勇者と大魔王4
「うわっと、やっと外に……っわわっ!? クロ! ニールもありがとう!」
転移陣でニールの背に転移したユーマにクロが待ちきれなかったかのように飛びつく、クロを撫でつつ礼を言うユーマに、クロとニールが鳴き声で答える。
「ってか……この巨人がさっきまで中に居た……」
ユーマが眼下の視界を埋め尽くす巨人を見下ろし大きな溜息をつく。
「あの巨人、何かを探しているかのような……?」
「もしかして僕らを探しているのか……?」
言われてみれば聖地をうろうろと彷徨うように歩く巨人は何かを探すように頭を動かしている。
「何にせよ早くあの巨人を倒さないと、あんなのが暴れたらとんでもないことになっちゃう」
「我々も総力を挙げテ攻撃したのデスが……恐ろしイ程の再生能力デきりがなク……」
「悠長に核がどこかなんて探ってる時間はなさそうですね……そもそも、核があるのかすら……」
「ならば一撃で全てを消滅させるしかない……と言うことか?」
皆で頭を悩ませるも出た答えは非常にシンプルな一つだけ……。と、ユーマが何かに気付き巨人を注視する。
「……おかしい……僕らからの魔力供給が止まったのに巨人の魔力が膨れ上がっていく……」
「……もしヤ……聖地の魔力ヲ……?」
「!! 急がなきゃ! 早く討伐しないと竜脈のエネルギーが吸い尽くされちゃう!」
「ですがあの巨大を丸ごと攻撃するような武器が……」
「ある! だからティリス、協力して!」
ユーマの言葉に目を丸くしたティリスが意図を理解し力強く頷く、と、ニールが急旋回をし、皆がバランスを崩す目の前を巨大な腕がうなりを上げて通過する。
「っ! 気付かれた!」
「どうしますか!? 不安定な足場じゃとても……」
慌てるユーマの眼前を二つの黒い影が横切る、声をかけようとする間もなくその影はニールの背を蹴り、真っ逆さまに地上へと落ちて行く。
「陽動はお任セ下さイ、ゴ主人様は奴を倒すコトだけを……!」
微笑み落下して行くフレデリックとミーリア、落下しざまに巨人の顔面に炎を浴びせ、怒れる巨人がそちらに注意を向ける。
「魔王! ミーリアさん! ……っ! ……急ごう!!」
「……はいっ!」
巨人の足元に向かい一直線に落ちてゆく二人、迫り来る腕を、炎を躱し、時折挟む結界を足場に勢いを殺して地上に降り立つ。
「なんダ、私一人でも良かっタのだぞ?」
「確かに私では力不足ですな……だが、その足で一人で陽動は辛いのではありませんか?」
見ればフレデリックの纏うローブの裾はぐっしょりと濡れ、地面には紅い血溜まりがじわりと広がっている。
振り下ろされる巨大な拳を躱すその足元が紅い糸を引き、顔を歪めるフレデリックの体を回り込んだミーリアが受け止める。
「ぐっ……すまなイな……ならバ我らデ主のタめに時間を稼ぐゾ」
「ああ! 微力ながらお力添えさせて頂こう!」
見上げる上空から腕が、足が、炎が降り注ぐ、経験したことのない異次元の規模、威力の攻撃。だがそれを躱す二人の口角は不思議と引き上がっていた……。
主のために働ける、自らの行動が主が存分に力を振るうための助けになる、世界を救おうという主の崇高な行動の手助けに自らの命を使えるその事が堪らなく嬉しく、名誉で、誇らしかった。
と、炎を結界で防ぎ逃れたフレデリックの膝がカクンと落ちる、震える膝を支える手がズルリと滑り、その場に倒れこんだフレデリックの頭上から巨大な拳が降ってくる。
「フレデリック殿!」
ミーリアがフレデリックを担ぎ躱そうとするも、僅かに拳の勢いの方が早い、万事休す、跳んだ姿勢のまま思わず目をギュッと閉じたミーリアの耳に何かが砕けるような音が響き、予測より遅れて拳が地面に衝突する音が響き渡る。
「なっ……? 一体何が……?」
「……おぉ! 良かった! 間に合ったな!」
「兄者、座標はもう少し丁寧に教えてくれんと儂には見えんのじゃからな……?」
砂煙に霞む視界の向こうからブロックとグローインが結界装置を構え駆けてくる。
「二人とも無事だったか! 助かった、ありがとう!」
「無事っちゅうのかのぅ、これは……。なに、礼には及ばん、っつーか……礼を言うにはちっと早いな……!」
グローインが慌てて結界装置を向ける上空からは、続けて巨大な足が迫る、急ぎ逃れようと駆け出したミーリアの背後から巨大な岩槍と水槍が突き出し巨人の足を貫通する。
「儂らだけじゃない、皆が力を振るいこいつを止めようとしとる、さて……主役はまだか? 待ちくたびれたぞい?」
「……来ル! ……ゴ主人様が……!」
フレデリックが呻くように呟くと同時に、巨人とは別の凄まじい重圧が上空から途轍もない勢いで迫ってくる。
「ニール! このまま巨人の足を潜って! ティリス! 準備はいい?」
「はいっ! 大丈夫です!」
背に乗るユーマとティリスが宝剣に注ぐ魔力が激しい光を放ち、巨大な彗星と化したニールが一直線に大地に向かい降ってくる。
その光を瞳に捉えた巨人が嬉しそうに表情を歪め、二人を捕らえようとその巨大な手を差し出す……が、突如天から降った一振りの巨大な光の剣に腕を切り落とされ、苦し紛れに炎を吐こうと開いた口が内から突き出した闇色の蛇と槍に拘束される。
「あれは……レイアの……? それにビスクさんの!!」
怒りの咆哮を上げる巨人を横目に、地面スレスレで方向転換したニールが巨人の足の間を潜り抜けんと低空飛行で加速してゆく。
「魔王!」
「了解しタ、ゴ主人様!」
眩い光を放つ剣をユーマとティリスが高々と掲げ、一際大きな光を放った剣から巨人の倍はあろうかという巨大な光の刀身が立ち上がる、すれ違いざまかけられた声に合わせてフレデリックの手から放たれた闇色の炎が刀身を巻き込み、光の上を渦を巻いて駆け上る。
「「うおおおぉぉぉぉ!!」」
二人が巨人の足を潜ると同時に裂帛の気合と共に剣を振り下ろす、頭から足の先まで両断された巨人が闇色の炎に捲かれ、何かを探すように、求めるように空を掴み手を伸ばす……。
……光と闇に全身を包まれた巨人が彷徨う腕をダラリと垂らし、宙に掻き消えるように霧散してゆく……巨人の消えたその跡に、輝く光の粒子が止めどなく降り注いでいた……。




