王都2
「ユーマ様! ここです! ここで降ります!」
「ユーマ殿! 武運を祈る!」
「のぉ……本当に飛び降りるんか? 儂はやっぱり……うわっ!? お……押すなラスティ! ぬっ!? ぬおおおぉぉぉ!!」
王都の周りをぐるりと取り囲む城壁を越えたのを合図に、ラスティ、ミーリア、グローインが次々に(一人は無理矢理)ニールの背から飛び降りてゆく……グローインの断末魔ともとれるような悲鳴を置き去りに、ユーマとノルンはそのままニールを駆り王城に向かい突っ込んでいく。
「まさか採用された案が正面突破とは……ご主人さま、本当にこれで大丈夫ですかね?」
「まあ、なんだかんだでラスティさんの言い分も正しかったし、土の国の時みたいに狭い場所で囲まれるよりはいいかも? 僕らは僕らにしか出来ない事をしよう」
「そうですね……あちらも無事に設置出来ればいいんですが……」
地上を見下ろし三人の心配をするノルンが顔を上げた先には、禍々しい魔力を内から放つテラスが魔獣の口のようにぽっかりと暗い昏いその顎を開いていた。
「っと……ラスティ! 打ち合わせ通り私は東に向かう! グローイン殿も正面の結界を頼んだ!」
「は~い! ミーリアちゃんも気を付けて! ほら、おじーちゃんへばってる暇無いですよ!」
「げほっ……誰がおじーちゃんじゃ! うぅっ……寿命が縮んだわい……それにしても、操られているだけだから傷付けたらいかん……か……難しい注文じゃのう」
地上に降りると同時に大地を蹴ったミーリアが走り出し、ラスティがそれをにこやかに見送る。咳き込むグローインが顔を上げ見渡した城下の町は静まり返っているが、やがて何かを引き摺るような音と共に生気を失った表情の住民達が家々から姿を現し、ラスティ達に向かいゆっくりと迫ってゆく……。
「やれやれ……坊主に頼まれて突貫で作ったが何処までもつことやら……ラスティ! お主も無茶をするでないぞ!」
「はいは~い! じゃあおじーちゃんもそこの守りは任せましたよ~頑張って!」
「だから誰がおじーちゃんじゃ! 全くあやつは……」
走り出したラスティを見送った後、正面に迫る住民達をギョロリとした目でしっかりと見据え、グローインが魔石の組み込まれた金属杭を戦斧の背を使い深々と大地にめり込ませる。と、杭を中心に光の筋が縦横無尽に大地を走り美しい光の魔法陣を描いてゆく……。
「さて……女神と大魔王が魔力を注ぎ儂が完成させた簡易結界装置じゃ、ちょっとやそっとで破壊できる物ではないぞ?」
グローインは戦斧を担ぎ直し、集まった王都の住民達を見渡して口の端をにぃっと歪めた。
後方で結界の光の柱が立ち上るのを視界の端に捉えながらユーマとノルンがニールから飛び降り、ぽっかりと口を開けた闇の中に飛び込む。飛び降りる際に僅かに合わせた目線から何かを読みとったのか、ニールが凄まじい吠え声を上げてそのまま上空へと飛び去っていった……。
「ふむ……空から巨大な魔力反応が降りてきたと思えば、まさか迎えに行く前にそちらの方から乗り込んでくるとはな……」
明かり取りの窓に暗幕がかけられた薄暗い部屋の中に、落ち着いたよく通る声が響く。明暗差にぼやける視界をならしてゆくユーマの瞳に、玉座に座る虚ろな表情の国王らしき人物とその傍らに立つ眼鏡を掛けた執事衣装に身を包んだ男の姿が映った。
「あなたがウルグスさんですか?」
「いかにも、私がウルグスだが……君が不遜にも今代の大魔王を名乗っているユーマ君……でいいのかな? 子供とは聞いてはいたが……ふむ、聞くと実際に見るとでは違うな……いや、だが……うむ……」
突然の侵入者にも関わらずウルグスは眉一つ動かすことなく落ち着いた様子でこちらを観察している。その闇を閉じ込めたかのような暗い瞳に二人が一瞬たじろぐ、が、気配に吞まれぬようすぐさまユーマが口を開く。
「あなたは一体何のためにこんなことをしているんですか? 人々を操り、国を操り、大罪を集めて何をするつもりなんですか!?」
「……語ろうとも君には理解できまいよ、私にとっては君も駒の一つに過ぎない……あるのは必要な駒と不要な駒、本来不要な駒にも価値を与えているのだから感謝して欲しいくらいだな」
「……対話で解決できるものならばと思いましたが……あなたとは相容れる事ができそうにないですね……!」
「ふむ……似たような言葉を最近聞いたな……何と言ったか……あの獣人の少女は……」
顎をなでつつ考え込むウルグスに向かい、床が砕けるほどの踏み込みでユーマが一気に間合いを詰め斬り掛かる、白刃の煌めきがウルグスを捉えたと見えた刹那、金属のぶつかり合う音と共に散った火花が薄暗い部屋にもう一つの影を照らし出す。
「なるほど、これは予想以上の力だな……流石の私もまともに相手をするのは危険そうだ」
ユーマの繰り出したミドガルズオルムの輝く刀身による一閃は、それとは真逆の闇を形にしたような歪な剣に受け止められていた。それを握るのはまた闇を人の形に象ったかのような異様な存在、その顔らしき場所には紅く光る双眸が浮かんでおり、その下には三日月のような割れ目が不気味な笑みを浮かべている……それらを隠さんとせんが如くに銀糸のような髪の毛がゆらゆらサラサラと所在なく体の動きに合わせ揺れている……。
「っ……『魂喰』! って事はこの影は……!」
「ォトゥさま……オ父サマおトウ様オとウさマ……ああァアぁアァあぁア!!」
影が突然三日月を裂けんばかりに広げ、その喉奥から猿叫にも似た叫び声を上げる、思わず身をすくませたノルンを庇い立ちはだかったユーマに向かって、影が無数の蛇を形どり一斉に襲い掛かった。




