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神域の従魔術師  作者: 泰明
王国の闇
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王都5

 カキョンッと何かがはまり込む音がし、ユーマの踏み込んだ床から光が迸り魔方陣が組み上がってゆく……。


「これは……? 絡繰り魔方陣……!」


「貴様が来るであろう事は見通していた、ならば多少なりとも対策を打ってあるのも当然であろう?」


 組み上がった魔方陣から禍々しい魔力が立ち上り、ユーマの体を這うように包み込んでゆく、ユーマがその身から湧き上がる言い知れぬ不快感を感じ、剣を振るその手を鈍らせ歯を食いしばる。


「これは……フリードさんの動きを止めたって言う……」


「知っていたようだな、土の国で実験した魔法とは違うぞ? その陣は魔力だけでなく加護の力も体から剥離させ封じ込める、さて……先程までのような大言、貴様はいつまで叩いていられるかな?」


 ウルグスが手を広げると、それを合図に両の手に空間の裂け目から二振りの剣が現れる、膝をついたユーマを食い千切らんと三方から閃く刃が襲い掛かる。


「むぅ……?」


 ユーマの手足を狙った斬撃が予想を遙かに超える動きで躱される、命までは奪わぬよう手加減したのは事実……だが、明らかにその動きは魔力や加護を封印された者のそれではない……ウルグスの瞳に映る僅かな動揺と隙を見逃さず、ユーマが躱したその体制から満身の力を込め、ウルグスの頭部目掛けその踵を振り下ろした。


「ぐっ……! 何だと……? 確かに魔力も加護も封じられているはず……」


 一瞬反応が遅れるも、すんでの所で踵を受けとめた両の腕がみしりと鳴り、ウルグスの歯の根がきしむ音を立てる、遅れて発生した衝撃波が結界の壁を風船のように膨らませ、紫電の弾ける音を立てて震動させる……。

 ウルグスが驚くのも無理も無い……。

 誰が看破できようか? 齢10になったばかりの少年が加護を得たその日に魔王を従僕とし、奢ることなくそこから日々ひたすらに牙を研ぎ続けて居たなどと……。

 誰が知ろうか? 少年に教育を施した育ての親が人類最強の力を持つ聖職者であり、師と仰ぐ兄弟子が魔界屈指の実力者であったことを……。

 誰が予想できただろうか? 世界を管理するはずの女神が、この小さな少年に従えられるどころか衣食住の面倒まで見て貰っていようとは……。

 様々な偶然と数奇な巡り合わせ、それらにより古今に比肩する者のない、正に大魔王と言うに相応しい力をもってして少年はそこに立っていた。

 一瞬……ほんの一瞬、ウルグスはユーマと何かを重ね合わせ目を奪われていた自分に気付く……。その事実に気付くと同時に自らに対する嫌悪と怒りに震え、剣を握る手に力が篭もり、石造りの床に紅い液体が滴り落ちた。


「認めん……貴様如きが……人間如きが……大魔王を名乗り終いには姉上と同じ様な事を……認めん……認めんぞオおぉォ!!」


 激昂するウルグスに呼応するようにビスクがユーマの背後から躍りかかり、ウルグスも両の手に握る剣を振るいユーマを切り裂かんと襲い掛かる、そのウルグスの変貌振りにユーマは一瞬ぎょっとするも、落ち着いた表情で襲い来る刃の全てを紙一重で躱してゆく。


「これ以上の戦いは無意味だ! ……僕はこれ以上無駄な犠牲が出るのは見たくないんだ……頼むから話を聞き入れてくれ!」


「無駄……無駄だと? 知ったような口を! 貴様に……貴様に我が悲願の何がわかる!」


 ユーマの放つ言葉が更にウルグスを苛立たせ、その手に力を篭もらせる、だが、勢いを増す攻撃もビスクとの寸分違わぬ連携も、ユーマの薄皮一枚傷付けること能わず空しく空を斬り続ける……。


「逃げ回るな! 戦え! 我を止めたくば我を殺して止めて見せよ! 我の心の臓腑をえぐり取り、力を示して屈服させて見せよ!」


「……この……! 分からず屋め!!」


 ユーマの放った横薙ぎの一閃を両手の剣でしっかと受け止め、その衝撃の軽さにウルグスが表情を曇らせる。


「……この期にに及んで貴様は……どうやら貴様をその気にさせるには相応の贄が必要と見えるな……」


 ウルグスの睨む視線の先はユーマではなく……ハッとしたユーマが振り返ると同時にビスクが振るう魔剣の刀身が姿を消し、ノルンの無防備な背中に振り下ろされる、ユーマのただならぬ様子に思わず二三歩進み出たノルンの背を掠め魔剣が床を砕き凄まじい音を立てた。


「ノルン! くっ……卑怯な!」


「卑怯? 戦いにおいて相手の弱みを突くのは当然だ、確かに貴様は強い……が危機感も老獪さも足りん。仮に貴様が勝利したとして……まあ、あの者の墓前に花と共に詫びの言葉を贈るがよかろう」


 ノルンを気にし動きに精彩を欠くユーマに激しさを増した攻撃が襲い掛かる、ノルン自身も結界を使い魔剣の斬撃を躱しているが、多重結界を維持しながらではそれもままならない。ノルンに届かせぬようにと魔剣に気をとられればウルグスの双剣が襲い掛かる、双剣を気にすればノルンに危機が及ぶ……右往左往とするユーマに鍔迫り合いの最中ウルグスが囁きかける。


「貴様がどうあろうとあの者は死ぬ、なに、あの者だけで足りぬなら他にもこの場に首を並べて見せよう……さあ、何人目で貴様は覚悟を決める……?」


 ウルグスの言葉にユーマの表情が怒に染まり、握る拳が軋む音を立てる、その表情を確認し嗤うウルグスを弾き飛ばし、返す剣で魔剣を振るわんとするビスクの腕を斬り落とす、剣を床に突き立て体勢を立て直さんとしたウルグスの眼前でユーマが勢い良く踏み込んだ足が音が激しい音をたてた。


「ぐっ……あ゛っ……!」


 手足を燃える岩槍に貫かれ呻き声を上げるウルグスに、更なる一撃を加えんとユーマが迫る……が、その手に握った剣を振り上げたまま、踏み込んだ膝がカクンと落ちる、手足を貫かれたまま嗤うウルグスの左手にいつの間にか握られていた魔剣、その切っ先が空間の割れ目に僅かに隠れユーマの脚に傷を付けていた。


「……怠惰が宿るは……脚」


 ウルグスが呟くと同時にユーマの体を耐えがたいほどの倦怠感が包み込む、体内に流れ込む力と共に湧き上がる感覚に、体の自由が奪われていく……。


「くっ……なんなんだ……これ……は……」


 その場に蹲るユーマの背にビスクが影を広げ覆い被さる、僅かに残った力を振り絞りビスクを振り払わんとしたユーマの耳に微かな声が聞こえた。


「た……タす……助けて……」


 ビスクの闇を宿したその瞳に灯った光に呆気にとられた一瞬の隙に、床に巨大な空間の割れ目が口を開け、瞬きをする間にビスクも、ユーマも、ウルグスも姿を消していた……。

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