神の雷3
「んにゃっ!? こ……この高さは流石に駄目だろうがああぁぁぁ!」
強風吹き荒れる上空に放り出され、叫び声を上げながらミーリアが落下を始める、内臓が浮くような浮遊感を感じた次の瞬間、結界で出来た足場がミーリアの体を受け止めた。
「うわ~、流石に高いですねぇ、それに風が強い! あはは、風に飛ばされたら危ないとこでしたね」
「ラスティ……お前は本当に何かする前に人に意見を聞くとか相談するとかだなぁ……っ!」
涙目で説教を始めようとしたミーリアが、目の前の異形を目にし、思わず息を吞み目を見開く。
限界まで膨らみ警鐘を鳴らす自身の尻尾を押さえつけ、向ける視線の先には唯々巨大な頭部が視界を埋め尽くしている……。
「はっ……ははは……これは間近で見ると冗談が過ぎるな……」
「ね~、こんなにおっきくてご飯とかどうするんですかね?」
「おま……まぁいい、それでは結界を頼む、幸い今あいつは後ろを向いている、気付かれずに中に入れそうだ」
ラスティの斜め上の返事に思わず強張っていた肩の力が抜ける、思えば何か重要な事があるときにはいつも彼女のこういった部分に助けられていた……感謝の言葉を呟こうとしたミーリアが開きかけた口をぐっとつぐんだ。
「? どーしたんです? はい、終わりました! 今の私で出来る最高の結界です! レイア様みたいにはいきませんけど何重にもかけてあるんできっと大丈夫です!」
「……うん、ありがとう、言いたいことがあった気がしたが……まあ、それは全部片がついてからにすることにするよ」
「……あ~、なるほどぉ……ドラスさんに伝言ですかぁ? やっぱそういうのは直接伝えなきゃ意味ないですもんね! うんうん!」
「ちっ……違うわ馬鹿!! あ~もう! お前と話してると調子が狂う! さっさといくぞ!」
ミーリアに急かされラスティが足場を作り、飛び石を渡るように巨人へと近づいてゆく。
「さて、それじゃミーリアちゃん、絶対に無理はしないで下さいね? 絶対ですよ?」
「ははは、まあ、善処するよ、じゃあ行ってくる!」
ミーリアが一跳びに巨人の後頭部に取り付き、そのまま闇色をした魔力の中に沈んでゆく……その様子を見届け、ミーリアの魔力が健在であることを確認してからラスティはその場に仰向けに倒れ込んだ。
「あ~……お腹へったぁ……流石に……これはきついかなぁ……」
直接戦闘に参加はしていないとはいえ、度重なる転移に結界の乱用、表に出さぬよう耐えていたがラスティの魔力は底をついていた。
懐を探りブロックに持たされた魔石袋を逆さに振るが、口中に落ちてきたのは小指の先程の魔石が一つだけ……ボリボリと咀嚼しながら飛び起き、改めてじっくりと巨人を観察する。
「よっと……皆今どうしてるのかなぁ……下の方ではなんかちょいちょい瓦礫とか飛んでるけど……下に降りるまで魔力保ちそうにないし、冥土の土産に巨人さんの顔でも見てみますか! ……メイドが冥土の土産……ぷぷっ……」
鼻歌を歌いながら巨人の頭部を回り込んでゆくラスティ、巨大な耳を横目に左右に張り出した巨大な角をくぐり、妖しい光を放つ瞳を眼下に捉える、と、巨人の額を確認したラスティがその場に金縛りにあったように立ち尽くす。
「……えっ!? えっ? 嘘! ユーマ様!?」
巨人の額の中心からユーマの上半身が突き出ている、いや、生えていると言うべきか? 近寄って見てまじまじと観察するも、いつものユーマが目を閉じて眠っているようにしか見えない。
「もしかして引っこ抜いたら巨人が止まったりしないかな?」
広げた状態で固定されていたユーマの両手の拘束を解き、思いっ切り引っ張るもビクともしない、半ば同化しているようにも見えるが、拘束されていた部分が剥がすと同時に掻き消えたのを見ると、どうやら本体以外は離脱させれば消えるようだ。
と、ユーマを更に強く引っ張ろうと巨人の額に足をつけた瞬間、ラスティが弾かれたように飛び退きへたり込む……。
「これ……は……? この飢餓感……まさか……!?」
ラスティを襲ったのは懐かしい感覚、あの日突然奪われた、半身とも言える力がもたらす激しい飢餓感……。
「そうか、この中に魔剣が……大罪の加護があるんですね……この感じならもしかして……!」
試しに巨人の額に手を当て感覚を頼りに力を込める……と、巨人の額が見えない何かに齧られたかのようにえぐり取られる。
「これを繰り返せば……!」
ラスティがユーマの周囲の肉壁を慎重に慎重に抉り取ってゆく……もう少し……慎重に……焦る気持ちが手元を狂わせそうになるが集中力を保ち徐々に徐々に掘り進めていく……だが……。
(あっ……駄目だ……魔力が……もう……少しなのに……)
ユーマの手を引くラスティの手がすっぽ抜ける、集中する事により誤魔化していた限界がついに訪れてしまったのだ……。
倒れたラスティの背がつかんとする瞬間、足場の結界が砕け散り、色とりどりの破片と共にラスティが落下してゆく……自身の力が及ばぬ悔しさ、これで最期であるという口惜しさ、それらから気が付いた時には思わずその名を呼んでいた……。




