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神域の従魔術師  作者: 泰明
王国の闇
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囚われの獣姫

「見たまえ、『憤怒』に『嫉妬』2つの大罪を身に宿して尚も自我を保ち抵抗しておる、幼いとはいえ流石は魔王ということか……」


 厳重に結界の施された一室にティリスが目隠しをされ、枷をされた状態で呻いている、一体何が起きているのか? その表情は苦悶に歪んだかと思えば顔をしかめ怒りの形相へと変わり、また次の瞬間には弛緩する……。

 その様子を観察しながら一際豪奢な法衣を纏った老齢の神官が感心したように自らの顎を撫でる、年を取ってはいるが若くも見える……目尻の皺が年齢を窺わせるが顔も体もでっぷりと肥えており、柔和な印象と肌の色艶の良さが彼のその年齢を誤魔化すのに一役かっているようにも見える。

 が、開かれたその瞳は見た目から感じる印象の正反対の暗い炎を湛、え魔力灯の灯りの揺らぎを映しゆっくりと揺らめいていた。


「んで、じーちゃんこいつをどーすんの? 貴重な大罪二つも使ってるけどさ?」


 神官が見やる柱の影からクラウンが欠伸をしながら顔を出す、気怠そうに柱に寄りかかり目をこする様子を見るに少々疲れている様にも見えるが、その目は新しい玩具を見つけた子供のようにらんらんと光り、興味津々といった様子だ。


「おや? ……そうか、君は知らないのだね、これはね鍵なんだよ、神の国への」


「鍵? 魔剣が鍵なんじゃないの?」


 眉根を寄せて訝しむクラウンを見、神官はクククと笑いを漏らす、その様子を見て不機嫌そうに頬を膨らますクラウンの目をしっかりと見つめ神官が口を開く。


「君の『お父様』は大罪と魔剣を使い神の国の扉を叩こうとしている、目的は何だかは分からんがね、だがこれを手に入れた際に別の目的も得たようだ」


「知ってたんだね、なら自分も危ないとは思んないの? わざわざ僕らに協力するのは何でなのさ?」


「さてな、何でだろうな……私はね救いたいのだよ、全ての人間を人民を……そして……君もね」


 神官の怪しく光る瞳に見据えられクラウンは射抜かれたようにそこを動けないでいる、その様子を見てもう一度笑うと神官がまたティリスの方に向き直った。


「ぐっ……あ、あなたたちはっ……うぅっ……な、何をしようとっ……ぐぅっ……!」


「素晴らしいな、ここまで抵抗できるとは……獣故の野性というものか? だが……悔しくは無いのかね? 羨ましくないのかね? 土の国の魔王よ」


「な……何を……ぐぅっ!」


 苦しそうに顔を歪めるティリスの傍らに立ち老神官は囁くように語りかける。


「あの小僧の事だよ、今は大魔王を名乗っておるのだったか? あやつが持つ物総て本当ならお前が手にしていたかもしれない物だ、何を我慢しているのだ? 彼奴になんの義理がある?」


「くっ……知った……ような口を……お前に……何が……っ」


 更に苦しそうに顔を歪めるティリスに向かい、尚も老神官は囁きかける。


「あの小僧がお前の父上を殺さねば全ては上手くいっていた、王国の裏切りは無く、国は滅びず、お前の父が魔界を統べる大魔王となっていただろう、それを奴は奪ったのだ」


「な……にを……」


「仇も討てぬ娘を見て父上は草葉の陰で泣いておろう……お前は全てを奪われ、彼奴は奪った全てを持っている、それが真実、それが真理だ……もう一度聞こう、悔しくは無いのかね? 羨ましくないのかね?」


「わ……わたシは……あ……お……オ父さマ……ワタしは……わたシは……!」


「苦しい思いも辛い思いもする必要は無い、全てに身を委ねて今は眠るがいい」


 ティリスの四肢から力が抜け、ダランと垂れ下がると同時にその場に倒れ伏す、黒く禍々しい魔力が立ち上るその様子を見てクラウンが感嘆の溜息を漏らした。


「はぁ~、あっちゅうまに堕としちゃった……じーちゃんやるねぇ、流石教皇様! ってこと?」


「なに、生きとし生けるもの肉体をいくら鍛えようといくら強くなろうと心までは強くならぬものよ、それに……獣であろうと欲望も親子の情というものも存在する、欲や情を刺激すれば容易く墜ちる……」


「親子の情……ねぇ……父親ってのはさ? やっぱ子供を想うもの? 子供ってのはさ? やっぱ親を慕うものなの?」


 クラウンの口から出た疑問に教皇が目を丸くする、と、同時に微笑みながらクラウンをそっと抱き締めた。


「ちょっ!? じいちゃん? なになに何なのさ!」


「クラウン、お主の出自は特殊だ、理解されぬかもしれぬ、恐れられるかもしれぬ、だがな、女神様はそんなお主をもずっと見守って下さる、お主が『お父様』からどのように扱われておるかも儂は知っておる……儂がついておる、恐れる必要は無い」


「ちょっ……じーちゃん! 何なの一体!?」


 教皇を振り払ったクラウンがその顔を確認しギョッとした顔をする、教皇の両の頬に流れる二筋の涙から目を離せず、その場にじっと立ち尽くしたままのクラウンの肩を抱き教皇が静かに口を開く。


「何も恐れる必要は無い、言っただろう? 私は全てを、お前も含めての全てを救いたいのだよ、その為だったら何だってしよう、お前は一人ではないのだよ」


 クラウンの銀の瞳に淡い光が灯るのを見、教皇がもう一度クラウンを抱き締める、魔石灯の揺らめきのせいだろうか? 灯りに揺れる二つの影の一方に三日月のような亀裂が走った様に見えた。

 生活が落ち着いて参りましたので久し振りの更新です、段々と頻度が上げていければいいのですが……(´・ω・`)がんばります!

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