メイドと魔法の授業
「は~い、ユーマ様、今日は魔法に関しての座学です、退屈だからって寝ちゃダメですよ~」
大きなあくびをしながらラスティがユーマの私室に入ってくる。来客用に設えたこの部屋は子供には少々広く感じるが、綺麗に整頓されており几帳面なユーマの性格が窺える、ユーマは椅子を引きながら心配そうにラスティに話し掛けた。
「僕よりもラスティさんでしょ? 昨日はちゃんと寝た? 朝ごはん食べすぎてない?」
母親のような心配をするユーマだがラスティは何も言い返す事が出来ない、過去三回の座学でラスティは毎回見事に夢の世界に旅立っているのだから……。
「うっ……ま、まあ、これまでのは小手調べというか? そっ……そう! 今日からが本番です! 本番!! だからっ! レイア様には! レイア様だけには私の痴態はどうか! どうか御内密にっ!!」
……そこまで上司に怯えつつも毎回爆睡するのには理解が及ばないが……それだけ気を許してくれていると思うと悪い気はしないものである。
(だけどレイアが前に部屋のあちこちに映像記録水晶を設置していたのは教えてあげるべきか……『ユーマの様子をマリアに見せて安心させてあげよう☆』なんて言ってたけど……何か企んでいる気がする……うん、あれだ、知らなかったって事にしとこう、そうしよう)
「今日はこれまでの総復習だっけ?」
「はいっ! 内容がきちんと理解できているか、そして認識に誤りが無いか、きちんとしてないと魔法は危険ですからね。決して寝ぼけてどこまで進めたのかが分からなくなったのではありません!」
堂々と墓穴を掘って尚も誇らしげな姿は後光さえ伺える。
「たまにラスティさんのそういう所羨ましいよ」
「? 何か仰いました??」
「いや、何でも無いよ、えっと、前々回までで、属性についてが基本4属性の地水火風に光闇無属性、初級呪文が石弾、水球、点火、旋風だよね?」
「はい、その通りです」
「それで前回が中級呪文で代表的な物と最新の魔法の情報。で、中級呪文は日々開発されて新しい呪文が産まれており現在ではその数が多すぎて把握出来てない、だよね?」
「はい、多分そんな感じだったと思います!」
(どっちが教師だかわからなくなるな……)
眉間を押さえるユ-マをラスティが心配そうにのぞき込む。
「どうしましたか? 頭が痛いんです?」
いきなり額同士をくっつけられてユーマが思わず椅子を倒さん勢いで飛び退く、顔を真っ赤にしたユーマを眺めラスティが首を傾げた。
「熱は無いみたいですけどねぇ……」
「大丈夫、大丈夫だから! えっと、今日のは……あとは、確か詠唱の意味と呪文に及ぼす影響だっけ?」
「そうでしたね~、ズバリ、ユ-マ様は詠唱をどういう物とお考えですか??」
「えっと……呪文を効率よく使うための補助役?」
マリアに教わった時には『唱えると威力が上がる!』という、ざっくばらんな答えが返ってきたが、他にも何かありそうな含みを持たせた言葉もあった事をユーマは思い出していた。
(多分これだけじゃないんだろうなぁ……)
「ブッブー! 半分正解で半分不正解です!」
「半分?」
意外な答えにユーマが首を傾げる。
「効果の説明としては正しいですが何に作用してどういう目的でが抜けてます、ユ-マ様は属性魔法を放つ際に何に作用させているかはご存知ですよね?」
「大気や大地、水中に存在する各属性の精霊だよね?」
「そう、精霊です、そして詠唱の文句は精霊を讃える唄! つまり詠唱は精霊に対するラブソング、愛の詩なんです! 愛の詩で精霊さん達の機嫌をとって気持ちよく協力してもらおうってのが呪文なんですよ♪」
「えっ!? あれってそういうのなの?」
なぜだか今まで詠唱してきた呪文が恥ずかしい物のように感じてユ-マが赤面する。
「あの精霊を讃える呪文は先人達が精霊が好む言葉や言い回しを考え抜いて書き上げたラブソングなんです! そう考えるとロマンがありますよねぇ♪」
「でも毎回同じ詩ばかりじゃ精霊も飽きるんじゃない?」
「ええ、ですから最近の研究では全く違う詠唱方法の研究も進んでいるそうです。まあ、でも既存の呪文でも大丈夫だとは思いますけどね~、ほら、よく精霊は女性に例えられるじゃないですか? 愛してるとか綺麗だよとかそういう言葉は、陳腐であっても嬉しいですからねぇ、多分それと同じです」
「それじゃ、詠唱破棄の場合は?」
「こっちは例えるなら女性へのプレゼントですかね? 精霊達は基本的に魔素の濃い場所を好みますから、合致する魔素を放てば精霊が寄って来ます、その際に魔素の質をより精霊の好みに合うものに出来るほど強い力を貸してくれますからね。逆に、魔力の錬成不足等で好みの魔力でなければ精霊が寄って来なくて失敗してしまいます、魔法が得意、下手っていうのはこういう部分に起因していることが多いですね」
「『多い』ってことは例外もあったりするの?」
ユーマの質問によくぞ聞いてくれましたとばかりにラスティが胸を張り得意気な顔をする。
「鋭いですねぇ♪例を挙げるなら精霊に愛されし者ですね、早い話が魔素の質的に言うなればすっごいイケメン! もしくは美女! 精霊が呼んでも無いのに次々寄ってきちゃう! そーんな人が居たりするんですよ♪稀に上位精霊から加護を貰ってたりしますし、そうなるとまた更に精霊が寄って来て……。でもそういう人って常に精霊がそばに居るので感情の起伏がまともに精霊に影響与えることがありましてね……怒らせただけで地震が起きたりとか魔力の乱流起こしたりとか……まあ、そんな化け物みたいな人、伝説に残る大魔導師か魔王様位ですけどね~、そんな人と一緒の空間に居るとか恐怖以外の何物でもないです! ……あっ! ユ-マ様は別ですよ! お優しいですし!」
(……そういう人物に思いっきり心当たりがあるけど……)
だが同時にユーマの脳裏に浮かんで来たのはマリアの珍プレー集……。
(うん、多分気のせいだな、うん……)
「あと……さっき言ってた全く違う詠唱方法っていうのは新しい呪文の唱え方を探してるってことでいいの?」
「新しい呪文もそうですが、剣舞(ソ-ドダンス)や絡繰り魔法陣とかも今のトレンドです」
「剣舞に絡繰り?」
「絡繰りの方は金の国で開発された時限式やスイッチ式の魔法陣です、セットして魔力を込めて定められた時間が経過したりスイッチを押したら魔法が発動する仕組みですね、多段式の上級呪文の補助とかに使われるみたいですよ。剣舞の方は人界の帝国内の一部族に伝わる物で、呪文のかわりに舞で精霊を操る方法ですね、精霊を誘う踊りを剣の型に当てはめて戦う技法です、フリード隊長が得意なはずなので聞いてみるといいかもですね」
「フリードさんが……踊り……?」
「ねー? 似合わないですよねぇ♪それにそれにぃ、さっきの理論でいくと剣舞は言わば求愛ダンス!!」
ユ-マが思わず噴き出すも、ラスティの背後を視認し慌てて口を押さえる。
「あ~んな外見してるけど~、意外とロマンチストだったり? 怖い顔してる人ほどそーゆーギャップってんですか? 私の予想は多分意外と私生活では……」
「だ~れの顔が町のチンピラ風だってぇ~?」
突然頭を掴まれラスティの肩が跳ね上がる、そして錆び付いたブリキ細工のようにぎこちない動きでゆっくりと後ろを向く……。
「ご……ご機嫌うるわしゅ~、フリード隊長……」
「ったく、時間になってもガキがこねぇから様子を見に来りゃ随分な言われようだなぁ、おい」
解放されたラスティが慌ててユ-マの背後に隠れる。
「わ……私はフリード隊長はああ見えて優しいんですよ~ってユ-マ様に教えてただけですから~……」
「ああん? 優しい所を見せりゃ良いんだな? ならラスティ、今から訓練所の食堂に行って兵士全員分の昼メシを作れ」
「なっ……なななんで私が!? 私はこれからお昼n……じゃなく! 大事な用事があるんです! ってか何百人分ですかそれ!」
「食堂のババアが腰痛めたんだよ、こっちのババアに確認しててめぇが暇なのは知ってんだ、さっさと行かねぇと昼に間に合わねぇぞ!」
ラスティが廊下を号泣しながら走り去ったのを見てフリードが今度はユ-マの頭を掴んでぶら下げる。
「てめぇも時間くらいしっかり見ろや、今日からは武器使った訓練やるぞ! いいか!」
「はい!」
「にやけながら返事すんじゃねぇ!!」
「は……はい!」
…………
「ふわぁ~……段々朝が寒くなってきたわね……」
独り言を言いながら暖炉と竈に火を入れ、部屋が暖まるのを感じながらマリアがぐぅっと体を伸ばす。ふと、視線を移した机の上に何か置かれているのに気付いた。
「水晶玉と……手紙? ……ゲートの魔力痕がある……この魔力はレイアね……あれから3カ月も音沙汰なしで一体何を……来たなら挨拶位していけばいいのに……」
訝しみつつ置き手紙を確認する、中身の文章は簡潔に一言『最近のユ-マの様子を映像水晶に入れておいたよ☆』
(この間の一件から転移妨害の陣も増えてるのに……リスクを冒してまで届けてくれるなんて……)
「心配かけないように色々手を回してくれてるのね、なんだかんだ言って可愛いところあるわ」
懐かしい物を眺めるような表情で水晶玉にゆっくりと魔力を注ぐ。
……程なくして水晶に映像が映し出され、授業を受けるユーマの姿が見える、進む映像に合わせてなぜかどんどんと周囲の魔力濃度が上がってゆく……映像水晶の中身は『編集を施されたラスティとユーマの授業風景』動画はレイアの激励の言葉で締めくくられた。
『やっほ~、こんな感じでユーマは可愛い巨乳メイドさんと楽しくすごしてるよ~☆そろそろ村の方は寒くなってくる時期だよね、寒いからって身を縮めてばかりだと胸も縮んじゃうよ♪あっ! 縮むほどなかったか☆メンゴ!!』
この日、王国内の山村で巨大な竜巻が火柱を放ちつつ巻き上がるのを多数の近隣の町の住民が目撃した、王国より騎士団が派遣され調査が行われたが何の痕跡も発見する事が出来ず、依然、その原因は明らかにされてはいない。
~王国事件史より抜粋~