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神域の従魔術師  作者: 泰明
帝国と教国
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聖十字教国6

師父マスターグレッグ、終わりです大人しく縛について下さい」


 地に伏したグレッグを見下ろしダリスが荒い息をつく、グレッグは切り裂かれた背を庇いながらヨロヨロと立ち上がり、ダリスの方に向き直った。


「あいたたた……いや~歳は取りたくないもんだねぇ……」


「何故ですか? あなた程の力がありながら、何故この様な非道に手を貸すのです? 魔族と和解し手を取り合うことはそんなに罪なことなのですか?」


 槍斧の切っ先を向けたままのダリスの問いに、グレッグがクククと喉を鳴らす。


「なんでっつわれたら説明しようがねぇな、まあ、あれだ、力を振るうのは楽しい、それだけのこった、そしてその『場』を提供してくれるならどこだろうとなんだろうと、まあ、なんでもいいやな」


「なっ……!」


 言葉に詰まるダリスにグレッグが鋭い目線を送る、一瞬気圧されたダリスに倣うように辺りを包む蒸気の霧が晴れる。


「あと、僕は教えたはずだよ? 戦場で油断は禁物だってな」


「ダリス! そいつは違う! 気を付けて!」


 マリアの声が響くのとどちらが早かっただろうか? 目の前のグレッグの笑い顔がぐにゃりと歪み溶けてゆく、反射的に身を捻ったダリスの脇腹に冷たい金属の感触が滑り込み、その感触が爆発的な熱を持って脳髄に駆け上がった。


「ぐっ……!! あ゛あぁっ!!」


「お~、情けない悲鳴を上げちゃって……まあ、身を捻って致命傷を避けたのは及第点……おぉっとぉ!」


 グレッグが杖に魔力を込めようとしたのに合わせるように無数の炎の槍が上空から襲い掛かる、ダリスから杖を引き抜き地に沈むようにグレッグが消え、相手を見失った槍が周囲を埋めるように大地に突き立った。


「ダリス! 大丈夫!?」


「ぐっ……ああ、何とか動ける、すまないな……」


「ハハハハハ、マリアちゃん、彼氏を傷付けられて怒ったかな? 怒った顔もか~わい~ね~♪」


 繰り返されるグレッグの挑発にその頭から湯気が立ち上らんが如くにマリアの顔が真っ赤に染まる、同時に肩から立ち上る闇色をした魔力を見て、顔色を更に悪くしたダリスがマリアの肩を掴んだ。


「頼むから落ち着いてくれよ、加減をしないと帝都が消し炭になっちまう」


「……っ! ……分かってるわよ、だけどこっちは加減しなきゃならないのにあっちはやりたい放題はしゃくに障るわね!」


「だが、今のところ大規模魔術は使ってこないな……なぜだ?」


「城の防御結界が規模を抑制してるのと私が妨害してるからよ!あっちもこっちのを妨害してるからお互い様だけど、流石にストレス溜まるわ……! ……ってか止血するわよ、少し荒っぽいけど我慢して!」


 言うが早いかダリスの返答を待たずに脇腹の傷口に魔法陣が描かれ、閃光と共に放たれた炎が傷口を焼き固める。


「ぐあっ!? ……おぉ……お……ま……まさか八つ当たりできつくしてないだろう……な……?」


「馬鹿なこと言ってないでさっさと担いで、来るわよ?」


 マリアの言葉に呼応したかの様に大地が鳴動し、瓦礫が渦を巻いて飛来する、ダリスがマリアを肩に乗せ躱して回るが、躱した先から岩槍ロックスピアが、岩壁ロックウォールが、上空から落下する落石が道を塞いでゆく……。


「逃げるのが上手いのは賞賛するけどそれだけじゃ勝てないよねぇ? 先生つまんないからもうちょい気張ってもらってもいいかな?」


「そんなやっすい挑発に誰が乗るもんですか! ワンパターンはつまんないわよ! お爺ちゃん!」


「売り言葉を買ってる時点で挑発に乗ってないか? ……あいたっ!」


 要らぬ一言で頭にコブを作りながら涙目のダリスがマリアが開いた路を走り続ける、度々挑発するような言葉を掛けるグレッグの泥人形が、その度マリアに焼かれて素焼きの置物に変化してゆく……。


「さ~て、そろそろ飽きてきたから終わりにするかい? こっちの準備は万端なんだけどな?」


「あ~ら奇遇ね、初めて意見が合ったみたい!!」


 マリアが返事と共に放った炎槍が地面に突き立つと同時に激しい光を放つ、その光がこれまでに放った魔法の痕跡に繋がり、地面に巨大な魔法陣を描いた。


「おおっ!? まさか……ここまでとは……!」


「あんたがそこの地中に居るのは分かってんのよ! 大人しく消し炭になってなさい!!」


「……ふ~む、凄い、まさかここまでとは思わなかったよ……でもね?」


 地中から姿を現したグレッグが口角を上げニヤリと笑う。


「僕はもっと凄いんだ♪」


 グレッグが杖を地面に突き立てると宙を漂う瓦礫が集まり無数の杭となり魔法陣に降り注ぐ、杭が刺さる先から魔法陣の術式が書き換えられ、炎属性を表す朱色から地属性を表す濃茶へと色が変化してゆく……。


「なっ……!? ……なん……で……?」


「確かに規模も威力も申し分ない素晴らしい術式だ、防壁プロテクトも多量に使用し並の術者じゃお手上げだろうね……けどね」


 鋭い目線をグレッグが上空へ向け、そして、にっこりと笑う。


「弟子に出来る事が師に出来ないなんて考えは、少々おこがましいとは思わないかね?」


 結界を足場に上空に逃れようとした二人の目に、帝都の城壁を破壊した巨大な岩槍が消失する様子が映る。


「……!! ダリス! 急いで!」


「分かってる! だが……これは……!!」


 魔法陣が光を放つのを見てダリスが歯を食いしばり、そして、ふっと微笑んだ。


「ダリ……ス……?」


「ごめん、後は頼んだ」


 言うと同時にマリアを抱え上げその腕に渾身の力を込める、頑強な鎧の留め金が弾ける音が響くと同時に、まだ無事な市街地へ向けマリアを投げ飛ばした。

 地を揺るがす地鳴りが臓腑に響き、食いしばった歯の根が呼応するかの様に震え始める、ダリスが結界から飛び降りるのとどちらが先か、無数の岩槍が牙剥く飢えた獣の群れのように魔法陣の中から解き放たれた。

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