皇帝と学友9
「さ~ておっちゃん絶体絶命だよ~? こんだけ糸張っちゃえば避けれないでしょ♪」
周囲からキリキリギリギリと五月蠅い程に響く糸の音の只中で、ダリスは槍斧を構え立ち尽くしていた。
(ふむ……切ることは出来るが幾らでも出せる、か……厄介な糸だな……何に対して張ってるのかと思えば空中に結界壁を作ってるのか? これを破壊出来れば……)
辺りには戦闘に介入しようとした帝国反乱軍の死体が積み重なっている……前方で隊列を組み直す兵と後列で惨劇を目にした兵とで、陣の内部は完全に混乱状態に陥っている。
(さ~て、そろそろかな~?)
「そんじゃおっちゃんそろそろバイバイだねっ!」
言葉と同時に四方八方から鋼線が襲い掛かり、ダリスの四肢を切り刻……。
「へっ? えっ!? あれ~??」
指揮者の様に腕を振るい少年が斬撃を繰り出すが、そのどれもがダリスに躱され、斬られ、傷一つ付けることが叶わない。
(ふむ……何かの準備を待って居たように見えたが……? 周囲でこちらを伺っている気配が数人……何か仕掛けてくるかと思ったがあいつらは何なんだ??)
「ちょ……ちょっと待ってよおっちゃん! 何でまだそんなに動けるのさ!」
「……? 何の事だ??」
喋りながらも繰り出される斬撃を相も変わらずひょいひょいと躱すダリスに、少年が目に見えて苛立ってゆく。
「だ~か~ら! さっきから魔力の流れを阻害する結界かけてんのにどうしてまだそんなに動けるのさ!?」
「阻害? 結界? フリードの言ってた? ああ、周りを囲んでるのはそいつらか……味方じゃないなら遠慮はいらないな」
ダリスが襲い掛かる斬撃を躱しながらナイフを投げると、肩にナイフを生やした魔術師の姿が次々と現れる。
「っつ! おかしいでしょ!? 魔力の流れが狂って肉体強化は消えてるし! 体内魔力の流れも滞って動くのも辛いはずでしょ!?」
「あ~……俺魔法の才能皆無だからな……体内魔力なんか最低限しか流れてないし、肉体強化なんか最初からかけてないぞ?」
ダリスの言葉に少年が唖然とした顔をし攻撃の手が鈍る、その隙を逃さず、背後の結界に剣を投げつけ破壊し、間合いを一気に詰めダリスが斬り掛かる。
「くっ! ちょっ! 嘘でしょ?」
(肉体強化かけずに素でこの能力!? いくら何でも有り得ないでしょ? そんなの只の化け物じゃん!!)
一瞬の動揺で生まれた隙が攻守を入れ替え、ダリスが斧槍を振るい少年を追い詰める。
「うわっ! ぬあっ!? ……ってか! 何で肉体強化も感覚鋭化も無しに僕の糸が躱せるのさ!?」
「……学生時代に居たんだよ……不意討ちや魔法での攻撃を見境無くやる奴等が……真に不本意だがこういうのには慣れちまってんだよ!!」
何かを思い出したのだろう、少し涙声になったダリスが少年の背後を取らんと構えた時、耳を裂く轟音と共に城のテラスが崩れ落ちた、思わず振り向いたダリスの顔から血の気が引く。
「へへ~ん、あっちは片付いたのかな? おっちゃんあっちに行かなくてもいいの~?」
ダリスが一瞬城に気をとられた隙に少年が糸を投げ上げる仕草をする。
「糸が汚れるからあんま使いたくないけど、そうも言ってられないからねっ!」
少年が糸を引くと同時に、周囲に積み重なった骸が生命を得たかの如くに立ち上がり、一斉にダリスに向かい襲い掛かった。
「くっ! 操り糸みたいに……こういう使い方も出来るのか!」
周りを囲む骸達に向けダリスが斧槍を構え直す、一息に薙ぎ払おうとしたダリスの耳に、小さなか細い声が聞こえた……。
「たす……けて……」
「いた……い……くる……し……」
「……しにた……く……な……」
「……!!」
「アハハ! おっちゃんにはこういう風なのが効くんじゃない?」
「……趣味の悪いことを……!!」
ダリスの髪が怒りで逆立ち、周囲が重い威圧感に満たされていく……周囲の空気の重さを感じ、余裕の笑みを浮かべていた少年の表情が強張ってゆく……。
(ちょっ……とこれは地雷を踏んじゃったかな? 流石に準備も足りなかったし、潮時かな……?)
ダリスが斧槍を構え、両の足に力を込める、と、少年の背後の空間にひび割れが走り、中から現れた少女が少年の腕を掴んだ。
「お~、ビスク! ナイスタイミン……は!? 左の手足どうしたの!?」
少年が驚いた声で叫ぶと腕を掴んでいる少女の手が小刻みに震え、白い肌を更に白くして何かをブツブツ呟き出す……。
「失敗した失敗した失敗した失敗した、叱られる叱られる叱られる叱られる、お父様お父様お父様お父様お父様……ああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
ビスクと呼ばれた少女が全身をガタガタ震わせながら叫び出す、呆気にとられていた少年が悔しそうな顔をしてキッとダリスを睨んだ。
「くっ……これじゃ駄目か……おっちゃん! 今回は退くけど次は絶対容赦しないからね!」
「なっ! 待て!!」
ダリスの声が届く前に少年と少女が姿を消す、文字通り操り人形の糸が切れたように周囲の骸達が崩れ落ち、僅かな生者の呻き声だけが残った……。
「全く……人の事をおっちゃんおっちゃんと……俺はまだ25だ!!」
溜息混じりに愚痴を叩き、その場にドカリと腰を下ろす、周囲を見渡すと遠巻きに見守る反乱軍兵と行きがけの駄賃に殺されたのだろう、結界術師の死体が転がっている……ダリスはもう一度溜息をついて再度立ち上がる。
「反乱軍の諸君! ご覧の通り指揮官は討たれ司令部は壊滅した! 抵抗する者には容赦しないが投降するなら無碍には扱わぬ事を約束しよう! 皇帝陛下は寛大なお方である! 諸君らには賢明な判断を望む!!」
ダリスの言葉に一人、また一人とその場に武器を捨てて座り込む。
(恐らく反乱であると知らされていなかった者が大半だろう……これからまた忙しくなるんだろうな……)
ダリスは空を見上げて三度大きな溜息をついた。
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