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神域の従魔術師  作者: 泰明
王国の闇
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勇者と大魔王

 泣き声が聞こえる……これは……誰の……? 僕は……? そうだ……僕は……!


「……っいったあああぁ!? な……何が起きて……?」


 額に感じる激痛にユーマが跳ね起き、頭を抱えてその場に蹲る。頭の芯に響く凄まじい痛みに何故か懐かしさを感じながら、顔を上げ改めて辺りを見回した。


「ここは……? 確かウルグスと戦って……そして……? それにさっきまで見ていたのは……?」


 ぼやけた頭と混乱する記憶、それらをつなぎ合わせようとする中でユーマは背後にある気配に気付いた。


「あの言葉は……あなただったんですね……」


 振り向いたユーマの目の前に、蠢く影のような姿をしたビスクが佇んでいた。真っ赤に光る双眸から涙を流し、その涙が暗雲から差す陽光のようにその身を包む影を晴らしてゆく。


『ありがとうございます……あなたの加護に触れたおかげでようやく自分を取り戻す事が出来ました……』


 影の中から姿を現したのは美しい龍人の女性、背丈はユーマより少し高い程度だろうか? 華奢な印象の体躯に小さな手、だが、立ち居振る舞いには微塵の隙も無い。

 女性は大きく一つ息をつき、先程までの涙の跡が残る目元を拭い、真っ直ぐな瞳でユーマを見つめている、恐らく実体では無いのだろう、儚げに揺れる姿の向こう側に景色が僅かに透けて見えている。


「先代大魔王、ビスクさん……。ごめんなさい、あなたの記憶を見てしまいました……」


『いえ、構いません……ただ、私は知って欲しかったのかも知れません……私の……いや、私達のことを……。それより、我が弟の暴走により沢山の人々に艱難辛苦を強いてしまいました……あなたにも、あなたの大切な人達にも……申し訳ありません』


 ビスクが目を伏せ頭を下げる、その様子を見てユーマは居たたまれぬ気持ちになり、ぎゅっと拳を握り込んだ。


「許す、許さないの問題では無いのかも知れません、けど、あなたは悪くない、顔を上げて下さい……ウルグスが怒り、狂った気持ちも……分からないでも無い……」


『あなたは……優しいんですね、ですが罪は罪……弟が命を落としたのも当然の罰なのでしょう……』


「命を……!?」


『弟は教皇の裏切りに会い命を落としたようです、そして、先程その教皇も……。今あなたがいるこの場所は加護の暴走を利用し創り出された巨人の体内、コントロールを失った今のままではまたいつ巨人が暴走を始めるか……』


 ビスクの言葉にユーマが唖然とした表情になる、自分が操られ眠っている間に一体何が起こっていたのか……。言われて感知を広げれば自分の周囲が濃密な魔力に覆われて居るのがわかる、魔力で模られた生命の気配、ニールやミドガルズオルムから感じたそれと同じ、だが、桁違いな凄まじい魔力が込められているのがよく分かる。


『早く脱出して倒さねば犠牲が増えます、急がねば……』


「……ですね! あっ……でもティリスを探さないと……! さっき感知に気配があった、近くに居るはず……」


 その時、ユーマの首筋がぞわりと粟立つ、久しく感じたことの無い感覚、巡る記憶の中に辿る感覚の正体、闇の向こうに存在する者……それは、形を得た『恐怖』であった。

 暗がりの中から姿を現した『それ』は見知った姿形をしていた、大きな耳、感情豊かに揺れる尻尾。だが、その全身からは怒気と殺気が陽炎のように揺らめき立ち、その瞳は闇を宿して妖しい光を放っている。震える手を再度握り込みユーマがそれに声をかける。


「ティリス! よかった、無事で……皆が待ってる、早くかえ……」


 声をかけようとしたユーマの目の前でティリスの足下から禍々しい魔力を放つ漆黒の球体が現れる、それは二度、三度とティリスの回りを周回した後に沈み込むようにティリスの体内に消えてゆく……。


「グルルルアアァァあ亜アァ嗚呼ぁァ!!」


 突如、ティリスが獰猛な吠え声を上げユーマに向かい襲い掛かる、鈍い光を放つ爪による一閃、それを受けようと構えた剣の鞘が砕け散り、勢いのままに吹き飛ばされたユーマが地面に剣を突き立て壁に激突する寸前で静止する。


「……!? なっ! 一体何で!?」


『この気配……恐らく大罪に呑まれています……。この時代にもこんなことをしようとする者が居ようとは……先程の球体は死んだ教皇の持っていた大罪の加護でしょう……複数の加護の力のせめぎ合いで正気を失っているようです』


 ティリスの放つ追撃を辛くも躱し、間合いを取って逃げ回るユーマを、鋭い拳が、蹴りが、爪が徐々に追い詰めてゆく。


「くっ……!? これがティリスの加護の力かっ……! 流石にっ! これは……! とんでもないっ!」


 繰り出されるティリスの猛攻を受け、いなし、避けつづけるが繰り返される攻防の中で明らかにユーマの動きが精彩を欠き、疲労の色が濃く見え始める。


「……何だ……? おかしい、力がはいらな……」


現世万物うつしよよろずにおいて緩慢なるは不精故に……怠惰が宿るは……脚』


 攻撃を受け蹲ったユーマの脚に禍々しい姿の魔剣が添えられる、一瞬ビクリと緊張したユーマだったが、その全身に重くのし掛かっていた倦怠感が抜けていくのを感じ、軽くなった体で追撃をかわす。


『あなたに宿っていた大罪は取り除きました、あとは彼女のですね……儀式には少々時間が必要です、彼女をどうにか止める事が出来ますか?』


「止める……ねぇ、軽く言ってくれるけどこりゃなかなか厳しいや……今まで僕を相手にしてた人達の気持ちがよく分かるよ!」


 魔剣を構えたビスクを背に庇いユーマが大きく息をつく、早鐘を打つ心臓、背筋を流れる冷たい汗、震える拳……懐かしくも感じられる感覚に歯を食いしばり、ユーマはティリスに向かい拳を構えた。

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