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神域の従魔術師  作者: 泰明
王国の闇
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里帰り4

「えっと……そのマスターってのは一体……?」


「ミーリアちゃんもおじーちゃんも固まってどうしたんです?」


「だっ……! 誰がおじいちゃんじゃ! お前ら知らんのか!? マスタークレアの事を!」


 慌てふためくグローインの様子にユーマもラスティも再び顔を見合わせる、知るも知らぬも無いだろう、ラスティは本日初対面、ユーマに至っては育ての親である、今更知った知らぬと問答するような間柄では……。


「グローイン殿、無理もない、土の国の事件に関しては箝口令が敷かれた上で一部の信厚き者にしか資料の閲覧は許可されていない、金の国も恥部を晒したと当時の資料には閲覧制限がかかっているだろう?」


「わかっとるわい、儂もあの時出場しておったからの、今思い出しても背筋が凍るわい……。だとしたら……よもやこの結界は一人で……? 半年も……!?」


「シスター……一体何をしたの……?」


 呆れた表情で見るユーマの視線を躱すようにシスターが強い瞳でミーリアとグローインを見つめる、にこにこと笑顔は絶やしていないが笑顔の奥に潜むえも言われぬ迫力に、ミーリアもグローインも脂汗を流して黙り込む、いや、黙らされた……と言った方が正しいか?


「あ~! そういえば聞いたことあります! 火の国の武闘大会でフリードさんを負かした人族の話! 何でも諸国を旅しながら腕試ししてたとか……」


 静寂を切り裂くラスティの言葉にミーリアとグローインの顔が青を通り越し蒼白になる、二人の表情の変化に気付くことも無く思い出した自分は偉いとばかりに胸を張り、ラスティが言葉を続けてゆく。


「なんでも人界でも有名な武術大会荒らしが密入国してきたって、当時の王都は蜂の巣を突いたような騒ぎだったみたいで、でも当時の竜騎士隊の隊長が出場の許可を出したんですって」


「あれ? 隊長ってフリードさんじゃないの?」


「当時はフリードさんは副隊長です、まあ、実力は既に当時の隊長さん以上だったみたいですけど……。まあ、この時の怪我が元で隊長が代替わりしちゃったんですけどね」


 ふと、ラスティが相も変わらず沈黙を守り脂汗を流すミーリアとグローインに気付く、不思議そうに首を傾げたラスティにシスターが迫力を込めた笑顔をそのままにティーポットを掲げる、流石にこの段になって場の空気を察したか、ラスティが何かから逃れようとするように身をのけ反らし後退ろうとするが……。最も、座った状態でのその行動はより深くソファに身を沈めるだけでしかないのだが……。


「ラスティさん? お茶はいかがかしら?」


「は……はっ! はいっ! い、いただきます! いただきます!」


 ラスティが慌てた様子でまだ半分ほどもお茶の残ったカップを差し出すとシスターがポットを傾ける……。が……注がれたはずのお茶がカップに注がれるでなくそのまま重力に逆らい上空に向け立ち上ってゆく、注げど注げどカップに辿り着かぬお茶を尚も注ぎながらシスターがゆっくりと口を開く。


「まあねぇ、若気の至りって言うのかしら? 誰しもそういう事はあると思うのだけど、それを息子の前で殊更に披露されるっていうのは……ねぇ? それに、訂正するとすれば、当時の隊長さんの怪我は無理がたたってのぎっくり腰よ? 私が怪我させたように言われるのは心外ねぇ」


 青い顔をしたラスティの頭上には湯気を上げるお茶が球体となりふわふわと浮かんでいる、そちらを見やるでなくシスターの前で蛇に睨まれた蛙のように固まっているラスティが、問いかけに千切れんばかりに首を縦に振った。


「シスター、ラスティさんが怖がってるよ、それに僕は僕の知らないシスターの昔話が聞けて楽しいけどね」


「あらまあ、でもね? ユーマ? 紳士ってものは女性の過去は詮索しないものよ?」


 ユーマの言葉に場の緊張が解け、三人が思い出したかのように大きく息をついて呼吸を始める。


「でも、シスターは魔術師じゃないの? 聞いてる話だと武闘大会に出てたみたいだけど?」


「まあ、若い頃だったからね、ちょっと無茶をしたい時期だったのよ、誰しもそういう時期ってのはあるものよ?」


 無茶をしたい時期……若気の至りとは言うが若気の至りで魔界に密入国して各国の武闘大会を荒らして回る……。その様な事を実現しよう者が居るだろうか? 顔を見合わせた三人は目線で互いの意識の一致を確認する、が、更に強い視線を感じまたもや黙りこくる。


「そういえばお義母……クレアさん、この水の結界はあとどの位保ちそうですか?」


(今どさくさに紛れてお義母さんって言おうとしたぞ……?)


(お義母さんとかまた気が早いですね……)


(駄女神……)


「私も若い頃みたいにはいかないから……残魔力で考えてあと2カ月位かしらね……さっきの話だと術者は教国に渡ったみたいだし、マリア達が上手くやれればいいけど……あの子達おっちょこちょいな所あるからねぇ、どこか他に避難先が……」


 シスターが悩ましげに溜息をついたその時、教会のドアが乱暴に開け放たれ、一人の村人が転がり込んでくる。


「大変だ! シスタークレア! 村の外に魔物が来た!」


「あっちゃああああぁぁぁぁあ!! あつっ! 熱い!!」


 慌てる村人の言葉と同時に、未だ湯気を放っていたお茶の水球がラスティの頭に落下した。

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