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神域の従魔術師  作者: 泰明
王国の闇
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北の聖域3

「ふ~む……久し振りって言うには少し早いかな? 結構痛めつけたつもりだったんだけどなぁ……若いっていいねぇ」


 区画を丸ごと遮る巨大な壁の上にニョキリとグレッグが姿を現す、飄々とした態度も人を食ったような話し口も変わりないが、一つ、以前と違いその右半身は痛々しい火傷痕に覆われている……。


「ちょっと見ない間に男前が上がったわね、でも年寄りが若さに嫉妬するのは見苦しいわよ? ここは今を生きる若者に潔く道を譲ったらどうかしら?」


「今を生きる若者ねぇ……んじゃなにかい? じじいはもう死んでるって事かい? なんか意地でも通したくなくなってきたねぇ……ってか……先生こないだの帝都殲滅作戦の失敗で怒られちゃってさぁ? 今回はしくじれないんだよね~、それにこの火傷じゃ若い子が相手してくれなくてつまんないからさ……君達が相手してくれるかなっと!」


 グレッグが杖を一振りすると目の前の巨大な壁が砕け散り、意思を持った無数の飛礫が二人に襲い掛かる、結界を展開したマリアを抱え屋根から屋根へ、物陰から物陰へとダリスが飛び回り、追い縋る飛礫を躱してゆく……。


「っと……参ったな……これじゃ前回と同じだ……」


「ってかダリス、前の斧に炎宿してバーン! ってやつ、あれは? さっさとあれでカタつけてきてよ!」


 期待を込めた眼差しでダリスを見るマリア、だが……当のダリスはバツが悪そうに露骨に目を逸らす……。


「――んだ」


「へっ? なんて……?」


「やり方が分からないんだよ……前回は無我夢中でやっててさ、気が付いたら出来てて……正直今魔力の流れも見えないし、どうやったら炎が出るのかも検討がつかん……」


「んなっ……!」


 呆気にとられるマリアの背後から巨大な岩槍が突き上がり一直線に二人に襲い掛かる、辛うじて結界で逸らした先端が石造りの家屋を二つ三つと貫き、勢いを殺すこと無く再度襲い掛かってくる。


「ちょっ……住人が居たらどーすんのよ! 仮にも自国の町中でしょ!? 少し考えて魔法を使いなさいよ!!」


「大丈夫大丈夫、今丁度大聖堂で祈りの時間だから何処の家ももぬけの殻、家が壊れるのも女神様の試練っつったら許してくれるよっ!」


 住民がいない、その言葉を聞いた瞬間からマリアの紡ぐ魔法が質を変える、慌てて身をかがめたダリスの髪を焦がしながら放たれた火球が、迫る飛礫を、岩槍を一瞬で蒸発させてゆく。


「そういうことならこっちも遠慮は要らないわね! 安心して、私が壊した分は女神にツケとくから!!」


「はぁ……居るか居ないか分からないような女神様に祈ったりツケたり皆忙しいねぇ……」


「あ~ら? 案外気付かないだけで近くに居るものよ? 女神なんてのは!」


 区画を丸ごと消し飛ばさんばかりの大規模魔術の応酬、火球と岩の雨が降り注ぎ、家屋をまるで玩具のように潰し、燃やし、破壊していく。

 両者一歩も引かぬ攻防の中だが……徐々に……徐々に形勢が動き始める……。


「……おかしい! 爺さんも相当魔力消費してるはずなのに一向に衰えない! どうなってんの?」


「それより魔法の出所の指示頼めないか? 流石に勘や感覚で躱すにはフリードじゃないんだから限界があるぞ!?」


「って言っても土地に宿った魔力が邪魔してわかんな……!」


 途中まで言いかけてマリアが何かに気付き、グレッグをキッと睨み付ける。


「おやぁ? その様子だと気付いたみたいだねぇ」


「そう……そういうこと、聖地の魔力を魔法に変換してたのね……ったく、やることがなにもかもえげつないわね!」


「魔力切れ起こすまで引っ張ってやろうかと思ったけど、案外早く見つけられちゃったねぇ……ちなみに君らがやろうとしても無理だよ? 専用の魔道具が無ければ暴走して『ボン!』だ」


 実力の差のある強者を相手取り戦うには多大な負担が掛かる、得てしてそういった際に限界というものはその当人の想定よりも圧倒的に早く訪れるものである……。

 それはいかなる天才であろうとも例外は無く……。


「ダリス! ハァ……次はあの建物の影に! 陣が組み上がる前に消さなきゃ……くっ……」


「マリア! 大丈夫か? ……っ」


 マリアの様子は誰がどう見ようとも良いとは言えない、額に玉のような汗を浮かべ息も荒く、時折苦しそうに目を伏してダリスに掴まる手に力を込め……。


「あだだだだ! 髪は! 髪はよせ! 引っ張るな!!」


「うっさいわね……! あんたまた私を放り投げて独りで戦おうとしてたでしょ?」


 マリアの指摘にダリスの肩がビクリと跳ね上がる。


「もうあんな無茶はさせないわよ……ゼェ……見てないところで勝手に死ぬとか絶対させないんだから……!」


「……」


「あ……でも、ちょっと待って……流石にこの状態の高速移動は……気持ち悪っ……」


 ダリスの肩に掴まるマリアの手が一瞬力を失い離れ、慌てて止まった勢いで盛大に鎧に顔面をぶつける。


「んなっ!? ま……マリア! 大丈夫か!?」


「あ~……いちゃついてるとこ悪いけどね、先生の相手もきちんとして頂戴よ? 相手してくれなきゃ拗ねちゃうぞっと!」


「なっ!? しまっ……!」


 衝突の衝撃で目を回したマリアを気遣いダリスが速度を弱める……と、踏み出した地面に鮮やかな光を放ち魔法陣が浮かび上がった、咄嗟にマリアを庇う体勢を取ったダリスの耳に聞いたことのある声が響く。


「ダリス! 後ろに跳べ!」


 響いた声に従い後ろに飛んだダリスの視界を大地を貫く岩槍が覆い尽くす、ほっと胸をなで下ろす暇も無く、追撃の飛礫が、岩槍がダリスに向かい襲い掛かった。


「右! 半歩後ろ! そのまま正面に走り抜けろ!」


 声の出す指示のままにダリスが襲い来る魔法を次から次へと躱してゆく……激しい猛攻の隙間にダリスが開けた広場に躍り出る、視界の端に映った声の主の名を呼ぼうとした瞬間、足下に現れた魔法陣がぽっかりと口を開けダリスとマリアを呑み込んでゆく……。


「……!? トーヤ! まさか……お前!!」


「出た先の正面の聖堂だ! 急げ! ここは僕に任せろ!」


 転移陣に呑み込まれたダリスとマリアを見送り、トーヤは大きくひとつ息をつくとゆっくりと振り返り、グレッグに向かい杖を構えた。

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