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神域の従魔術師  作者: 泰明
女神降臨
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少年と毛玉1

「レイア~、居る~?」


 城の地下の扉を開け、ユーマが顔を覗かせる、この城に来て初めて踏み入る地下室はユーマの予想を遙かに超えた広大な空間を有していた。


「うわ~……なんだこれ、すっごい広い……」


「ご主人さま、水路もありますよ……それに、魔石灯もいいの使ってますね、地下じゃないくらい明るいですよ?」


 ノルンの言うように地下には清浄な空気と水が流れ、魔石灯の光で地上部分と変わらぬ光量が保たれている、パッと見ただけでここを地下であると判断できる者は少ないだろう。


「でもなんで玉座の裏に隠し階段なんか作ってんだろ?」


「そこは神界あるあるですね、なんか魔王の城と言えば玉座の裏に隠し階段! っていうイメージです」


 神界あるある……聞き慣れないフレーズに頭を悩ませつつ、ユーマとノルンは更に奥へと歩を進める。


「ってかここ本当に地下?? なんか城の地上部分より広い感じがするけど……」


「歩測の感じと城下町の地図を照らし合わせますと……大体城から北東に1km位の辺りですね……」


「城下町と城が東西になってるから……多分工業区画の辺りかな……? でもノルンよくそんなに詳細に分かるね……」


「城の周囲は上空から見て地図化マッピングしたので、照らし合わせていくと大体これ位かな……って」


 ユーマが感心したように言うと、ノルンが顔を真っ赤にして照れる、こうも恥ずかしそうにされるとこちらまで顔が赤くなりそうになってしまう……。


「……そういえば上空からって……そういえばノルンは託宣の時には翼があったよね? 今は無いけどどうして?」


「ああ、あれは託宣の時の勝負服みたいな物で……翼のディテールの分魔力を余分に使ってしまうので空を飛ぶときか特別な時にしか使わないんです、あっ、ご希望でしたらお見せしますね」


 ノルンが目を閉じ集中すると背中から光り輝く翼が生え、辺りを柔らかな魔力が包みこむ……託宣の間で感じたような安らかな空気にユーマの緊張が思わず緩み、同時にその美しさに目を逸らせなくなる。


「うわぁ……やっぱり綺麗だね……」


 思わずユーマが呟き、ノルンがまた顔を赤くする、その表情に気付く間もなくユーマが思わず呟いた。


「ね、ちょっと触ってみてもいい?」


 好奇心からのユーマの問いかけにノルンの肩が跳ね上がり、赤くなった顔をさらに赤く染め、もじもじと手遊びしながら下を向く。


「えっ……あのっ……その……はっ……はいっ! ご……ご主人さまになら……いや! ご主人さまだから! その……だ……大丈夫です……!」


 頭から湯気が出そうなほどに顔を紅潮させ、しどろもどろになるノルンを見てユーマが事態を理解する。


(やばい! これって……もしかして女神様的にはなんかとんでもなく恥ずかしくて破廉恥な感じの事なのでは!?)


 おずおずと翼を差し出すノルンを前に、ユーマが自問自答を繰り返し固まる、万事休すと覚悟を決めたその瞬間、聞き慣れた声が地下空間に響いた。


「な~にこんな所でいちゃついてんのよ! 遅いと思ったら何やってんの?」


 ノルンが慌てて翼を消し、助けが来たとばかりにユーマが駆け寄る。


「レイア、こんなとこに居たの? 地下で待ってるって言うから来たけど、こんなに広いなんて聞いてないよ……」


「ここは有事の際の国民の避難場所だからね、だだっ広いのは仕方が無いわよ」


「事前に説明してくれないと……迷いはしないけど流石に不安になるよ……」


「あ~ら……困った風に言う割には地下散歩デートを楽しんでたみたいだけど……」


 レイアがニヤニヤと二人を眺め、ユーマとノルンが顔を見合わせ揃って耳の先まで真っ赤になる。


「あ~! もう! 何か用事があって呼んだんでしょ! さっさと用件済ましてよ!!」


「つれないわね~……ま、いいわ、こっちよ、はぐれないように付いてきて」


 レイアの案内で工業区画の地下らしき場所の更に奥深く、地下空間の突き当たりの壁の前に立つ、レイアの指す先には苔生した壁があるばかりで何かがあるようには見えない。


「……? なんで行き止まりに?」


「いや……ご主人さま、多分これは……」


 レイアがにっと笑い壁に手をかざす、壁に付着した僅かな埃が舞い、隠されていた魔法陣が浮き上がり、石臼を挽くような音を立てて壁が開いていく……。


「お……おお~……うわああぁ……」


 ユーマが感嘆の声を上げ、開く扉に見入っている、その様子を眺めながらレイアが誇らしげに胸を張った。


「ど~よ? この秘密基地感! ユーマこういうの好きでしょ?」


 目を輝かせて見入るユーマの眼前で、室内の全容があらわになる、室内には硝子細工の巨大な容器が立ち並び、床は地を這う配線やホースで埋め尽くされている、剥き出しの歯車が回る中、金属製のタンクからは蒸気が絶え間なく吹き上がり続けている。


「スチームパンクって感じですね~、先輩もこういうの好きでしたよね?」


「スチームパンク?」


 聞き慣れない単語にユーマが首をかしげる。


「スチームパンクっていうのはこういった蒸気を動力にした機械と、剣や魔法の世界をミックスした物語の事です、一時期神界でも流行ったらしいですね」


「そういうのがあるんだね~、案外この世界はレイアがそういうのに影響受けて作った世界だったりして??」


 ユーマが冗談交じりに放った言葉にレイアの肩が一瞬ビクリと跳ね上がる。


「ま……まさかそんなこと……ねぇ? さっ! こっちよこっち! この奥よ~♪」


 挙動不審なレイアをジト目で観察しつつ、ユーマがふとした疑問に思い当たる……。


(そういやレイアって一体何歳なんだろ……?? 天界と地上は時間の流れが違うって言ってたけど……それでも魔王よりは年上な訳で……)


 考え込むユーマにノルンがそっと耳打ちする。


「気になるかもしれませんがその辺りは触れない方がいいですよ? 女性に年齢の話はNGです」


「んなっ!? えっ? ……心を読んだ??」


「そんなことできませんよ、でもご主人さま考えてる事が顔に出やすいですから……」


「き、気を付けるようにするよ……ありがとう」


 慌てるユーマを見てノルンがクスクスと笑う、布に覆われた硝子容器に囲まれた通路を抜け、床に配管の無い、少し開けた場所に出る、その空間の隅で何かがゴソゴソ蠢いているのが見えた……。


「ドクター! 連れて来たわよ~♪」


 レイアの声掛けに反応し、隅で蠢いていた毛玉? がこちらを振り向く、だが、全身が長い艶やかな毛に覆われており、一体どちらを向いているのか分からない……毛玉の持つ異様な雰囲気に

ノルンがユーマの腕にしがみつく。


「んん? おお! 坊主がラスティの言っておったユーマか! なんじゃ……別嬪さんを連れて……儂もあやかりたいもんじゃのぅ! ガハハハハ!」


 毛玉から腕が生えたかと思うと毛をかき分け、中から髭を生やした壮年のドワーフの顔が現れる、背丈こそユーマより頭一つ低いが、毛をかき分ける腕やチラリと見える体は鋼のような筋肉と傷に覆われている。


「この人はブロック、ドワーフと獣人のハーフで火の国の技術顧問をしてくれているわ」


「初めまして、ブロックじゃ、皆からは『ドクター』と呼ばれておるよ」


「ユーマです、よろしくお願いします、こちらは……」


「私はノルンと申します、ご主人さまの従魔をしています!」


 元気のいいノルンの自己紹介にブロックとユーマの目が点になる。


「ま……まあ……人は見掛けによらんのぅ……儂もこの歳になっても驚く事ばかりじゃて……」


「へ? えあっ!? そ……それは……!」


「いや~ん♪ユーマったらけだもの~☆」


 じりじりと距離を取ろうとするブロックに悪ノリするレイア、爆弾を投下した当の本人は理解しているのかいないのかキョトンとしている。


「こっ、これには複雑な事情があるんです! 事故というかなんというか……ちょっ! レイア! レイアのせいでこうなってんでしょ! なに距離とってんのさ!!」


「なんじゃ? レイア……お前さんまた何かやらかしおったんかい」


 ブロックが呆れたように呟きレイアを見るが、本人は素知らぬ顔で機械をいじくっている。


「まったく……いつか手痛い仕返しをうけるぞい? さて、今回呼び出したのはじゃ、ユーマ、おぬしの武器の事じゃ」


「武器……あぁ……そういえば……」


 思えばユーマの持つ武器と言えば、村を出る際にシスターに渡された短剣と水の国に赴いた際に帯剣した儀礼用の長剣……戦の際に使用したフリードの大剣は墓標として墓地に安置されている……。


「前々からレイアにおぬしの為に武器を作ってくれと頼まれておっての、儂も金の国での野暮用があって中々手を付けれなんだが、ようやく完成したのでな……折角じゃから手渡ししてやりたいと思ってのぅ」


 ブロックがにぃっと笑い、ユーマが期待に満ちた表情でブロックとレイアを見比べる。


「ありがとうございます!! 僕専用の武器……一体どんなのですか??」


「まあ、慌てるでない、おぬしとしてはフリードと同じ大剣がいいかもしれんが……まあ、体格の差もあるし持ち運びに困るじゃろ、じゃから勝手ながら長剣にさせてもらったぞい?」


 説明しながら積み上がった機材を除けているが、どうにも全身を覆う髪の毛が邪魔な様で進まない。


「すまんがレイア、ちょっと髪を束ねてくれんかの?」


……


束ねたチョンマゲをピコピコ揺らしながらブロックが機材の裏に隠してあった箱を取り出す。


「ふふん……こいつは自信作じゃからの、予算は問わぬっちゅう事じゃから思う存分腕を振るわせてもらった、ただ、ちょっとした問題があってな……」


 ブロックに渡された箱をユーマがわくわくした表情で開け放つ。


「わぁ……凄い……」


「綺麗ですね……でも……これは?」


 自ら光を放つかの如く磨き抜かれた両刃の刀身に、油を纏わせたかのようにゆらゆらと紋が浮かぶ……細かく美しい細工の施された鍔にはなぜか不自然な穴が開いていた……。

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