木の国へ2
「ささ、各々方席に着かれよ、口に合うかは分からぬが馳走も用意した、妾はこの地から動けぬ身ゆえ外界の事など教授願えれば有り難いのう」
促されるまま各人が席に着くとどこからともなく茸人族達が現れ、果実を満載した皿を置いてゆく、色とりどりの果実は妖艶とも言える芳香をたたえ、艶やかな輝きを放っている……。
「もてなしニ感謝すル、本日出向いタ用向きであるガ……」
「承知しておる、魔界統一についての打診じゃな、前大魔王様が崩御されて未だ成されぬ偉業、果たそうとするはお主か?」
目線を向けられたフレデリックが首を振り、うやうやしくユーマを掌で指し示す、一瞬理解の及ばぬ表情をした女王が堰を切ったようにケラケラと笑い出した。
「お主らも冗談が上手いのぅ、かように小さき人族が大魔王とな? よもや妾を謀ってはおるまいな?」
女王の鋭い視線がユーマに向けられる、眼光から漏れ出す力の奔流に気圧されノルンが思わず「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。
「女王陛下、冗談ではありません、私が今代の大魔王を襲名させて頂いていますユーマと申します」
女王の視線を真っ向から受け止めユーマが答える、その堂々とした立ち振る舞いに女王の目が丸くなる。
「……して、其方は大魔王を名乗りこの現世に何をお望みか?」
「人界と魔界の統一を、そして永久なる平和を」
女王が枝葉を伸ばしユーマに近づきじっとその眼を見つめる……。
「ふむ、狂うておるわけでもなさそうじゃな、本気で言うのならば大した物じゃ……じゃが……」
見つめたまま女王が枝葉を伸ばしユーマを包み込んでゆく……。
「永久なる平和と申すならこの森はどう映る? ここには争いも無く差別も無い、お主らの理想とする『ゆーとぴあ』なるものがある、ならば世界の全てを森で包み皆ドライアドへと転生すればよい、それこそ真の平和ではあるまいか?」
女王が微笑み、ユーマの首筋に手をかける。
「陛下、お戯れを、これ以上は外交問題となります」
レイアの警告に女王がキョトンとした顔をした後に笑い出す。
「ホホホ……問題、問題とな? ならば其方らを帰さねばよかろ?」
ユーマ達がが座る椅子から勢いよくツタが伸び、皆を捕らえようと襲い掛かる。
「わわっ! 危ないっ!」
「是非も無シ……カ……」
「あ~……簡単に行くとは思って無かったけど……やっぱこうなっちゃうのねっ! ってノルン! そっち危ない!!」
「ひゃふっ!? ってどこ触ってんですか!? やめて!」
それぞれ結界や翼で飛び立ち躱す中、捕まってしまったノルンに絡む根を払い除けユーマが救出する。
「あっ! ありがとうございます、ご主人さま……」
「陛下、僕は貴女と戦いたくありません……どうしても、承知して頂けませんか?」
「其方らが何を言おうと無駄じゃ、妾は既に争いばかりの其方らに飽いておる、ならば妾が争いの起こらぬ世を作ってやろうぞ!」
女王の体から伸びる枝が鞭のようにしなり、ユーマ達に襲い掛かる。
「くっ……! それは詭弁でしょう! そんな事で平和になって喜ぶ人なんて居ない! あなたがやろうとしているのは虐殺と独裁だ!」
「其方らのこれより起こす事と何が違う! 詭弁で自分自身を煙に巻こうとしておるのは其方らではないか!!」
女王の攻撃が熾烈さを増し堪らずユーマが距離を取った、そこに生まれた隙を逃さず地中から鋭い杭と化した根がユーマ目掛けて襲い掛かってくる。
「危ない!」「危険でス!」
いち早く反応したノルンが結界で根を止め、フレデリックが漆黒の炎を放ち焼き払……われたかと思われた根が無傷のまま地中に逃げ、森の遙か後方で火柱が上がる。
「……っ!? 何!?」
疑問を口にする間もなく矢継ぎ早に枝が、根が襲い掛かってくる。
「わっ! ほっ……うにゃっ!? ととと……もういっそ倒しちゃう、じゃ駄目なんです? ユーマさんなら多分……」
「駄目よ! 女王の根は何処まで伸びているか分からない、下手を打てば少なくとも金の国の大穀倉地帯は全滅、飢饉で魔界が滅ぶわ!」
ティリスの言葉に慌てるレイアを見、女王がにんまりと笑う。
「ほう……間抜けな顔の割には見えておるの、なに、皆ドライアドとなれば飢える心配などせずもよい!」
「なっ!? ま……間抜け!? ……ユーマ!! いいわ! もうやっちゃいなさい!!」
激昂するレイアをティリスが慌てて羽交い締めにする中、ユーマがゆっくりと腰に差した剣を抜く。
「へ? え!? ユーマさん??」
「こうするのは不本意だけど……女王陛下、ご無礼を事前に詫びさせて頂きます!」
ユーマが剣を構え、力を込めて真一文字に振る、すわ一大事と場が緊張し、女王が思わず身構える……。一瞬の静寂の後、女王が怪訝そうに体を確認し自らの腹に伸びる魔力線に気付いた……。
「テイム!」
ユーマの声を合図に魔力線が輝きを放ち、ユーマの魔力が女王の体内に注ぎ込まれる、女王がビクリと体を揺らし、沈黙した後……。
一匹の茸人族がユーマの足下に現れ、うやうやしく敬礼をした。
「……へっ?」
「なんじゃ? 何かしたかの?」
女王が微笑み、再び苛烈な攻撃が始まる。
「ちょっ! ユーマ! 何してんのよ!」
「わっ! いやっ! ちゃんと成功したはずっ!? くっ……! テイム! テイム! テイム!!」
攻撃を躱しつつ再度テイムを試みるが、女王は涼しい顔で攻撃の手を緩めない、そんな中ノルンが地上を見て気付く、ユーマがテイムを唱える度に足下の茸人族が増え、次から次に整列してゆく……。
「これは……? ……っ……!! 『……それは断罪の剣、光臨の輝き、
全ての罪を裁く円環の刃――』」
「ちょっ!? ノルン!! まっ……そんな大魔法……!!」
「――今女神の名の下に裁きの鉄槌を! 『断罪乃光輪』!!」
慌てるレイアを無視して詠唱された魔法が天を光で満たし、全ての罪を浄化する断罪の光線となり女王目掛けて降り注ぐ……が、どの光線も女王の目前でかき消え、今度は大樹の遙か後方から光の柱が噴き上がる。
「……!? さっきのフレデリックの炎といい……どういう事!?」
「きっと魔力を根を通して別の眷属達に流しているんです、地上を見て下さい、さっきのご主人さまのテイムは多分あの茸人族達に流されたんでしょう……」
「ふむ……存外に気付くのが早かったの、そこなる駄女神とは違うようじゃ」
女王が鈴を転がすようにころころと笑う。
「……! 気付いてたのね……ってか誰が駄女神よ!」
「ふふふ……我に加護を与えてくれた女神をよもや忘れよう筈が無い、そして……お主も……よもや我に与えた加護を忘れてはおるまい?」
女王の言葉にレイアの頬に汗が伝う、女王が口角を上げたのを合図にしたように地を揺らす轟音と共に大樹の周囲に幾本もの竜巻が現れる。
「『風精の加護』……!」
「さあ、我の胎内たるこの森の中で、精霊術師を相手に其方らはどのように踊る? お手並み拝見させてもらうぞえ?」
女王が嫋やかに差し出した掌を合図に、無数の根が、枝が、真空の刃が、ユーマ達目掛けて襲い掛かった……。




