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神域の従魔術師  作者: 泰明
帝国と教国
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聖十字教国11

 マリアを呼び戻し、謁見の間に移動した一行だが、謁見の間の惨状を観察してレイアが眉をひそめる。


「あ~……ここもかなりやられてるわね、城内に刺客とかは紛れてないかしら? 大丈夫?」


「あ、いや、これはマリアが……うぐっ!?」


 レイアに経緯を説明しようとしたダリスがマリアに杖で腹の傷痕を突かれて悶絶する、その様子を見て事情を察したレイアが脱力して溜息をついた。


「おまえなぁ……治療して貰ったって言ってもまだ痛むんだぞ……!」


「あらぁ? 何かあったかしら? 心当たりが無いわねぇ」


「まぁ、二人ともその辺にしといてよ、今後の方針も決めなきゃだし」


 二人の争いをアレックスがやんわりと止める、スティーブの助けで玉座に座り、大きく息をついてから皆に向かい頭を下げた。


「まずはこの国の危機に際し、皆様方に多大なる助力を頂いた事、改めて感謝する、かたじけない……だが、その功績に対し恩賞も用意できぬこの現状を真に情けなく思うと共に、どうか御容赦願いたい」


「ああ、いーのいーの、戦時の助力ってのはちゃんと条約に盛り込んであったでしょ? 気にしない気にしない」


「俺はこれが仕事だからな、っつーかアレックス! 酒の事忘れてねーだろーな?」


「なに? フリードあんたこっちでもお酒たかってたの?」


「酒は酒でも『豊穣の一滴』だぞ? こればっかりは反故にされたら俺ぁ暴れるぞ?」


「なっ!? フリードずるいわよ! 私にも分けてよ!」


「てめーまだ俺から絞ろうってのか!? 無給でこき使っておいてふざけんな!」


 言い争いを始めた二人の間に激しい火花が散り、間に居たフレデリックが冷や汗をかく。


「まあまあ、酒なんかで良ければ幾らでも進呈させてもらうよ、女神様のお口に合うかは少々不安ではあるけど……」


「あら! さっすが皇帝陛下♪流石だわ~為政者の鑑!」


「まあ、お酒はいいとして! さっさと本題に入りましょう!」


 苛立った様子のマリアにレイアが小さくなり、アレックスが再び皆に向き直る。


「とりあえずは今後の方針だね、教国側はあの規模の大魔法を使ったんだ、魔術師達は数日は魔力が戻らないだろう、更に地の精霊術師グレッグも全身の火傷で恐らくは暫く動けない、王国側は今回で目的を達した以上、そうそう大っぴらには攻めて来ないはず……」


「あの規模の魔法が止められたってのも進軍を鈍らせるでしょうね……」


「だが、掲げてる旗が旗だ、信者共への手前侵攻を止めるっつー方向にゃなんねーはずだろ?」


「ならば先手を打ってこちらから攻める……か」


 皆が皆複雑な顔をして考え込む、何せ今の帝国には戦力が足りない、火の国から戦力を呼び寄せるにも時間が掛かるだろう、まごついている間に再度攻め入られたら、今度は無事で居られる保証は無いのだ。


「っつーかユーマはどうしたよ? 悩む前にあいつが大規模転移かましゃあうちから兵は移動出来るだろ?」


「そうよユーマ! レイア! 今ユーマはどこに居るの? 一緒に行動してないの?」


 マリアの言葉にレイアがぐっと口ごもる、少し考え、大きな溜息をつきようやく口を開く。


「ユーマは王国に渡ったわ……ティリスを捜しに」


「ティリスを捜し……って!? ティリスに何かあったの!?」


 取り乱すマリアをダリスが止め、レイアが眉間を押さえつつ話を続ける。


「マリアには少し安静にしていて欲しかったから隠しておきたかったけど、急を要する事だしね……」


「ティリスの身に……何かあったんですか?」


「四日前の事よ、私達は調査の為に土の国に入国して、そこの砦でクラウンって名前の機械人形ゴーレムに襲われた、なんとか撃退はしたけど、あのビスクって機械人形が魔剣の転移能力でティリスごとクラウンを連れ去った、どうやら王国に居るらしい事が分かったから私達はこっちに救援に、ユーマ達はティリスを捜しに王国に、ってとこね」


「魔剣の転移か……となると危ねぇな……俺も巻き込まれたがありゃあきついぞ、何せ不安定な転移だからな……体をバラバラにされるとこだった」


 フリードの言葉を受けて、マリアがよろめき倒れそうになり、慌ててダリスが受け止める、青い顔をした二人にレイアが声をかけようとしたその時、部屋の隅に飾られた観葉植物がモゾモゾと動き出した。


「おぉ、皆ここにおったのじゃな……なんじゃ……神妙な様子じゃの……誰ぞ欠けた者でもおったのか?」


 姿を現したユグドラシルが皆の様子を見て訝しむ、ひぃふぅと指差し人数を数えるユグドラシルに、レイアが近付き話し掛けた。


「女王様お帰り、何か分かった事はあった?」


「むぅ、パーツが欠けておるのはおるが数は揃っておるの……おお、偵察の話じゃな、うむ、実はじゃな……王国の王城に張り巡らしておった蔦が焼き払われておっての……」


「って事はあちらの様子は……?」


 焦るダリスをユグドラシルが手を翳して制する。


「まあ焦るでない、お主の心配はティリスについてであろう? 妾も無能ではない、国境近辺に潜ませておった茸人マイコニドに反応があってな、妾も急行し確認したが恐らく間違いない、ティリスは今は聖十字教国に囚われておる」


「分かってたなら救出は……!?」


「すまぬな、妾も枝葉の先では人族の子供程の力しか振るえぬのじゃ……それにその場にはお主らの話にあった糸使いの人形がおった、こちらの動きを悟られるよりは……という事じゃな」


 声を上げたマリアがユグドラシルに諭されその場に座り込む、その様子を見ていたレイアが溜息をつき、マリアの正面に立った。


「なっさけないわね! あんた本当に『あの』マリア?? こういう時あんたならどうすんの!? たかが一回どこぞのじじいに負けて自信を失うタマでもないでしょう!」


 声を荒げまくし立てるレイアに皆が止めるに止めれず右往左往する、皆の心配を余所に言いたい放題のレイアの前で、座り込み、俯いたまま言われるがままだったマリアの双肩から、ゆらゆらと陽炎のような何かが湧き上がり始めた。


「……ふ、ふふふ……そうよね、らしくないわね……そうよ! 乗り込んで国ごとぶっ潰して取り返す! 単純な事よ!! ダリス! 何ぼ~っとしてんの! さっさと教国に行ってティリスを取り戻すわよ!!」


「……お……おぅ……」


「レイアも魔王様もフリードもついてきてくれるんでしょ? さっさと準備して出発するわよ!!」


 余りにも見事なマリアの切り替え振りに誰からともなく笑い出す、ポカンとした顔をしていたダリスも自らの頬を叩いて顔を引き締める。


「よし! それじゃあ行くか! 待たせちまったら可哀想だ!」


「あ~、てめーら俺を頭数にいれてっけどな、とりあえず新しい体寄越せよ、足がねーんじゃ動けねぇだろーが!」


 皆がバタバタと準備に走り回る中、マリアがレイアを手招きする。


「なに? どーしたの?」


「ちょっと話があるから耳を貸して」


「へ? 改まって何なの話って……ぐっ!? あいったぁ……いきなり何すんのよ!! 頭割れたかと思ったじゃない!」


 無防備に顔を寄せたレイアの脳天にマリアの渾身の拳骨が鈍い音を響かせて炸裂する、頭を押さえて蹲ったレイアをマリアが武神を思わせる仁王立ちで見下ろす。


「ふぅ……あんだけからかっておいて何事も起きないって思う程私は舐められてるのかしらねぇ?」


「あ……え~と……あはは……ま、まあ……可愛い妹のやること? って事で……」


「ええ、だからこのお仕置きでチャラにしとくわ、おねーちゃんだしね♪……ってか女神のおねーちゃんってのも変な話だけどね」


「まあ、細かいこと気にしてたら頭にばっか栄養行って胸に行かないわ……よ……」


 思わず口を突いて出た軽口に、口を塞ぎ身構えたレイアの尻をマリアが盛大な音を立てて平手で弾く。


「さて、久し振りの姉妹共闘ね、シスターのお仕置きから逃げ惑った時以来かしら? 足引っ張ったら承知しないわよ?」


 機嫌良さそうににぃっと笑ったマリアの後を、レイアが尻をさすりながら追い掛けていった。

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