操り人形の糸の先
広大な城下町を見下ろす城の一室で仕立ての良いスーツに身を包んだ男性が城下を見下ろし佇んでいる、隙の無い立ち姿と部屋の中の調度品を見るに付け、相応の立場にある人物であると見てとれる。
ふと、男性が顔を上げ振り返り、何も無い空間を注視する、程なくして硝子の割れる様な音を立て空間に亀裂が走り、中から異形の剣を持った少女と少年、そして血塗れの獣人の少女が姿を現した。
「ふむ……ビスクお帰り、クラウンは無事連れ戻す事が出来たようだね。だが……その剣を使っての転移は生体を運ぶには適さないと前に言った筈だがね……」
男の発言を受けてビスクの肩がビクリと跳ね上がり、その手が小刻みに震え始める、その様子を見てクラウンが少女と男の間に割って立つ。
「お父様、こいつは僕が勝手に連れて来たんだ、ビスクは何も関係ないよ」
「いや、責めているのではないよ、ただ、どのような物であれ大切な資源だ、何かの役に立つかも知れない、だから粗末に扱ってはいけないよ?」
男の発言に二人が『はーい』と素直に返事をする、一見和やかとも思える空気が流れる中、調和を乱す血塗れのティリスの手がピクリと動いた。
「……おや? 今……ふむ、次元転移を行って息があるとは……なんとも頑丈な子の様だね……」
不思議そうな顔でティリスを覗き込んだ男の首筋に光を纏った白刃が閃く……二本の指で白刃を挟みしげしげと顔を覗いてくる男を睨み、ティリスが肩を上下させ荒い息をついた。
「ふむ……満身創痍のその体でそこまで動けるとは興味深い……加護に秘密があるのか? どれ、調べてみるか……」
「ゼェ……ハァ……あなたがっ! あなたが土の国をあんなにした黒幕ですか!!」
ティリスの問いに男が首をかしげる。
「う~む……ああ、あの事か、目的を果たすために都合の良い場所にあったものでね、いやはや君達獣人は役立ってくれた、感謝するよ」
にこやかな笑顔で男が差し出した手をティリスが払いのけた、男が少し驚いた顔で手を引くと、その瞳から大粒の涙がこぼれ落ちるのも気にせずティリスが食ってかかる。
「お前がっ! お前さえ居なければあんな事に! 皆死なずに済んだのにっ! お前さえ居なければ!」
「ふむ……その認識はおかしいな」
ティリスの言葉を受けて眉一つ動かさず男が続ける。
「私が手を出さずとも近いうちに戦争は起きていた、私は丁度タイミングがよかったからそれを少し早めただけのこと、それに……生きとし生けるもの総ていつかは死ぬのだ、ならば私の役に立ってから死ねば良いのではないかね?」
顔を覗き込んでくる男の瞳を見てティリスの背筋に冷たいものが走る。
(嘘や脅しじゃない、この男は本心からそう考えている、目を見れば分かる、狂人のそれじゃない。本気で他者と言うモノを状況を作り出す要素としてしか考えてない……いや、考えれないんだ……)
「……あなたの望みは何なんですか? ……一体何のために……」
「その質問に答えるつもりは無いな……ふむ……! この加護は……! フフ……フフフ……クラウン、お手柄だね、まさか偶然とは言えどあの忌々しい加護の持ち主が私の元に現れるとは!」
左目に装着したモノクルが淡い緑色の光を放つ、それを通してティリスを観察していた男が、先ほどまでとは打って変わって感情を露わに笑い出す、その様子に言い知れぬ恐怖を感じティリスが身を引こうとするが、抓まれたままの剣はピクリとも動かず身をよじる事しか出来ない。
「おや? ああ、失礼した」
男が突然剣を抓んでいた手を離し、ティリスが勢いのままにたたらを踏んで後退る。
「あなたは一体何のために大罪の加護を集めているんですか! 先代大魔王の仇討ちでも行う気ですか?」
「……ふむ、どうやら私の想定よりも君達は色々と知っているようだね、だが、まあ知ったところで止めるすべは無い、それに……今思い付いたよ、君のお陰でもっと楽しいことに出来そうだ」
男が言い切ると同時に室内が重苦しい魔力に満たされ、息をするのも困難な状態にティリスが思わず蹲る。
「さあ、今は眠っているといい……。なに、利用価値があるものは壊さないから安心したまえよ」
男の言葉を最後にティリスの意識が闇へと落ちていく……その様子を見て男が踵を返し、又窓を向き考え込む仕草を見せる。
「ふむ……私が何者か知っている口振りではあったが……私の事を知っている者など……」
男ははたと気が付いた表情をすると部屋の外壁に伝う蔦に炎を放ち、クラウンとビスクの方を向き直る。
「さて……ビスク、改めて君にはお使いを頼もうか、先日取りこぼしたあれを取っておいで、そうだな……今回はあちらのご老人に人を貸して貰うといい、隙を逃さず、確実にやるんだよ? いいね?」
「は……はい! 分かりました……お父様……」
返事をすると同時に現れた空間の裂け目にビスクが吸いこまれるように姿を消す、その様子を眺めていたクラウンが痺れを切らしたように口を開く。
「お父様! 僕は??」
「クラウン、君はそこの獣人の手当てをするんだ」
「えっ!? そんな面倒くさい……どうせ放っておいても死なないって!」
口を尖らせるクラウンの頭にポンと手を置き、男が目を合わせ念を押す。
「これはこれからの計画に必要な駒だ、きちんと直しておくんだよ? 君も楽しい方がいいのだろう?」
有無を言わせぬ男の迫力に肩を跳ね上げたクラウンが慌ててティリスを担ぎ上げ部屋を後にする、その様子を満足そうに眺めて、男は再び城下を見下ろし妖しい笑みを浮かべた……。




