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神域の従魔術師  作者: 泰明
帝国
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皇帝と学友7

「大変ですぞ子爵殿! 目の前にいきなり大軍が!! これはもはや訓練どころではありません!」


 真っ青な顔の子爵にダリスが詰め寄り、横目で混乱する近衛隊を確認し、声を張り上げ槍斧を掲げる。


「諸君! どうやら砦の演習で手薄なことを突き卑劣な輩が我等帝国に攻め入って来た!! だがそれをいち早く察知された子爵殿がこの戦場での指揮を執らんと馳せ参じられた!」


(丁度いい、指揮を執ってたら斬り込めないしな、無駄な兵のぶつかり合いを減らすためにせいぜい利用させて貰う!)


「なっ……!? 貴様……!!」


「城壁内には十万もの無辜の民! これを護らんとして何が近衛隊か!! 皇帝陛下の旗印の元、戦うは今である! 各員防御陣形で門を護れ!」


(こ……! こいつ! 今回の反乱を知っていた……!? もしや我々の事も……? まして私が来たことをこれ幸いと巻き込もうと……くそっ……悪魔め……! だが数ではまだ我等が圧倒的に有利……)


 ダリスの檄で高まる近衛隊の士気に、子爵の顔が青を通り越して白くなり、そしてまた憤怒の赤へと変化する、コロコロ変わる子爵の表情と顔色を眺め、ダリスは思わず吹き出しそうになるのをぐっと堪えた。


(あちら方も末端の兵士は相手が何物か聞かされて無かったみたいだな……先頭付近で混乱が起きている……少しは時間を稼げそうか……? あとはマリアが何を企んでいるかだが……)


 ふと、辺りを包んでいた焦げ臭い匂いが消えた、と同時に周囲の魔素濃度が一気に上がり、マリアを中心に激しい渦を巻き始める……!


「いよっし! 間に合ったぁ! そんじゃいくわよ~~!!」


 マリアが勢いよく杖を地面に突き立てると、迸る光が導火線の様に反乱軍の元へと伸びてゆく、辿る光が大地に複雑な陣形を刻み、一際強く光った次の瞬間には反乱軍兵士の半数以上が戦場から消え失せていた……。


「あ~、少しズレてたか……でもまあ、初めて使ったにしては上々かな?」


「……? 一体何をしたんだ?」


 ダリスが呆気にとられた様子で尋ねるとマリアが杖を掲げて楽しそうに笑う。


「転移の際に漏れて余った魔力を使って送還魔法陣で元の場所に送り返したのよ♪」


「そんな魔法聞いた事が無いが……」


「こないだ話した時に思い付いたから作ったのよ、ぶっつけ本番だったけど流石私! いい仕事してるわぁ~♪」


「作っ……?」


 言いたいことは色々あるが、マリアに関して非常識なのは毎度のことである、ダリスは理解するのを諦めると槍斧を肩に担ぎ上げ、兵達に向かい指示を飛ばす。


「敵方は我等の魔導師の魔法で混乱状態である! 諸君らは陣形を速やかに整え子爵殿の采配に従う様に!」


 頭を抱えて立ち尽くしていた子爵がビクリと肩を震わせた、ダリスはその肩を掴むと子爵の耳に顔を近づける……。


「さあ、正念場ですぞ子爵殿、あなたの武勇、とくと拝見させて頂きましょう」


 肩を掴む手に力が篭もり、ミシリと音を立てる……子爵はよろめき、膝をつこうとするがなぜか足が曲がらない……。


「(今座り込まれたら士気に影響するから暫くそのままでいてね? 叫んだら顔もこうなるわよ?)」


「……ひっ?!」


 笑顔で話し掛けるマリアを見、慌てて足元を確認する……石に変わった自らの下半身を確認し、子爵の意識はそのまま闇に溶けていった……。


「びびらせすぎだ、まあ、騒がれるよりいいが……さて、それじゃあ行ってくる、こっちは任せた」


「は~い、任せられたわ、こいつはまあ……違和感ないように格好良く固めとくわ」


 格好良く……マリアのセンスに一抹の不安を感じつつダリスは相手陣に向かい足を踏み出した。



………



「どういう事だ! 何故兵達が消えた!? 転移に問題は無い筈では無かったのか!!」


 反乱軍の最後端、指令部の天幕で帝国騎士団長が何者かに詰め寄っている、天幕の外では未だ兵が消えた事への動揺が広がり、隊列を組むのもままならぬ状態が続いていた。


「う~ん……土の国ではこの方法で問題無かったんだけどね、帝国に前の戦の顛末が漏れてたか……でもこんな複雑な反転魔法、簡単には作れないし……まあ、長い人生だもん失敗もあるよ♪」


「……っふざけるな!! 我々がどれだけの覚悟で革命を成そうとしているか……どれだけこの国を憂い、民のためにこの決断を成したか……! 貴様に何が分かる!!」


 胸ぐらを掴まれた少年(?)が、その銀色の瞳に騎士団長の姿を映し、瞳と同じ色の髪を揺らして笑い出す。


「アハハッ、そんなこと言うけどさ! 要は現皇帝が気に入らないから今の平和を壊してでも力を持つ前にぶっ潰して、代わりに自分達があまぁ~い汁を啜りたい☆って事でしょ?」


「……!! ……」


「僕らは混乱を起こしたかっただけ、君らは欲望に忠実に踊っただけ、一時でもイイ夢が見れたんじゃない? 感謝くらいしてよ?」


「貴様は……一体何者なんだ……!? 辺境伯はなぜお前なんかを……! ぐあっ!?」


 中空に光が走ったかと思うと胸ぐらを掴んでいた腕がゴトリと音を立て床に落ちる、その音を合図にしたかのように、音も無く天幕を切り裂き何物かが侵入してきた。


「……むぅ……取り込み中か? 一応形式上質問するが……降伏の意思はあるか?」


 踏み込んで来たダリスが場の状況に一瞬ギョッとし、すぐに落ち着いた声で二人に問う。


「……っ! 次から次へと! 曲者だ! 天幕の中だ! 誰か……!」


 騎士団長が外へと駆け出した瞬間、赤い噴水を噴き上げ『それ』が地面に落ちる、騒ぎを聞きつけて天幕の中に踏み込んだ兵が、後に続く様に次々と物言わぬ屍に変わってゆく……。


「あれ? おっちゃんはかかって来ないの?」


「むぅ……仲間割れかと思ったが……少々事情が違うみたいだな……

見るにお前がこいつらをそそのかした……かな? あと、動いてたら首が落ちてただろ?」


 ダリスが中空に向かい槍斧を振るうと楽器の弦が切れたような音が響き、目に見えぬ何かが地面に垂れ下がった。


「え~? こうも簡単に見切られちゃうとなんかやる気が無くなっちゃうな~、どうやって分かったの??」


「なに、古い馴染みが糸やら棒やらを魔法で消して廊下に仕掛けまくってくれてたからな、馴れだ」


 溜息をつき頭を掻くダリスを少年がぽかんとした表情で見つめ、一瞬間を置いて笑い出す。


「アハハハハ! なにそいつ? めっちゃ性格悪いじゃん! おっちゃんってば相当友達運ないね!!」


 笑いながら繰り出された鋭い攻撃を躱し、ダリスが天幕の外に転がり出る。


「よく言うな! 少なくともそいつはお前みたいに殺傷力のある物は使わなかったぞ!」


 体勢を崩した所への追撃をかわし、胴に放つ一閃が少年の両手の間の見えぬ何かに阻まれる。


(これは……多分金属製の糸だな……魔法で見えなくなってるんだろうが……まあ、引っ掛ける場所のない外なら……)


 再び間合いを詰め、追撃を加えようとしたダリスの首筋に言いようの無い悪寒が走った。


「っとお! 危ない!」


 間一髪躱した糸で仮面の下半分が切り落とされる。


「え~? これも躱されるの? おっちゃん一体どういう勘してんのよ?」


 周囲からキリキリキリキリと、金属糸を引き絞る音が聞こえる……。


(音の出所は地面には接してない……中空にどうやって……? っというかこいつの気配……何処かで……?)


 考える暇も無く次から次に糸が増え、ダリスの行動が制限されていく……。


「見たところおっちゃんがこの国で一番強い人かな? なら仕事がすっごいやりやすいかもね!」


「仕事? どういう事だ! 何を企んでいる?」


「へっへ~んな~いしょ♪他に気を取られてたら死んじゃうよ~?」


 ダリスの周囲の音が時と共に増えてゆく……キリキリ……キリキリ……と……。

設定資料的な物も作りました、

https://ncode.syosetu.com/n7237fp/


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