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神域の従魔術師  作者: 泰明
大魔王
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祭りと少女

「で~す~か~ら~、お昼から町に皆でお出かけしましょう♪」


 ユーマお手製のマドレーヌに舌鼓をうちながら、ラスティがご機嫌にユーマ達を誘っている。


「えっと……今日はお祭りなんだっけ?」


 多少気圧されながらユーマが答えるとラスティが得意気に胸を張り答える。


「そうなんです! 年末恒例の聖なるお祭り! 先代大魔王様が崩御された慰霊祭なんです!!」


「慰霊の日がお祭りっていうのも変だけどね~、まあ、湿っぽいよりかはこっちのがいいわよね」


「国民ガ楽しむ方ガ優先でス」


 レイアや魔王が言うように、どうやら楽しむ方に重点を置いた祭りのようである。


「村ではこの日は喪に服す日だったしねぇ」


「村に限らず人界はそうみたいよ? かわりに新年はどこも盛大に祝うみたいだけどね。魔界は新年は家族で静かに過ごすから全く逆になってるわね……」


「つまり年末は魔界、年始は人界に行けばご馳走が食べ放題って事ですね!!」


 ラスティが目を輝かせて遠くを見つめている、緩んだ口元から涎が垂れているがそれに気付く様子もなさそうだ。


「ユーマ様! 是非とも魔界人界を統一して下さい! そしてあふれんばかりのご馳走を並べましょう!」


「全種族がラスティみたいなら簡単に統一できそうね……」


「? レイア様何か言いました??」


「いいえ、頭がおめでたいと簡単ね、って」


「どーゆー意味ですか!」


「年中祭りト変わラんナ」


「まっ、魔王様まで!!」


 ラスティが涙目で抗議するが、マドレーヌを口に突っ込まれて即座に笑顔に戻る……。


(簡単過ぎてこれはこれで逆に不安だ……)


 言葉に出さないよう注意しながらユーマがレイアに質問する。


「そういえば町のルールとかは前に聞いたけど、何かお祭りだからって特別気を付けることはある?」


「そういえばユーマは町に出るのは初めてよね、約半年城に缶詰めだったし、ごめんね~、付き添う時間が取れなくて……ん~まあ、特にルールは無いけど……酔っ払いには気を付ける、程度かな?」


「城に篭もっテいた分、今日ハ楽しんデ頂きたいでス」


 魔王の膝の上でクロも楽しみとばかりに喉を鳴らす。


「そういえば魔王も行くんでしょ? 王様が町をうろうろしてたら騒ぎにならないの?」


「魔王様は普段から町中うろうろしてるからねぇ、政情が今は安定してるからわざわざ犯罪犯すような馬鹿も少ないし、仮に何かしようっていっても、魔王様をどうこう出来るような奴はいないわよ」


「あっちじゃ王様が城から出るって言ったら、軍が丸ごと出て来たみたいな警備だってマリア姉さんが言ってたからねぇ」


「あの国王はあちこちから恨み買ってるからね~、暗殺の危険を考えたらやり過ぎでも足りないわ」


「そう考えると敵対国の暗殺者とか、お祭りだと紛れ込む絶好の機会に思えるけど……」


 ユーマが不安そうに答えると、3人が顔を見合わせ笑い出す。


「心配したって意味ないですよユーマ様」


「私とフリードが感知最大で警戒してるのよ? それこそあっちの魔王でも出てこないと相手にならないわ、それに生半な相手じゃ魔王様に傷一つつけられないわよ」


「警備ハ万全ですから安心しテ下さイ」


 不審な動きをしようものなら……笑いながらもユーマは過去の侵入者達の末路を想像し、同情の感情を抱かずにはいられなかった。



…………



「はぁ~……凄い人だねぇ……」


 火の国首都の大通りを屋台と人が埋め尽くしている、竜人ばかりと思いきや獣人や人族、植物人族等様々な人種が祭りを楽しんでいる。


「竜人しかいないのかと思ってたけど違うんだね」


「流石に城の中は他種族はそうそう入れないけど、ここは他国からの亡命者や商人に寛容だからね、もちろん身元の調査は厳しいけど……」


「色んな所の文化が入ってきたおかげで屋台のごはんがおいし-んですよ!」


 ラスティが既に両手に大量の料理を抱えている、こんなに食べきれるのか……? と、疑問に思う所だが、普段を考える限り心配する必要はなさそうだ。


「これとかオススメですよ~♪薄く焼いた小麦の生地に、トマトとレタスとお肉をソースで絡めて巻いたものです」


 ラスティに勧められるがままにかぶり付く、と、一瞬レイアの顔に笑みが浮かんだ気がした。


「あっ、これ美味し……かっ! ……辛っ!?」


 頬を緩ませていたユーマの顔がみるみる間に真っ赤に染まり、レイアがその様子を見て笑い転げている。


「ユーマ様すかさずこれを飲んで下さい!」


 ラスティに渡された飲み物を、確認する暇もなく一気に喉に流し込む。


「……! ……? あれ……? 辛くない??」


 飲み物が喉を通り胃に流れ込むと同時に、口中を満たしていた火を噴く様な辛味が消えていた。


「これには火噴き草の実が使われていて味のアクセントになっているんです♪蜂蜜と柑橘のエキスで中和できるので刺激を楽しみながら食べれる新感覚料理なんですよ♪」


「ゲホッ……そういうのは事前に言って欲しかったな、うん、でも……なんか癖になる味かも……」


「ユーマは辛い物苦手だもんねぇ、魔王様も10年前同じリアクションしてたけどその時の方が面白かったな~♪」


「そういえば魔王は?準備してから来るって言ってたけど遅いね?」


「城でのいつもの姿は正装だからねぇ、町に出るときにはお召し替えをしないと」


「ああ、町の人達が緊張したり気を遣わせないように?」


「いや、あの服は魔術付与エンチャント山ほどかけてる超上等な勝負服だからね……ソ-スやジュース零されでもしたら……下手したら国家予算レベルの修繕費がかかるのよ……」


「魔王様あれで結構そそっかしいとこありますもんね~」


「流石にモウそんな事はしなイ」


 笑い合っている背後から聞き慣れた声がした。


「まっ……魔王様! い……今のは言葉のあやでして……」


「えっと……え? ……魔王??」


「御主人様? ……何カ?」


 後ろに立って居たのは筋骨隆々とした武人という表現がよく似合う姿の厳めしい顔つきの竜人の男性だった。


「え? ……あれ? あ……いつものあれは素顔じゃなかったんだ……」


「どこに髑髏で出来た素顔の生き物が居るのよ……魔王様を勝手にアンデッドにしないでちょうだい!」


「いやあ、仮面取った所見たことなかったから……でも魔王の素顔がこんな格好いいおじさんだったなんて……」


 慌てるレイアとラスティの表情に驚き、魔王の方に向きなおると魔王が今にも泣きそうな表情でうずくまっている。


「え……? あれ……?」


 何か言ってはいけない事を言ってしまったのか? しどろもどろになるユーマにレイアがため息を吐く。


「魔王様はこう見えてまだ子供なのよ、確かに年齢はを五十を超えてるけど、魔王様は見た目は竜人に見えるんだけど実際は龍神族って種族でね、凄まじい力を持つ代わりに精神的な成長が遅いの、見た目に反して今の精神年齢は8歳前後よ」


 確かに10に満たない年齢でおじさん呼ばわりはショックであろう、ユーマは平謝りに謝り魔王のフォローに終始した。


(だけども……半ベソのおじさんをなだめる少年という絵面は周囲から見てどうなのだろうか……)


 周囲の視線が気になる中ユーマの謝罪は半時程も続いた。



…………



「参ったな……はぐれちゃった……」


 魔王が機嫌を直して皆で屋台に繰り出したはいいが、露店の飴細工に気を取られた隙に置いてけぼりを食らったようである。


「まあ、警備の人に聞くか城に戻れば合流はできるかな……」


 正直な所暴走するラスティに引きずられて、見逃している店や気になっても立ち寄れなかった店もある。


(どうせなら町の中を探険してみようか……)


 ユーマの表情が年相応の期待に胸躍らせる表情に変わる。


(貰ってるお小遣いもまだ沢山ある!魔道具屋とか素材屋とかも見てみよう♪)


 屋台の料理を観察しながら店を巡り、目当ての物を買って回る中ユーマはふと路地裏に目を留めた。


(人族の女の子……?)


 見ればユーマとそう変わらない年齢の少女が、道端にしゃがんでいる。


(迷子とかかな? この人混みだし、親とはぐれたのかも……声かけた方がいいかな?)


「あの……こんな所で何してるの?」


 ユーマの声に反応して少女がゆっくりと顔を上げる。


(うわぁ……綺麗な子だな……)


 顔を上げた少女は人形のような整った顔立ちをしており、腰まで届きそうな銀色の髪をツインテールに纏めている、立ち姿に隙は無く、綺麗なドレスもあいまり、どこぞの貴族のご令嬢といった感じに見えた。


「ここで……待っていた」


「待っていた……って……ご家族を?」


 ユーマの問いかけに少女は首を横に振る


「私の……半身」


「半身って……?」


「もう……見つけた……でも、まだ早い……」


「早い?? さっきから何のことを……」


「いずれ……わかる……まだ、時が来てないだけ」


(この子は一体何を言っているんだ? もしかしてヤバい人に声をかけてしまった? それにしてもなんだ……? やけに周りが静かだ……さっきまであんなに騒がしかったのに……)


 ふと足元に何か触る感覚がし、にゃおんとクロの鳴き声が聞こえた。


「あっ! ユーマ様! こんな所にいた!」


 突如背後から声がしたと同時に周囲に音が戻る。


「あ……ああ、ラスティさん……」


「も~! ユーマ様勝手に居なくなっちゃ駄目ですよ! 探したんですからね!! こんな路地で何してたんですか?」


「いや……そこの子に……あれ?」


 振り返るも先程の少女が居ない、路地の先は突き当たりで脇道も無いはずである。


「あれ? 今そこで綺麗な女の子が……」


「なに? ユーマってばこんな路地でナンパ? 案外やるじゃない♪まあ、逃げられてちゃ世話無いけど」


「ち、違うよ! そんなのじゃ無いって!!」


 レイアに茶化されユーマが顔を真っ赤にして否定する。


(だけど……不思議な雰囲気の子だったなぁ……どこか……懐かしいような……?)


 過去にどこかで会った事があるのか……? 思いを巡らせるも心当たりが無い。


(まあ、分からないなら考えても意味が無いか)


 先を行くラスティ達を今度は見失わぬようユーマは人混みの中を駆け出した。



…………



「で? 今日の収穫はどうだったの?」


 レイアとフリードが城の執務室で酒を酌み交わしている、飲み干したグラスを突き出すフリードにレイアが酒を並々と注いでやる。


「ああ、去年よりは多いな、まあいつも通りの獣人共だ……ただ、気になる部分があるな」


「気になる? 何が?」


「てめーいつもこんな上等な酒飲んでやがんのか? 職権濫用じゃねーのかよ? もうちっとこういう酒を現場に支給してだな……」


「茶化すのはやめなさい」


 睨みをきかせるレイアにフリードが両手を挙げ、こぼれそうになった酒に慌てて口をつける。


「ふぅ……まあ、冗談はさておきだ、明らかにおかしいのは奴等の狙いが恐らく魔王様じゃなくガキだったって事だ」


「ユーマが? まさか加護の事が土の国に漏れてる?」


「確証もねぇし全部かどうかは分からねーがな、だが、奴等は王国の方にもスパイを入れてるはずだ、そこから漏れたか、王国から土の方に情報を出したか……まあ、確認しようにも例年通り捕まえた端から勝手に自決しちまうんだ、情報が入らねぇ分暴れられるよりタチが悪ぃ」


 レイアが顔をしかめて考え込む……。


「どちらにせよあまり良い状態じゃないわね、特に後者なら、敵同士だった二国が手を組んだ事になる、早ければ年明けから大きく動く可能性も……」


「まあ、考えてるだけじゃしょうがねぇ、あっちが動くつもりならこっちもやれることやらねーとな……」


「まずは水の国との同盟の強化ね、年明けにユーマも連れて行くわ」


「加護を引き合いに同盟の強化を打診か、まあ、大魔王の熱狂的な信者があそこは多いからな、ま、上手くいくのを祈ってやんよ」


 フリードは一息にグラスの酒を飲み干すと伸びをして立ち上がる。


「んじゃ水の国に行くのに足が要るな、年明け一番で山にガキ連れてくぞ?」


「ええ、私もついて行くわ、今回じゃなくてもいずれ必ず必要な物だしね……」


「そんじゃ俺ぁちっとゆっくりと英気を養うとするか、これ以上仕事振ってくれるなよ?」


 部屋を出ようとするフリードをレイアが呼び止める。


「仕事を増やしはしないけど、懐に隠した酒瓶は置いて行きなさい? 給料から天引きするわよ?」


「ちっ、めざといババアだぜ……」


「あ~ら? 何か言ったかしら??」


 フリードは乱暴に酒瓶を置くと急ぎ足で執務室を出て行った。


「出来れば穏やかに過ごさせてあげたいけどね……酷い大人だわ……全く……」


 祭りの喧噪も静まった夜の闇の中で、月が銀糸の様な光を放っていた。

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