り続ける光の粒子を眺めぽつりと呟く。
「あの巨人は……何をしようとしていたのかな……」
「何かを……探すように……この世界に突然生み出されて、何が起きているかも分からず……そう考えると……」
「うん、少し……可哀想だったね……」
降り注ぐ光の粒子を浴びながら、二人は最期の巨人の表情を思い浮かべる。恐怖でもない、絶望でもない、少し安堵したかのようなその表情に、巨人にも『心』というものが宿っていたのかと考える……。と、クロが座り込む二人の間に割って入り早くしろとばかりににゃおんと鳴いた。
「そうだね、早く皆のところに戻ろう」
ニールから地上へ降り立ったユーマとティリスを皆がほっとした表情で出迎える、グローインとブロックの顔を見て笑顔で手を振るユーマが、辺りを見回し怪訝な顔をする。
「レイア……はさっき魔法で支援してくれたから何処かに居るんだろうけど……他の皆は? ノルンは? マリア姉さん達にラスティさんはどこに……?」
「うむ、他の者は分からぬが……ノルンちゃんはきっとレイアとおるはずじゃ、探してみるが良いぞ」
「他の人達の捜索は我々でやっておきます、ユーマ殿はノルン様の所に行ってあげて下さい」
「分かった! 魔王! 行こう!」
皆の言葉にユーマが頷き、急いで感知を広げノルンの気配を探し出す、ニールに乗り込み飛び去った二人を見送りグローインがほぅ……と息を吐いた。
「やれやれ……行ってくれたか」
「やはり……ここに居ない者は……?」
「えっ? それは……どういう……」
胸を押さえ尋ねるティリスに向かいグローインが首を横に振る、言葉に詰まりその場に崩れ落ちたティリスの瞳から大粒の涙が一つ、また一つと地面に染みを作ってゆく……。
「そんな……なんで……」
「……坊主にゃ子供扱いするなと怒られるかの?」
「ふん、これから神界に渡ろうっちゅーんじゃ、後ろ髪引くもんは少ない方がええ」
「あとは……神界がどう出るか……ですね……」
激しい戦いの跡地に一陣の風が吹き抜ける、静寂の中にティリスの嗚咽する声が静かに響いていた……。
……
フレデリックの案内で廃教会の前にレイアの姿を見つけ、ユーマがニールから飛び降り駆け寄ってゆく、その姿を見たレイアが伏せていた顔を上げユーマの表情を確認し大きく息をついた。
「お帰り、ユーマ、お疲れ様……頑張ったわね」
どことなくぎこちないレイアの笑顔にユーマの心臓がなぜか早鐘を打ち始める、何か、何が、どういう事が……。酷く乾く喉を叱咤しユーマがおずおずと口を開く。
「ノルンは……どこ?」
レイアが廃教会の中に視線を送る、その様子にユーマは心臓が締め付けられるような感覚を覚える。ノルンのことである、この様な場合浮かれた様子で『ご主人様~』などと言いながら抱き付いてくるのが常であり、この様に静かな筈が……。
廃教会の崩れかけた長椅子に寝かされたノルンは、ユーマの不安を体現するかの如くに力無く横たわっていた。長く美しかった髪は焦げ落ち、全身の至る場所に酷い火傷を負っている、その様子に絶句するユーマに気付いたのか、ノルンが力無く瞳を開き、ユーマに手を伸ばし掠れた声で語り掛ける。
「ご主人様……ご無事でよかった……巨人は……倒せましたか……?」
「僕のことはいいんだ! ノルン! なんで……なんで……!!」
「えへへ……ちょっと……頑張り過ぎちゃいました……少し……少し……疲れちゃったんで……ご主人様がご無事で……よかったぁ……」
ノルンの目がゆっくりと閉じ、触れようと伸ばした手が力を失う、ぱたりと倒れそうになったその手をユーマが祈るように握りしめる。
「レイア! 治療は!? 早くノルンを……!!」
「……無理よ」
「……えっ?」
「ノルンが浴びたのは神の雷、本来神々が神を裁くためのもの、そんなものを長時間浴び続けて……このままだと……」
レイアの言葉にユーマの顔が色を失い、ノルンの手を握る両の手がわなわなと震える。
「助ける方法は! なにか……何か無いの!?」
「……ある……! けれども……」
「僅かでも可能性があるならそれに賭ける! 早く言ってよ!」
「……分かったわ、どちらにせよあちらには行かなければならない、言っておくけどそう簡単にはいかないわよ? 覚悟はいい?」
えも言われぬ威圧感を秘めたレイアの言葉、不穏な雰囲気をものともせず、ユーマはしっかりと首を縦に振った。




