少年と日常
朝を告げる日の光が顔を照らし、重いまぶたを上げユーマが目を覚ます、眠い目をこすり、大きく伸びをして手を突いた先に柔らかな違和感が……。
「ん? なんだ……? この感触……!? んなっ!? ええええええぇ!?」
ユーマの上げた叫び声に驚いたラスティが何事かとユーマの部屋の扉を開け放つ。
「ユーマ様どうされました!? 朝からそんなに大声をあげ……て??」
扉を開けたラスティが固まって動かない、ユーマもベッドの上で動かない、ラスティの視線はユーマではなくその傍ら、半裸で眠っているノルンに釘付けになっている……。
「え……えっと……? 昨夜はお楽しみでしたね? あ、お邪魔なようなので退散しますね~」
ニヤニヤと意味ありげな笑みを見せつつラスティが扉をそっと閉める。一拍遅れて正気に戻ったユーマがベッドから飛び降り、慌てて扉を開けて廊下に叫ぶ。
「ちょっ!? ら……ラスティさん?? ちっ! 違うんだって!! 朝起きたらノルンが勝手に……!」
まるで浮気男の言い訳のような弁解をするも、ラスティが廊下をダッシュする音が空しく響く。
「ん……ふぁ……ご主人さまおはよう御座います」
騒ぎで目を覚ましたノルンがユーマに朝の挨拶をする、起き上がった際に掛け布団が落ち、透き通るような白い肌があらわになる……。
「ちょっ……ちょっとノルン!? なんで寝間着を着てないのさ!! それにいつの間に僕の部屋に来たの!?」
ユーマが慌てて後ろを向いて抗議する、その顔は後ろ姿から見ても分かるほど、耳の先まで真っ赤になってしまっている。
「ふぇ? ああ、先輩が『あんたはユーマの従魔になったんだからちゃんと離れずに護らなきゃだめよ!』って合鍵を……」
「護衛だったら尚更服着ないとでしょ!」
「あ、それは大丈夫ですよ? あの服は魔力で具現化した物なので私が念じただけですぐに装着できます、ですが……魔力で作ってますから寝てる間も着てると気を張ってしまって……なかなか安眠できないんですよ……」
ようやく服を着たノルンに向き直り、ユーマのお説教が始まる。
「――だから、ベッドに潜り込むのは禁止! 寝るときにはちゃんと寝間着を着て! いい?」
「はい……分かりました……」
泣きそうな顔で落ち込んでいるノルンを見ると、なぜだか自分が悪いことをしているように感じる。ばつが悪そうなユーマだが、成人女性に少年が説教している絵面というのはなかなかどうして滑稽なものである。
(いや、でも心を鬼にしないと……! せめて魅了が解けるまでは厳しくしないと……流石に今の状態じゃ身が持たない……ってか、大体全部の責任はレイアにあるんだし! 僕が心を痛ませなきゃいけないのはなんで!?)
険しい顔をしているユーマを見てノルンがまた泣きそうな顔になる、その表情を見てユーマも言葉に詰まり、ため息をついてノルンに手を貸し立ち上がらせる。
「とりあえず、後で町にノルンの服を買いに行こうか、パジャマとかはあったほうがいいのは今日分かったし……」
「えっ! それはデートのお誘いですか!?」
「デートって……まあ、それでいいよ」
苦笑するユーマを尻目にノルンが子供のようにはしゃいでいる。
(困った女神様だけど……ほっとけないな、っていうか……行動も言動も僕より幼い気が……神様ってみんなこういうもんなのかなぁ……レイアも今より村に居たときが素だったっぽいし)
「そうと決まったらご主人さま! 早く朝食食べに行きましょう!!」
「うん、じゃあ行こうか」
考えても仕方ない、とりあえずはレイアにどう仕返しをするかを考えながら、ユーマはノルンに手を引かれて部屋の扉を開け放った。
……
「ね~、そろそろ許してよ~、ちょっとしたイタズラ心じゃな~い」
ユーマの組んだ小型の四重結界に拘束され、レイアが天井から吊り下げられている、ゆらゆら揺れながらの抗議も、怒り心頭なユーマには通じない。
「いつもいつも僕をオモチャ扱いして! 毎回毎回……それに今日のは流石に度を越してるよ!」
レイアが吊り下げられたままぶらぶらと揺れて朝食を恨めしそうに睨む。
「ユーマ様いいんじゃないですか? レイア様も反省してるみたいですし……」
「そ~よ、ちゃんと反省してるからさ! お腹空いちゃったし降ろしてよ~、ってかちょっとは嬉しかったくせに~♪」
ラスティが助け船を出すもまたもの失言で今度は沈黙の呪文を掛けられる、もがもがと何か言いたげにするが今度ばかりはユーマも目を合わせない。
「ユーマさん今日はいつもより厳しいですけど、レイアさんがまた何かしたんですか?」
「実は今朝ですね~……」
ティリスの問いにラスティが答えようとして涙目のユーマに睨まれ慌てて口をつぐむ、ティリスが怪訝な顔をするもすぐに察し、話題を他に切り替えた。
「それにしても、ユーマさんとは対照的にノルンさんはえらくご機嫌ですね……」
「今日はご主人さまとデートなんです♪城下に服を買いに行くんですよ!」
「あら、それはいいですね♪仲が良くて何よりです」
女性陣の視線が生暖かい温もりを帯びてユーマに突き刺さる、ユ-マは耳まで真っ赤になりながら朝食を口に詰め込むと席を立った。
「ノルン、準備が出来たら声かけて! 部屋で待ってるから!!」
乱暴に言い放ち、部屋に戻ろうとしたユーマを沈黙をようやく解いたレイアが呼び止める。
「ユーマ! 町に出る前に城の地下に来てくれる? ちょっと会わせたい人がいるのよ!」
「……また何か企んでるんじゃないよね??」
「何も企んだりしてないわよ~……多分……ってか早く結界解いてよ~! お腹空いた!!」
ユーマがジト目でレイアを見つめ、大きく溜息を吐いてから結界を解く、とぼとぼと部屋に戻るユーマをノルンが追いかけるのを見送り、その姿が見えなくなるのを確認してからティリスが口を開いた。
「ね! ね! ラスティさん! 結局今朝何があったの!? レイアさん一体何をしたの??」
「んふふ~……それはですね~……」
女三人の姦しい声がしばらくの間食堂に響いていた……。




