北の聖域2
「おらあああぁぁぁ! 死にたくねぇ奴は退きやがれ!」
山肌を凄まじい勢いで滑り落ち聖都へと襲い掛かった雪崩が、結界の壁に阻まれ遙か上空まで勢いそのままに巻き上げられる。
落下する勢いを利用し振り下ろされたフリードの拳が分厚い聖都の結界を打ち砕き、結界が再生する一瞬の隙に聖都の内部に皆が降り立ち、路地に向かい一斉に走り出した。
「よっしゃあ! そんじゃあひと暴れすっかぁ!」
「あんたねぇ……あの規模の結界に素手で挑むとか何考えてんのよ!」
「凄まじいパワーだな……本来の力がこれ程とは……」
「それにしてもイキイキしてるわ……完全な戦闘中毒者ね……」
フリードの行動に皆が呆れる中、ブロックが何かに気付き立ち止まりワナワナと手を震わせる。
「ふっ……フリード貴様右腕! 右腕ぇ!」
皆が立ち止まって見てみれば、なるほど、フリードの右腕の関節が一つ増え、有り得ない方向にねじ曲がっている……ブロックが青い顔を憤怒の赤に変える中、フリードが事も無げに言い放つ。
「んあ? あぁ、折れたな、おいブロック、この体元のより脆くねーか?」
「この馬鹿もんがああぁぁ! 粗末に扱うなとあれ程言っておったじゃろうが!」
「んなこと言っても仕方ねぇだろうが! ババア! 治療してくれや!」
フリードの暴言に口の端をひくつかせながらレイアが折れた腕を手に取る、と同時に逆方向にねじ曲げた。
「づぁっ!? ぐおぉ……なっ……何しやが……」
「非常時だから大目に見るけどねぇっ! 次言ったら消し炭にするわよ?」
「んだよ、面倒くせぇ……づあっ!? 千切れる千切れる! 捩るのをやめろババ……レイア!」
慌てて言い直すフリードにまだ不機嫌ながらレイアが治療を施す、繋がった腕の骨を確認し、叩いて確認しながらフリードが溜息をついた。
「全く、レイアがおるからと貴様は体をぞんざいに扱いすぎじゃ! 通常であればそのように簡単に治る傷では……」
「あ~……うっせぇうっせぇ! ってかよ、立ち止まって説教してる暇なんざねぇんじゃねーのか?」
「ん? なんじゃと? それはどういう……」
「……はぁ……仕方ないわね……」
マリアが何かに気付いたかのように杖を地面に突き立て魔力を注ぐ……と、同時に周囲から放たれた魔法が杖から展開された結界に弾かれる。
「出迎えカ……ご苦労……と言っタ方がいいかナ?」
「あんまり歓迎されては無さそうだがな……」
「とりあえずはまあ……フリードよろしく!」
マリアがフリードの背を押しそのまま逆方向に走り出した、後に続く皆を睨みバランスを崩したフリードが憎々しげに叫ぶ。
「てめーらずりーぞ! 雑魚共の相手なんかさせんじゃねーよ!」
「あんたが原因なんだから相手しなさい! 先に行ってるからね!」
「フリードすまん! 早くティリスを探さなきゃならんのだ!」
吠えるフリードの背後に第二波の魔法が降り注ぐ、が、突如現れた結界にまたもや全て弾き返される。
「なんだよ? お守りの要る歳じゃねーぞ?」
視線の先ではブロックが懐から取り出した結果装置を地面に突き立て戦鎚をかつぎなおしていた、訝しげな視線を送るフリードをふんと鼻を鳴らしブロックが睨み付ける。
「監視役じゃよ、お前を一人にしたら体を粗末に扱うじゃろうからな、儂がついてきちんと……こりゃ! 話が終わってないぞ!」
「じじいの長話聞いてたら日が暮れんだよ! さっさと片づけて追い付くぞ!」
長くなりそうなブロックの話を遮り、結界を乗り越えたフリードが魔術師の群れに襲い掛かる、降り注ぐ魔法を意に介さず暴れ回るフリードを追い掛け、戦鎚をかつぎちょんまげを揺らしながら、怒れるブロックが戦いの中に飛び込んでいった……。
「さて……マリア、ティリスが何処に居るか感知できるか?」
町中を走りながら尋ねるダリスにしかめっ面でマリアが答える。
「それが……妨害の結界があるんでしょうね……居るはずなんだけど位置が摑めなくて……」
「かなり念入りに妨害結界かけてあるわね……でも、これだけ念入りにかけてあるなら……」
「そう、場所はあのばかでっかい神殿の何処か……でも内部を闇雲に探すのは広すぎるし流石に……」
マリアの指差す先には火の国の魔王城の倍はあろうかという巨大な神殿がそそり立っている、周囲を敵に囲まれたこの状況で、内部構造の分からぬ建物の内部に無計画に立ち入るのはとてもでないが得策とは言えないであろう……。
歩を止める事無く頭を悩ませる四人、と、突然フレデリックが歩みを止め頭を抱えその場に蹲る。
「グっ……! お……オぉ……!!」
「っ!? フレデリック!? どうしたの? 何か攻撃でも……!?」
「違……ウ……これは……ゴ主人様……ガ……」
「ユーマが……? ユーマの身に何かあったって事?」
苦しむフレデリックを囲み、周囲を警戒しながらマリアが尋ねる、暫く頭を抱えて苦しんでいたフレデリックだが、大きく深呼吸をし息を整え、ようやくしっかりした足取りで立ち上がる。
「ゴ主人様が……きていル……」
「はっ? ユーマは王国でウルグスの相手してんでしょ!? まさかもう倒してこっちに……?」
「いや、そうなればもっと騒ぎになっているはずだ……だが……だとしたら何故……?」
「ゴ主人様の様子がおかしイ……何かがあっタのか……急がねバ……!」
フレデリックが脇目も振らず走り出し、慌ててレイアがその後を追う、一瞬出遅れたダリスが走り出そうとしたのをマリアが慌てた様子で杖で制した……次の瞬間。
4者の周囲の地表が陥没し、隆起した大地が間に高い壁を作る。
「……! マリア! ダリス! 無事!?」
「私達の方は大丈夫! 先に行って!! すぐに追い付く!」
マリアの返事があったことに少し安堵し、不安そうな表情を見せるもすぐに踵を返し走り出す、レイアの胸には例えようも無い不安が渦巻く……何か尋常では無いことが起きている……その確信だけが奔る脚に力を込めさせた。
「さ~て、私らはこっちの相手かぁ……ちゃっちゃと片付けるわよ!」
「簡単に行く相手ならいいんだがなぁ……そうもいきそうにないな……」
杖と槍斧を構え直し、背中合わせに警戒を強める二人の足下が小刻みに揺れ始める、鳴動が止み、二人が飛び退いた一瞬後に先程まで立っていた場所に無数の岩槍が突き上がる。
「ちゃっちゃと片付けるねぇ……こないだ半ベソかいてたお嬢ちゃんは誰だったかな? ってか先生嫌われたもんだねぇ……流石に泣いちゃうぞ?」
飄々としたつかみ所の無い特徴的な喋り方、飽くまでも軽い語り口だが、えも言われぬ迫力が言葉の中に宿り臓腑を握り揺さぶってくる……二人は武器を握る手にじわりと汗が滲むのを感じていた……。




