神の雷2
「……兄者ぁ……生きてるかぁ? ……死んだのか?」
瓦礫の山がガラガラと崩れ落ちる音が大地を揺らす足音に掻き消される。
無機質な陶片を落とすような音に続きガシャンと何か金属質な物が倒れる音がした。
「ゼェ……ゼェ……生きとるわい! 勝手に殺すな! 全く……手こずらせおって……」
ガランと音を立て戦斧を落とし、グローインがその場にどっかと腰を下ろす。その体中が夥しい数の傷に覆われ、瓦礫まみれの地面に赤い斑紋を浮かべる。
「おぉ……生きとったか……やれやれ、互いに歳はとりたくないもんじゃのぅ……」
「……ブロック……お前……目ぇ、見えとらんのか……」
「おぅ、やられちまったなぁ……兄者は無事か?」
「……儂は左腕よ、何処に飛んでいったのか皆目わからん、全く、派手な親子喧嘩になったもんじゃ……のぅ?」
グローインが話し掛ける彼の足元に、ほぼ骨格だけの状態で魔力と表皮の欠片を僅かに纏ったクラウンが横たわる。
「……なんだよ……まだ……やらなきゃいけないことあんのにさ……あ~っ! なんかもう……どうでもいいや……」
「ふん、そういう割には途中からえらく楽しそうに戦っておったの。……のぅ、クラウン、やらなきゃいかんことと言うが、それはお前の本当にやりたかった事か?」
グローインの問いにクラウンが目を丸くし、そして突然笑い出した。
「フフッ……フフフ……アハハハハハハ! 僕の? やりたいこと? ハハッ……考えたこともなかったや!」
「……なんじゃい、そういう風に笑うこともできるんじゃないか」
「やりたいこと……ねぇ、ただ……楽しければよかったんだけどなぁ……まぁ……でも、おっちゃん達とやりあったのは楽しかったよ……」
「楽しいで利き腕と目をやられる側の事も考えろい!」
一拍置いて三者三様に堰を切ったように笑い始める、ひとしきり笑った後、クラウンがポツリと呟いた。
「まあ、罰が当たったんだろね、おっちゃん達も、僕も……でも、何だか気持ちいいや、最期だし、おっちゃん達にお礼をあげるよ」
「礼? そりゃあ……?」
クラウンが目を閉じ、全身の力を抜く……と、クラウンの纏う空気が、魔力が、穏やかに変化していく……。
「兄者……これは……この魔力は?」
固まったように動かないグローインの眼前で、柔らかな光を放つクラウンがぎこちなく体を動かし喋り始める。
「……とう……ま……お、父様……ありが……と……う」
クラウンの口元が微笑みを浮かべ、次の瞬間、ガチャリと音を立て倒れ伏し動かなくなる……。
「兄者……よかったな……」
「……よかないわい……ズズッ……親不孝もんが……二度も儂を泣かせおって……」
右手で目頭を押さえるグローインの肩をブロックがバシンと叩く。
「さて、あとはあのでかぶつじゃな」
「うむ、じゃが……儂らで何が出来るかじゃのぅ……」
「な~に、結界装置で足止め位は出来るじゃろ、余った資材と瓦礫で組み上げるぞい! 兄者! 手伝え!」
「利き腕と目をやられてか、面白いじゃねぇか! どっちがいいもん作るか競争じゃな!」
グローインとブロックがいそいそと瓦礫の山をかき分け使えそうなパーツを探し始める。
鼻歌交じりに手探りで部品を探すブロックを見てグローインが怪訝な顔で話し掛けた。
「目をやられたっちゅうのに機嫌がいいな、なんぞおかしいんかいな?」
「いやいや、納得いくもん作って満足出来たと思ったら……なんじゃ、まだ作りたい物が出てくるもんじゃと思ってなぁ」
「んん? あっ! そういやブロック! あの坊主がもっとった剣! ありゃあどういう造りなんじゃ!? あんなもん一人で作りおって……! どうして儂を呼ばなんだ!」
「あれの事が聞きたいか? まぁ、作業しながらゆっくり聞かせてやろうかのぅ……」
……
「ミーリアちゃん! 危ないですって! さっき兵士さん達が魔力に吞まれて消えたの見てたでしょ!」
破壊を続ける巨人の足下で、巨人に向かい突っ込んで行こうとするミーリアをラスティが羽交い締めにし必死で止めている、聞く耳を持たずラスティを引き摺り尚も進もうとするミーリアの足を影蛇が薙ぎ、倒れたところをようやく拘束する。
「はっなせっ……! ラスティ! くっ……邪魔を……するなっ!」
「あ~っ! もうほんと馬鹿力なんですから! さっき見たでしょ! あの魔力に触れたら魂ごと取り込まれて消えちゃうんですって!!」
「ならば余計に早くティリス様をお救いせねばならんだろうが! 私がお守りせねばっ! これ以上あのお方に……」
「そぉい!」
ラスティを背に乗せたまま這いずり進もうとするミーリアの脳天に強烈なチョップが炸裂する。
「ぐっ!? ……おぉ……おお……ぉ……なっ……何を……!」
「少しは頭を冷やしなさい! あなたに何かあって一番悲しむ人は誰!? 自分を助けるために犠牲になられて喜ぶような子ですか!」
もがくミーリアの動きがピタリと止まる、だが、その四肢にはまだ力が篭もったまま大地に突き立てられた爪がガリガリと傷を付ける。
「だが……しかしな……」
「駄菓子も菓子もありません! まずは落ち着いて考えないと……ジュルッ」
「うにゃああぁ!? 頭に涎を垂らすな! 菓子に反応してんじゃない! ちょっ放せ! はなせええぇぇ!!」
ミーリアが渾身の力でラスティを振り払い、荷から引っ張り出したタオルで勢いよくわしゃわしゃと頭を拭き始める、毛づくろいまでばっちり終わらせたところでようやく普段通りの落ち着きを取り戻した。
「頭は冷えたみたいですね、それじゃあ作戦会議です」
「ああ、誰かさんのおかげでな! ……まぁ……すまなかったよ……」
「素直でよろしい! で、あれをどうするかですけど……」
「私があいつの中に入る!」
「ちょっ!? だ~か~ら~! あれに近づいたら取り込まれちゃうんですって!」
詰め寄るラスティをミーリアが手で制する。
「まあ待て、無策に突っ込む気は無い、『あれ』にあいつらが呑み込まれた時、気付いた事がある」
「?」
「あいつらの中に魔術師が居ただろう? 周囲が嬉しそうにあれに吞まれる中、魔術師だけ最初は吞まれていなかった」
「……あ……そういえばそうでしたね……でも他の人達と違うとこは……あっ!」
ラスティが何かに気付いた様子でポンと手を打つ。
「そういうこと、結界の存在だ、私達と戦闘中だったためあの魔術師は結界を展開したままだった、恐らく結界で守られている間は呑み込まれないんじゃないのか?」
「う~ん……確かにそうかも知れませんが……でもやっぱり危険すぎます、中でどの位耐えれるかも分かりませんし」
「だからといって手をこまねいていてはどうにもならない、この状況だ、放っておけば世界が滅ぼされかねないんだから、やれる事はやるべきだろう?」
ミーリアの言葉にラスティが腕を組み考え込む、ミーリアの言うことは尤も、だが、友をそんな不確実な手段で送り出して果たしていいものか……自問自答するが答えが出ず頭から煙が上がり始める……。
「悩んでくれるのは嬉しいがな、お前が協力してくれないなら一人ででも行く、止められると思ってくれるなよ?」
「……あ~っ! もう! 昔っからこうと決めたら絶対退かないんですからこの分からず屋は!! いいですよ! ただし! 絶対に無理はしないこと! いいですね!」
「ああ、約束する、それで……入るなら出来るだけ怪しい場所に近い方がいいが……」
「ユーマ様の居場所なら大体で予測出来ますから、多分ティリスさんもそこに居るかもですねぇ」
「! なんだ? 場所を特定することが出来るのか!?」
目を輝かせるミーリアにラスティが笑顔で答える。
「はい! さっき遙か上空をニールが飛んでいるのが見えました、ニールは多分ユーマ様の近くに居ようとしているはず! だからあそこに飛べば必然的に目的地付近です! それじゃあ行きますよ!!」
ラスティの説明を聞くミーリアの顔色が青から白へ、そして死人を思わせる灰色に変化する。抗議の言葉を放とうと口を開くよりも早く、地面にぽっかりと開いた転位陣に、落下するかのように吸い込まれた……。




