終末の巨人2
「いよっしゃああぁ! なんか知らねぇがとんでもねぇのが出て来やがったな! 一番槍は俺様がいただくぜ!」
建物の屋根から屋根へ、凄まじい勢いで走り抜けたフリードが一息に跳躍し拳を振りかざす、と、巨人の頭部に何かを発見し、そちらに目を奪われる。
「はっ? ありゃぁ……おっ? ぬおぉっ!?」
気をとられた一瞬の隙が反応を遅らせ、巨人の振るった拳がフリードを捉え弾き飛ばす、家々を貫く威力でフリードを吹き飛ばした巨人が、遙か地平の先に届くほどの巨大な吠え声を上げた。
「んなっ……!? な、なにあれ……!」
「アの中に、ゴ主人様が居る……!!」
「はっ!? あれの中に!? ……嘘でしょ、どうなってんのよこれ……」
神殿まであと少しという所で衛兵達の迎撃に遭っていたレイアとフレデリックが、神殿を崩し現れた異形に思わず息を飲みその場に金縛りに遭ったかのように立ち尽くす。
崩れる瓦礫がレイアに迫り、我を取り戻したフレデリックがレイアを抱き寄せ降り注ぐ瓦礫の雨から脱出した。
「おお……おぉ! ついにこの時が!!」「女神よ! 我等を導き給え!」「神の御許へ! 神の御許へ……!」
「な……なに? あいつら……あの化け物から逃げもしないで何を?」
瓦礫で負傷しながらも異形の巨人を見上げ、縋るように、祈るように近づいてゆく聖都の兵達を、闇色をした魔力が覆い呑み込んでゆく……。
「どうなっテいる……?」
「分からない、でも、今取り込まれた人達の魂が溶け合って一つに……? ……!? 動く!」
巨人がその下半身に積もった瓦礫を撒き散らかしながらゆっくりと右足を持ち上げる……。
「フレデリック! ここを離れて! 流石に立ち向かうには危険過ぎるわ!」
「だガ……ゴ主人様が」
「いいから! 私達だけで対処出来る相手じゃないわ! 皆と合流するの!」
ゆっくりと持ち上がった巨人の右足が、その質量の総てを乗せて振り下ろされる、フレデリックは巨大な壁のようなそれを見上げ、奥歯を噛み締め踵を返した。
「ブロックさん……あ、あれは何ですか……?」
ノルンが震える手で指差すそれを見、誰も彼もが呆然と立ち尽くす。
「わ、分からん、分からんが……ろくなもんじゃない事は確かじゃ……」
「ティリス様……! ユーマ殿も……もしやあそこに!?」
「あっ! ミーリアちゃん! 待って! 一人じゃ危険ですよ!」
逸る気持ちを抑えきれず走り出したミーリアをラスティが追う、慌てて後を追おうとしたノルンの目に巨人が足を踏み出すのが映り、一拍遅れて大地が波打つように激しく振動した。
「ぬおぉっ!? こ、こりゃいかんな、おい! おい兄者! 動かねば流石にヤバいぞ! 立つんじゃ!」
「……いかん……もぅ……マヂムリ……この状態で揺らされたら……」
「ああぁ……ラスティさんもミーリアさんも行っちゃった……二人とも立って下さい! 早く追い掛けないと! ……何? この音は??」
大地を波打たせる振動が治まると同時に、四方八方から地鳴りのような音が響き渡る、周囲をキョロキョロと見渡すノルンとブロックの目に、聖都の全周から迫る白い煙の様な物が映った。
「今度は雪崩か! あの規模じゃ……流石にこれはこの都市の結界でも……!!」
「……!! ブロックさん! 万が一に備えて防御態勢を取って下さい!」
凄まじい音を奏でながら押し寄せた雪崩が、聖都の頑強な結界に阻まれ、押し合い、そして圧壊させる、結界に跳ね上げられた大量の雪が津波のように押し寄せるのを、間一髪ノルンの展開した広域結界が受け止めた。
「くっ……ううぅ……流石に、これは……きつ、い……!」
結界壁をビリビリと振動させる程の衝撃が徐々に、徐々に弱まり、耐えきれず砕けた結界の上にドサリドサリと雪が積もる。
「おお! ノルンちゃんナイスじゃ!」
「ハァ……ハァ……なんとか……止めれた……でも、流石に魔力が……」
杖を支えに荒い息をつくノルンの膝がガクガクと震えている、無理も無い、王都での戦闘に包囲結界に使用した結界装置、それに先程の雪崩、流石に神族といえどまだ若いノルンには荷が重い相手であった。
「大丈夫か!?」
「はい……まだ、大丈夫……早くご主人さまの所へ……」
「……ねぇ」
突如、背後から話し掛けられ肩を跳ね上げた三人が振り返る、その声の主を視認したブロックが大きな目を更に丸くし、思わず叫ぶ。
「……クリス! ……いや、違う、今はクラウンか……」
「おじさん何だよクリスって、ってゆーか僕は頼まれた仕事しなくちゃいけないから質問に答えて……?」
(……ザザッ……お父様……くは……になりたいな……ザッ)
クリスという名を聞き、興味無いとばかりに聞き流したクラウンだが、何が起きたのか頭を抱えその場に蹲る。
「……今のは?? っ! おじさん今僕に何をしたのさ! ってか町に侵入したのはあんたらだけじゃないんだろ? さっさと他の奴等の居場所を吐いてよね!」
「あなたはまた私達の邪魔を……! グローインさん! ブロックさん! 援護します! 早く片付けて……」
「いや、ノルンちゃんや、ここは儂らに任せて行ってくれ」
「そうじゃ、製造者責任っちゅうとこじゃな、急がにゃならんのじゃろ? 早く行け」
「で……でも……」
口ごもるノルンだが強い意志の宿った二人の目を見、一礼してから走り出す。
「なんじゃ? 追わんのか?」
「……逃げ場はないよ、放っておいても、それと……製造者? って事は何? おじさん達が僕を作ったって事?」
「……ああ」
(……ザザッ……くはね……様みたい……王様に……ザッ)
動きを止めたままのクラウンの双肩から暗い闇色をした魔力が立ち上る……キリキリキリキリと糸を引き絞るような音が響く中、グローインとブロックが武器を担ぎ上げる。
「……ひとつ、質問してもいい?」
「なんじゃ?」
「……何の為に僕らを作ったのさ?」
顔を伏せ質問をするクラウンの表情は見えない、ゆらゆら陽炎のように立ち上る魔力を眺めつつ、グローインが奥歯をギリリと噛み締めた。
「なに、女神様が定めた運命とやらに逆らいたくなっただけよ」
「……運命?」
「神の真似事だ、だが、そんなことしても喪った者は戻っちゃ来なかった……挙げ句の果てにゃ悪ぃ奴等に奪われてこの有様だ、せめて……責任だけは取らにゃな……」
(……ザザッ……お……様……が……んでも……しまないで……ザッ)
言葉を交わす度に頭の中に現れる見覚えの無い映像、口にしてない筈の言葉……キリキリ……キリキリ……糸を引き絞る音が自らの中で反響し、耐えがたい頭痛を伴いクラウンを襲う。
「……んだよ……どいつもこいつも勝手にさ……作るだけ作って都合が悪くなったら……!! 誰が! 誰が作ってくれって言ったよ!? 誰が! 誰が!! 僕は! 僕らは何のために!? なんで僕らに意識なんて持たせたんだ!!」
クラウンが叫ぶと同時に周囲の家屋が微塵に切り刻まれる、キリキリギリギリと糸を引く音が響き渡る中、グローインが瞳を伏せ大きく息を吐いた。
「兄者……」
「ふん、子の不始末は親の不始末じゃ、儂らで終わらせねば、いや、終わらせてやらねばならん……さあ、一丁親子喧嘩といこうかい!」
キラリキラリと輝きを放つ糸が、辺り一面を見境無く切り裂き、破壊する。
指揮者のように腕を振るい、狂った不協和音を奏で続けるクラウンに向かい、二人は鉛の重さを感じる足を力強く踏み出した。




