勇者と大魔王3
「ティリス!」
「ティリス様!」
地面に倒れ伏したティリスにユーマとミーリアが駆け寄る、抱き起こしたミーリアの腕の中で僅かに呻き声を上げ、ティリスがゆっくりと目を開ける。
「ミー……リア……? ユーマさ……ん……わたし……は……!」
彷徨っていた視線の焦点が合い、ぼやけていた意識がはっきりするにつれティリスの顔がどんどん青ざめてゆく。
慌てて跳ね起きたティリスがその場に跪き、ユーマに向かい頭を下げる。
「ユーマさん! 申し訳ありません! 私……私……なんて事を……」
「僕は大丈夫だよ、気にしないで、ティリスが無事でよかった」
「でも……でも……私が捕まったばっかりに……」
「捕まっちゃったのは僕も一緒、傷だってそんなに酷くないし、ほら、腕だってちゃんと動……っ……!! ……ね?」
明らかにやせ我慢しつつ左腕を回すユーマを見てミーリアが思わず吹き出す、それにつられユーマが笑い出し、ティリスも困ったような笑顔を浮かべた。
「だが……ユーマ殿の頑丈さは目を見張るな、最後の蹴りを受けたのを見た際には流石に……」
「あれはこれが無かったら危なかったね」
ユーマが懐から真っ二つに折れた短剣を取り出す、クレアが旅立ちの日にユーマに与えた短剣……大切な御守りであった短剣、その鍔にはめ込まれた魔石が役目を終えたかのように三人の目の前で砕け散り、漏れ出た光の粒子が何処かに流れてゆく……。
「……そういえば、私を正気に戻してくれたあの女性は……?」
「あ、あの人は――」
二人にビスクを紹介しようと振り返ったユーマが、その光景に言葉を失い釘付けになる。つられて視線を向けた二人の目の前で、ビスクの持つ魔剣から溢れ出た光が先程の光に纏い付き、人の形を象ってゆく……。
『……ブレイズ……! ブレイズ! 会いたかった! あなたに……私は……あなたを……!!』
抱き付いたまま泣きじゃくるビスクの頭を撫でながら、凛々しい顔の青年がユーマ達に向き直り礼をする。
『ありがとう、君達のお陰でもう一度ビスクに会うことが出来た……』
「えっと……この方達は?」
「……ビスクさんとブレイズさん、先代の大魔王様と勇者様だよ」
ユーマの言葉に声を失った二人が、唖然とした表情でビスクとブレイズを見比べる。
『此度は我が友、ウルグスの行動により多大なる迷惑をかけた事、そして我々の世代のツケを君達に押し付けた事、深くお詫びさせて頂きたい、本当に……申し訳ない!』
深々と頭を下げる二人を見、ユーマが口を開く。
「……僕がこんなことを言っていいのかは分かりません、ですが、今回の事は人界、魔界全てが背負う罪だったのかもしれません……もちろん、傷付いた人も、それを許容できぬ人も居るでしょう……ですが……あなた達二人を責めるのは、違うと思うんです……」
たどたどしく、言葉を選びながら喋るユーマを見て二人が優しく微笑む。
『あなたは……優しいのですね、ティリスさんとミーリアさん? あなた達も自分のことはほったらかしで人のことばかり……。あなた達みたいに優しい人達がこの時代に居てくれるなら、私達の歩んだ道も無駄では無かったのかもしれませんね』
ビスクに見つめられ頬を赤くし互いに顔を見合わせるティリスとミーリア。と、突如地面が揺れ、周囲の壁が激しく脈動を始める。
「なっ……なんだ!? 一体何が……」
『! ……巨人が再び動き出したのでしょう、恐らくお二人との繋がりが途切れたことで暴走を……!!』
気付けば脈動を続ける壁がじわじわと皆を押し潰さんと迫ってきている。
「っ! 早く逃げないと!」
「早く結界を張って……! 間に合うか!?」
「クロの能力で転移を……っ駄目だ、ここから離れちゃったら戻るまで巨人がやりたい放題だ……!」
急拵えの結界を張りつつ慌てるユーマの腕を、何者かの腕ががっしりと掴む、弾かれるように振り向いたユーマの耳に聞き慣れた声が響いた。
「ゴ主人様、お迎えニあがりましタ」
仮面越しに安堵したように笑うフレデリックにユーマが笑いかけ、そして表情を引き締める。
「魔王! クロは今どこ?」
「上空ニてニールの背で待機させていまス、いつでも大丈夫デス!」
「分かった、ありがとう! ミドガルズオルム!」
ユーマの呼び掛けに愛剣が応え魔力の鞭を伸ばし手元に戻る、意図を理解したティリスとミーリアがユーマに掴まり、ユーマがビスクとブレイズに手を伸ばす。
「早く! 巻き込まれる前に!」
ユーマの呼び掛けに一瞬驚いた二人が少し寂しそうに笑い、そして首を左右にゆっくりと振る。
『私達は魂だけの存在、この魔力の力場の中で実体化出来ているだけで外には出られないわ』
『僕達は遙か昔に死んだ存在だ、気にせず行ってくれ』
「……っ、でも……」
泣きそうに顔を歪めるユーマを見て二人がクスクスと笑う。
『よし、じゃあ察しが悪いようだから白状しよう、三百年ぶりの恋人同士の再会なんだ、二人きりにしてくれる気遣いがあってもいいんじゃないかな?』
ブレイズの言葉にユーマが目を点にし、そして一拍置いてから大きく息を吐く。
「……分かりました、お二人に会えて、お二人と話せて嬉しかったです! それじゃ……さよなら!」
手を振る二人の目の前でユーマ達が転移陣に吸い込まれるように消えてゆく……。それを見送ったビスクがブレイズの肩に寄りかかるように頭を乗せ、上目遣いに視線を送る。
『ふ~ん……恋人同士……ねぇ?』
『……っ、なっ……なんだよ?』
『え~? 私はそういったこと一度も言って貰ってないんですけど?』
イタズラな表情で笑いかけるビスクにブレイズが顔を耳まで真っ赤にする。
『えっと……その……あのだなぁ……』
『……ふふふ』
『――――!』
笑い合う二人を迫る壁が覆い隠してゆく……三百年ぶりの抱擁は…………。




