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神域の従魔術師  作者: 泰明
王国の闇
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里帰り5

「あっ! ごっごめんなさい! ラスティさん、つい慌てちゃって!」


 お茶を浴びて熱がるラスティに謝罪しつつタオルを探し右往左往するシスター、余りの事態に1周回って笑いを堪えきれぬ様子のミーリアとグローイン。と、魔物の出現を知らせに来た村人が呆気にとられ息も整えぬまま呆然と立ち尽くす、混乱の中たじろぐ村人の元にユーマが向かい話し掛けた。


「ハンスさん、魔物ってどんなやつ? 村の皆で対処出来ないレベルのがきたの?」


「お……おう、ユーマ、それがそいつの様子がどうも変でな……ってか、あれ、大丈夫なのか?」


 ハンスの指差す先ではバタバタと皆が右往左往しているが、ユーマは特に気に留める様子も無い、ああいったことは些末なことと言わんばかりににっこりと笑う。


「竜人は炎熱に強いから多分大丈夫だよ、まあいつも通りって言えばいつも通りの感じだし……で、様子がおかしいって?」


「おぉ、いや~樹木人トレント樹木精ドライアドがわんさか居てな、そいつらの親玉みたいな奴が結界の中に入れろって騒いでるんだ、村の周りにそんな奴等が潜んでたってのも驚いたが村に入りたがってるってのが不気味でな……」


「ご主人さま……それってもしかして……」


「あ~……ハンスさん、多分その人(?)僕らの知り合いだと思う……案内して貰ってもいいかな?」


 ユーマの言葉にハンスがまたも呆然とした表情を見せるが、ノルンに促され姿勢を正して先導する。


「なぁユーマ、村を出てから色々あったんだろうが……何があったのか今度詳しく聞かせてくれよ? 皆心配してたんだからな?」


 頭をくしゃくしゃと撫でられ村に居たときのように屈託無い笑顔で笑うユーマを見て、ハンスは安心したように一つ溜息をついた。



……



「全く、ようやっとニールを見つけたと思うたら結界で締め出しを食らうとは……伝達役も一苦労じゃのう……」


 ユーマの案内で村の中にようやく立ち入る事ができたユグドラシルが、疲れ果てた表情で机に顎を乗せて溜息をつく、考えてみれば同盟からこちら人界へ魔界へと情報伝達の為に動き通しである、疲れるのも無理も無い事であろう。


「まあ、でもそこの二人も無事合流出来たようじゃしの、とりあえずは任務完了ということでよかろうて」


「女王陛下は安否確認の為にこちらに?」


「流石に其奴らが死んだら寝覚めが悪いでの、最低限の仕事をせねばなるまいて、で、この村の住民の避難じゃったかの?」


 ユグドラシルが体を起こして改めてシスターに向き直る。


「えぇ、このままここに居てはあの魔力線に捕まりかねませんし、結界もいつまでも張り続けてはいられませんからかね……」


「おぅおぅ、まさか『黄昏の戦鬼』の口からそんな弱気が出るとはのぅ、流石に其方も老いたということかの? ホホホ……」


 ユグドラシルが一瞬驚いた顔をし、そして鈴を転がすようにコロコロと笑い始める、黄昏の戦鬼というワードを聞き、ミーリアとグローインが肩を跳ね上げ、ユーマとラスティが首を傾げる。

 対するシスターは張り付いたような笑顔に口の端をひくつかせながらユグドラシルをじっと見据えている……。


「女王様? 古い二つ名を呼ぶのはやめて頂けますか? 私にはクレアという名前がございますので……」


「なんじゃ? 我が森に腕試しに来たときには高らかに名乗っておったじゃろうが? 他にもあったじゃろ? 『戦場荒らし』に『氷の鬼婦人』、そうじゃ、『殺戮の姫闘士』なんというものもあっ……あぢぢじゃああぁぁぁぁぁ!」


 湯気を立てる茶を根に注がれもだえ苦しむユグドラシルを、シスターが先ほどまでと同じ張り付いた笑顔で見下ろしている。

 ポットに並々とあった茶を全て注ぎきってからシスターが改めてユグドラシルの前に立つ。


「それで、我々の受け入れを帝国側に仲介して頂きたいんですが、お願いできますか?」


「はぁ~、はぁ~、全く! 頼み事をする相手に茶を注ぐ奴がおるか! じゃが……仕方あるまい、大魔王陛下の故郷でもあるしの、恩に着るがよいぞ、『拳闘神姫』よ……おわっじゃああぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 ニヤリと笑ったユグドラシルの根元にお茶のおかわりがたっぷりと注がれた。



……



「さて、それじゃユーマ、くれぐれも気を付けるのよ?」


「うん! 大丈夫だよ! 心強い味方もいるしね!」


 旅支度を整えたユーマにシスターが心配そうに話し掛ける。が、ユーマの堂々とした態度を見て寄せた眉根をほころばせた。


「『男子三日見ずば刮目して見よ』とはよく言ったものね、大きくなっちゃって、あなたなら何があってもきっと大丈夫よ」


「シスターも気を付けてね? 国境付近は魔物も多いみたいだし……」


「あら? 魔物なんて私の敵になると思うのかしら?」


「ハハハ、『鬼神戦姫』に勝てる相手は居なさそうだね」


 意地悪そうに笑って言うユーマに少し驚いた顔をしたシスターだが、にっこり笑ってユーマの頭を撫で、そしてユグドラシルに鋭い視線を送る、何かを感じたのか? ユグドラシルが肩をさすり周囲を見回し、シスターと目が合い慌てて視線をそらす。


「私はこのまま帝国に皆を送り届けてそのままマリアを追ってみるわ、教国には伝手もあるし、あの子が無茶しないように見てあげないとね」


「うん! わかった! それじゃどっちが早く解決するか競争だね!」


 無邪気に言い放つユーマを見、シスターが愛おしくて堪らないというように微笑む、素直で優しい育ての我が子……苦労をさせたくない、危険に晒したくない。だが、優しい我が子はどんな危険の中でも躊躇無く飛び込むだろう、せめて女神の加護があらんことを……。

 ここまで考えてふと気付きノルンと目が合う、にっこりと笑うノルンに笑顔を返すシスター……いた、そういえば居た、シスターは多少の不安を感じたが、その不安の出所についてそれ以上深く考える事をやめた。


「だけど、操られてる人達……どうにかできないかな……魔力線が絡みついてどうにも出来ないってレイアは言ってたけど……」


「あら? あなたならとっくに分かってると思っていたけど?」


「どういうこと?」


「要はあれはテイムの劣化版よ、多数に一度に施す為に意思を奪うことで指示を簡略化してるの、相手が別の誰かにテイムされているなら従魔術師ならどうしたらいいの?」


「……! そうか! ありがとう! それなら僕がやることは一つだね!」


 何かに気付いたユーマが嬉しそうに拳を握るのをニコニコとシスターが見つめる、ほどなくし、ラスティ達の準備が終わりユーマを呼ぶ声が聞こえた、声に応え、シスターに改めて向き直るとユーマがにっこり笑って口を開く。


「じゃあ……行ってきます! お母さん!」


「……! ……いってらっしゃい、気を付けてね!」


 ニールに騎乗し飛び去るユーマが見えなくなるまで、シスターはいつまでもその姿を見つめていた……。

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