終末の巨人3
「いか……なきゃ……早く……」
崩れた瓦礫に塗れた聖都をふらふらと歩くノルン……呼吸は荒く足元も覚束無い……が、その瞳は未だ光を失わず遙か見上げる異形の巨人を見据えている。
ふらつく足を叱咤し握る杖に力を込めた瞬間、こちらに駆け寄る人影が見えた。
「ノルン! 何でここに……? 大丈夫? 他の皆は!?」
「あ……先輩……ハァ……グローインさんとブロックさんは……門の付近であのクラウンっていう機械人形と……あと、ラスティさんとミーリアさんが……」
レイアの顔を見て安心したのか、ノルンがその場に崩れるように膝を折る、慌てて受け止めたレイアが怪我の有無を確認し、安心したように溜息をついた。
「さっきの雪崩を止めてくれたのはあなたね、ありがとう、助かったわ、それで……ラスティとミーリアが?」
「あの巨人の元に行ってしまって……恐らくあの中にティリスさんとご主人さまが……」
「やっぱりあれはユーマが関係しているのね……一体どうすれば……」
レイアに体を預けたノルンが深呼吸を数度、杖を支えにもう一度体を起こしヨロヨロと歩き始める。
「ちょっと! どうする気!?」
「ウルグスは……この世を……そして私達神族を憎んでいました、あの巨人を……ご主人さまの力を用いて何をする気なのか……止めなければ……!」
力強く一歩踏み出したノルンだが瓦礫に足を取られつんのめる、そのまま倒れる所をフレデリックが手を貸し抱き上げた。
「ならバ共に行こウ、我等従魔の仕事はゴ主人様の願いを叶えル事……ゴ主人様が破壊を望ム訳は無いからナ」
「……はい、ならば北東の廃教会へ……まずはあの巨人の動きを止めなければ……!」
崩れた瓦礫の積もる中を教会へ向かいひた走る、こちらの方が早いと抱き上げられたまま移動するノルンは、背後からのレイアの突き刺すような視線を感じていた……。
……
「……ここは……一体……?」
ユーマの放つ闇色の魔力に吞まれたマリアとダリスは光を放つ不思議な空間に立ち尽くしていた、辺りを見渡すも動くものは何も無く、唯々(ただただ)灰色をした動物の体内を思わせる肉壁がドクン、ドクンと脈動している。
「俺達はさっきの闇に吞まれて……? まさか死……!?」
「いや、違うわ、さっき言ったでしょ? 全てを取り込んで一つの生物にって、恐らくここはそうして造り上げられた生物の中……」
「ほっほっほっ、御名答、小さいのに大したお嬢ちゃんだ」
二人が弾かれるように声がした方を見ると、灰色の肉壁をすり抜けるようにしてフラメルが姿を現す。
「フラメルって言ったかしら? あなたが黒幕みたいだけど……一体どういうつもりでこんなことを?」
「ふむ? どんなつもり? ですか……先程申し上げた通りですよ、私は全ての人類を救いたいのです、救済、それは神の国での永久の安寧……女神様の教えに従いそれを目指し、そしてそれが今叶いつつある、これこそが我が崇高なる使命なのですよ」
「女神の教え……ねぇ……」
自らの言葉に陶酔するかのような表情で語るフラメルを見、マリアが大きな溜息をつく。
「本当に女神様がそんなこと言ったのかしら? あなたの今の行動、きっとその女神様とやらの逆鱗に触れてるわよ?」
「ほっほっ、あなた達には我が使命の重大さ、分からないでしょうねぇ、さて……まあ今のこの状況ですが……あなた達の魂がこのままここに存在されていると少々都合が悪いのです、穏便に溶け合って頂けたら……」
飽くまでも柔和ににこやかに話すフラメルに向かい、無言のままマリアが杖を、ダリスが槍斧を突き付ける、少し驚いた顔をしたフラメルが顔を伏せ、肩を揺らし笑い始めた。
「ふっ……ククク……そうですか、飽くまで抵抗しますか、いいでしょう、それならば女神の名の下にあなた達を粛清します、悔い改めるなら言いなさい、女神様は慈悲深いですからねぇ!」
フラメルが翳した手に何も無い空間から杖が現れる、フラメルの振るう杖から放たれた闇色をした球体とマリアの放った火球がぶつかり合い対消滅を起こし、凄まじい熱が空気を焦がす。
「あっちっ! マリア! いきなり無茶するな!」
「うっさいわね! 喋ってないでさっさと動く! このおっさん片付けてユーマとティリスを捜すわよ!」
マリアの言葉が早かったかダリスが動くのが早かったか? 一息の間にフラメルの背後をとったダリスの一閃、だが首筋を捉えた筈の斬撃は空を切り、フラメルが宙にかき消えるように消え失せる。
「……!? どこに消えた?」
「急いてはいけませんよ、慈悲、これは慈悲なのです、あなた達は罪深い……ですが許されます、皆と溶け合い一つになることであなた達の罪も浄化されるのです!」
「ダリスっ!」
音も無くダリスの背後に現れたフラメル、いち早く気付いたマリアが火球を放つが……。
「ぐぁっ!? ま……マリア? 何を!?」
「はえっ? えっ? いや、今ちゃんと狙ったはず……?」
フラメルを狙い放たれた火球が突如軌道を変えてダリスを直撃する、背中から黒煙を上げ膝をつくダリスの背後で肩を揺らし笑うフラメルに、マリアが再び大量の火球を放った。
「何をやったか分からないけど! これでどう……って……嘘でしょ!?」
マリアの放った火球がフラメルに届く寸前で静止し、そのままマリアの元に舞い戻る、慌てて放った火球で相殺するも爆発の勢いのままに吹き飛ばされる。
「っつぅ……大丈夫か!?」
「……ごめん、ありがとう……でも、一体どうなってるの……?」
飛ばされたマリアをダリスが受け止め、その勢いのままフラメルから距離をとる、二人の目の前をマリアが放ったはずの火球が縦横無尽に飛び回り、やがてフラメルの周囲で衛星のようにゆっくりと回転を始めた……。




