聖十字教国2
「へっ? 木の国の女王? 本物?」
「本体ではないから枝葉のような物じゃがの、妾が木の国の女王で間違いない」
「こうやって警戒心抜きで姿を見せるっつー事は、てめーも魔界同盟に参加したっつーことか?」
「まあそういう事じゃな、伝えるべき事もあるので来てみれば……来た途端に話し掛けられるのじゃからさしもの妾も少々驚いたわ」
コロコロと鈴を転がすように笑う女王に呆気にとられていた皆が止まった時が動きだしたかのように動き出す。
「えっと……つまり何か? 今まで俺らも魔界側から監視されていたと?」
「いや、体をいくら伸ばせれても妾の意識は一つしか無いからの、こうやって直接訪れた先しか認識はできぬよ、それに用心深い事にこやつは執務室には植物を絶対に置かぬときた、全く、情報収集が難しくて敵わん」
「まあ、気付いたのは即位した後からだけどね~……。さて、女王陛下、こちらからも聞きたい事はありますがまずは伝えるべき事というものをお聞かせ願いますか?」
一転し、真面目な顔になったアレックスを見、女王が機嫌良さそうに背筋を正す。
「ふむ、あのように小さき子供がこのように立派になるとはの……それでは話と言うのはじゃな、先ずは大魔王の手により魔界の統一は為された、金の国はこれからじゃが妾も釘を刺しておいたからの、問題なく統一は終わるじゃろう」
女王の言葉にマリアが安堵の表情を浮かべ、ダリスとフリードが大きく息をつく、場の緊張がほぐれるのを確認し、女王が再び口を開く。
「二つ目は土の国の異変、いや、王国の王都も同じ状態じゃったか……」
「っ! 王国と土の国に何かあったんですか??」
女王に詰め寄るダリスをマリアが制し、女王が言葉を続ける。
「どちらも死人が歩くかの如くに意思を失った人々で溢れておる。いや……あれは何者かに操られておるといった方が合点がいくの……」
「そんな……一体何が……」
頭を抱えるダリスの肩にマリアが手を添える、が、その手は小刻みに震え、動揺を隠せないで居る事がみてとれた。
「でも……そんな広範囲に人を操る魔法を使うなんて並の術士じゃ出来ないはず……一体誰が……?」
「まあ待て、それを行っておるであろう黒幕の話が3つ目じゃ……其方らもこの名は知っておるかもしれぬの……その者の名は『ウルグス』先代大魔王の側近だった男じゃ」
「聞いたことがある名ではあるが……人魔大戦は300年以上も前の話だろう? まだ生きているってのはいくら魔族でもおかしくないか?」
ダリスが頭を掻きながら放った疑問に女王がキョトンとした表情をし、笑い出す。
「ホホホ……その程度でおかしいとゆうたら齢千を超える妾は余程奇異に映るのであろうな、まあ、妾ほどではなくとも奴も特別じゃ、竜人が人族の数倍ほども生きるのは周知であろうが、奴は『龍』の『神』と書いて龍神族、竜人の間で古くは信仰の対象となっておった竜脈の力を宿した御子じゃ、竜脈の力のお陰でかなりの長命であるゆえ、今生きておってもおかしくはない」
「つまりはその大魔王の側近だった男が今何処かで暗躍している……と、その男の所在は分かりますか?」
「彼奴は今は人族に姿を変えて王国におる、統一王国の大臣、それが今の奴の肩書きじゃ」
「つまりは王国丸ごとそいつの手中って事か……」
ダリスがその場にドカリと腰を下ろし、頭を抱えて黙り込んだ。
「いつから王国はそういう状態になってたんだ? そんなもんたかだか数年でどうにかなるもんじゃねーだろ?」
「さあ、どうじゃろうのぅ……妾が王国まで根を伸ばすに至ったのが三十年程前……その頃には彼奴は王国の政治の中枢におった、人魔大戦以降行方知れずじゃったからの、いつからかは分からぬよ。さて、此方の話はこれ位かの? 帝国皇帝よ、其方の聞きたい事とやらを聞かせて頂こう」
女王の言葉にアレックスが首を捻りつつ考える。
「う~ん……質問かぁ……女王陛下のお話で大体聞きたい事は分かっちゃったけど……。そうか……うん、そうだね……陛下にお尋ねします、王国と聖十字教国との癒着、これはいつからですか?」
「なっ!? アレックス何を?」
アレックスが口にした質問に沈黙を守っていたトーヤが思わず口を開く。
「恐らく聖十字教国と王国は根の部分で繋がっている、教義に魔族を不倶戴天の敵と記して置きながら実際は当の魔族の傀儡とは、流石に出来すぎた話ではあるけど……。ここ最近の動きを考えたら腑に落ちるよね」
「繋がりがあるのは事実じゃな、じゃが……それがどこまでの物かは妾にも検討はつかぬ、残念ながら妾の根は教国までは伸びておらぬのでな、あとはそうじゃのう……死人のようになっておった住人がうわごとのように『女神の意思の元に』と呟いておったの」
その言葉を聞いてダリス達の顔から血の気が引く。
「まさか征伐宣言といい女神様が我々を滅ぼそうとしてる……とかじゃないよな?」
「ちょっ! 滅多なこと言わないでよ! 教国か王国が何かしたんでしょ?? 女神は生きとし生けるものに祝福を与える存在でしょ? じゃないと筋が通らないわよ!」
「待ってよ!? 何で教国が悪者で確定してるんだよ! まだ分かんないだろ!」
喧々囂々と言い合いを始める一同を見て女王が堪らず笑い出す、その様子に一同が呆気にとられ女王を注視した。
「ホホホ、あいやすまぬ、あのポンコツ女神達がえらく信用されたものじゃと思ってな、ククク……」
「あの女神って……陛下は女神様とお知り合いなんですか!?」
慌てた様子で返すマリアに可笑しくて仕方ないといった様子で女王が笑う、戸惑うマリアに痺れを切らした様子でフリードが口を開いた。
「知り合いも何もてめーも知り合いだろうが?」
「へっ? えっ? あ、託宣で会ってるから?? へ? でも……え?」
「ちげーよ! 同じ村で同じ釜の飯食って育ったんだろ? ババアだよ! ババア! あいつが一代前の女神だよ!」
フリードが放った言葉に理解が追いつかないといった様子でマリアの動きがピタリと止まる、心配したダリスが声をかけようとするも、濃密な魔力の奔流に弾かれその場に尻餅をつく。
「……あぁの性悪めえぇ……何か隠してると思ったら下界まで来て何を下らないイタズラばかり……女神ぃ? あ~……もう関係無い……一発拳骨かまさないと気が済まないわ……」
マリアを中心に魔力が渦を巻き、部屋の中の調度品が浮き始める、慌てて宥めに入るダリスとアレックスを余所にトーヤが柱の影で女神への祈りを捧げている。
「ま……まあ! 落ち着くがよい! 其方の怒りも分からんでも無いが今はその様な些事に構う余裕は無かろう! まずは落ち着いて話を聞くがよい!」
真っ青な顔でマリアを宥める女王の言葉に魔力の乱流が収まり始める、大きく二度、三度と深呼吸をし、ようやくマリアが落ち着きを取り戻した。
「はぁ……まあいいわ、怒りは再会の時までとっとくわ……」
「そういえばフリード、一代前と言ったが女神は代替わりするものなのか? だとしたら今代は今どうされているんだ?」
「あ? 今代の女神も下界に降臨して今はユーマと一緒にいるぞ? 何でもユーマに一目惚れして下界に降臨したんだとさ、全く、女神ってのはどいつもこいつもあんなのしか……」
ため息交じりに話していたフリードが、ダリスに袖を引かれてマリアの方を向き青ざめる。マリアを中心にまたも渦を巻き始めた魔力が調度品を天井まで巻き上げて尚も押し潰すかのように圧をあげていく。
「……どいつもこいつも……女神ってのはそんな奴しか居ないのか!! 私の信仰心を返せええぇぇぇ!!」
マリアの叫びと共に魔力が解き放たれ、謁見の間を暴風のように魔力の嵐が吹き荒れる、誰も彼もがそれを止めるすべを持たず、唯々嵐が過ぎるのを待つほか無かった。




