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神域の従魔術師  作者: 泰明
王国の闇
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北の聖域4

「君は……確かトーヤ君だったか……んん? 確か侵攻の際の大規模魔術の邪魔しようとして幽閉されてたんじゃなかったっけ?」


「脱出に多少乱暴な手は使いましたけどね……ですが……手段どうこうは今は二の次です」


「う~ん……それにしても今聞こえたけど、君が? 僕を? 止めるって? ……君にはマリアちゃんみたいな魔法のセンスも無ければダリス君みたいなパワーやスピードも無い……ましてアレックス君みたいな結界の才も無い、魔力感知以外に特段優れた部分の無い凡人だ、その君が……僕を止めれるとでも?」


 大地が鳴動を始め、まるで水中に居るかのように空気が質量を持つ……背筋を冷たい何かが流れるのを感じながら、トーヤは音を立てる奥歯を噛み締め、震える手を握り込んだ。


「分かってます……分かってるんですよ……自分が弱いことも……才能が無いことも……でも!」


 トーヤがグレッグを見据え、歯を食いしばり無理矢理に笑って見せる。


「ここで退いたら、ここで力になれなかったら生涯後悔する、あいつらの友達だと言えなくなる、そんななら死んだ方がマシだ!」


「あっそ、なら死んで良いよ」


 苛立った様子のグレッグが杖を翳すと、飛礫と岩槍がトーヤ目掛けて襲い掛かる、天性の魔力感知で躱してゆくトーヤだが、運動能力の不足は補い難く、退路を塞がれ追い詰められてゆく……。


(分かってる……長くは保たない……でも……一分、いや……一秒でもいい! 少しでも時間を……!? しまっ……)


 飛礫を躱したトーヤの足が、大地から生えた腕に絡め取られる、ハッと正面を見たときにはもう遅かった、目の前には巨大な岩槍がまるで顎を開いた狼のようにトーヤを食い千切らんと迫っていた……。

 思わず目を閉じたトーヤの耳に巨大な破壊音と共に柔らかな落ち着いた声が響く。


「何とか間に合ったわねぇ、トーヤ、ありがとう、さっきの啖呵格好良かったわよ」


 おそるおそる目を開けたトーヤにクレアがにっこり微笑みかける。


「さて……と、誰かがおイタをしてると思ったらやっぱりあなたね、グレッグ」


「くっ……くくくっ……ひっさしぶりだなぁ! クレアぁ! 俺ぁお前に会いたくて会いたくてよぉ! だがまぁ……なんつーか、しわくちゃのばーさんになっちまいやがったなぁ……」


「しわくちゃは余分ね、あなたも会わない内にえらく男前が上がったわねぇ……もう半分もこんがり焼いて貰ったらバランスが良いんじゃなくって?」


「焼かれるのはもう勘弁だな、いてーのよあれ……それより今はお前だよ! ようやく姿を現しやがったな! どいつもこいつも歯応えがなくってよぉ……」


 グレッグが泣きまねをしながら伏せていた顔を上げ、満面の笑みでクレアに笑いかける。と、同時に溢れ出した魔力が周囲の瓦礫を巻き込み、二人の間に渦を巻き嵐のように吹き荒れ始めた……。


「相変わらずねぇ……懲りずに顔を合わせる度に挑んできて……まあいいわ、トーヤ、北東地区にいくつか人の反応があるわ、何かあったらいけないから避難誘導して頂戴、私はこのだだっ子をちょっと躾なおすから」


「はっ……はい!」


 瓦礫を乗り越え駆け出したトーヤを見送り、シスターがその腕に装着した手甲をガインッと打ち合わせる。


「……? おい、クレアよぉ? お前『水竜の杖』はどうしたよ?」


「?」


「魔界に行ってぶんどってきたってぇあれだよ! まさか杖無しで俺の相手をするつもりか!?」


 グレッグの指摘に少し考え込んだクレアが、なにかに気付きポンと手を打つ。


「ああ! あの龍の飾りのついた!」


「そう! それ!」


「とっくに鋳溶かしてこの手甲に変わったわよ」


「はぁ!?」


 あんぐりと口を開けたグレッグにクスクス笑いながらクレアが続ける。


「それに、今日は特別に魔法を使わないで相手をしてあげる」


「なっ……!? お前流石にそれは舐めすぎ……」


 怒りの表情を見せるグレッグだが、クレアが放つただならぬ気配に口ごもる、クレアがにっこり笑い右腕を一振りすると、先程まで荒れ狂っていたはずの魔力の乱流が嘘だったかのように空気が凪ぐ。


「……私は怒ってるのよ……帝都ではうちの娘と娘婿を随分苛めてくれたようねぇ? 私は今日はこの拳で戦いたくて仕方が無いの……」


 クレアを中心に空気が爆ぜる音がバチバチと響き、濃密な魔力の立ち上がりに周囲の瓦礫がガタガタと浮かび始める。


「……来なさい、今一度、あなたに私を怒らせたらどうなるかというのを教えてあげるわ」


「くっ……くくくっ……たまんねぇなあ! やっぱお前は最高だ!! んじゃあ一丁おっぱじめるとするかぁ!」


 雲一つ無い聖都の空に分厚い雲のように大量の瓦礫が舞い上がる……大地を揺らす轟音と共に、聖都の誇る美しい町並みが区画ごとはるか上空に吹き飛んだ。

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