少年と女神3
「……こういうイメージで、指先から糸を出す感じ、それを綿みたいに絡ませて……」
城内のホールでユーマとティリスが魔力操作の訓練をしている、どうやら魔力綿の作り方をユーマが教えているようだ。
「う~ん……駄目だぁ……! こんな細い糸状に魔力を加工するなんて、どれだけ繊細な調整が必要なんですか!」
「でもこれが出来たら便利だよ? 高い所から落ちても平気だし、物理的な攻撃は軽減できる、魔力を余分に流して硬化させたら刃物も通らないし」
「そんな芸当できるのはユーマさん位ですよ……糸状にしたのを維持するのが精一杯です」
「う~ん……慣れたら全身の魔力線から出せるようになって便利なんだけどなぁ……」
「ぜ……全身!? ど……どうやって?? というか、これってどのくらいの範囲まで展開できるものなんですか?」
「えっと……そういや試したこと無いな……多分普通にこのホール位はいけると思うけど……試しにやってみようか?」
期待に目を輝かせるティリスを入口付近まで下がらせて、ユーマが目を閉じ集中を始める……ユーマの体から光が漏れたように見えた瞬間、全身からモヤの様な物が溢れ出て凄まじい勢いで部屋を覆い尽くしていく……。
「あら? ティリス、どうしたの? ユーマと魔力操作の訓練してたんじゃないの?」
「あっ、レイアさん、今魔力綿がどこまで展開できるか試そうってユーマさんが中でやって見せてくれてるんです……そちらの方は? ……見掛けない方ですね?」
「昔の知り合いが訪ねて来てね、ユーマに会いたいって言うから連れて来たのよ」
「そうなんですね、私はティリスと申します、よろしくお願いしますね」
ティリスが笑顔でお辞儀をするのを見て、ノルンがぎこちない笑顔でお辞儀を返す。
(可愛い子だ……ってかネコ耳!! ユーマ君ってこういう子が好みだったりするの?? 可愛さでは負けても美しさでは勝ってるはず……いや、もういっそ一番じゃ無くてもいいからそばにいれさえすればあああぁぁ!! ってか二人で特訓って何!? 羨ましすぎるんですけど!?)
「それじゃノルン、部屋の中にユーマが居るからさっさと入った入った!」
「えっ!? ちょ、先輩! 心の準備が……」
レイアに背中を押されノルンが部屋に入る、その瞬間、ノルンはレイアが妖しく笑うのを見た。
「せんぱ……? わふっ!? え? 何だか綿みたいなのが……」
ノルンが魔力綿にぶつかったのを確認しレイアが叫んだ。
「ユーマ! テイム!!」
「へ? は? え!?」
状況を理解出来ないノルンが戸惑う中、レイアの声に反応してユーマが反射的に綿に魔力を流す、綿を通してノルンの全身に魔力線が繋がり、ユーマの魔力が怒濤の勢いで流れ込んでいく……。
(え!? これは?? ……これは! ユーマ君の魔力が……全身を……巡っ……あぁ……私の全身が支配されて浸食されてく……もう……もうどうなってもいい……し……幸せええぇぇ!!)
恍惚の表情でその場に倒れ込むノルンを、レイアが満足そうな顔で、ユーマとティリスが唖然とした顔で見つめる。事態を理解したユーマが慌てて駆け寄りノルンを抱き起こす。
「ごっ……ごめんなさい!! 大丈夫ですか!? あああ……まさか人が居るなんて……」
「れ……レイアさん!? な、なんで?? どうしてこの人にテイムを使ったんです!?」
ユーマもティリスも余りの事態に混乱し、事態の理解が出来ないでいる。
「へあ? あ……らいじょうぶれふ……わらし……今……とってもしあわへれ……ご主人さま……らいすきれふ……」
蕩けきった表情で呂律の回らぬノルンを見て、ユーマがあることに気付き青ざめる。
「え……? ええぇ!? まさか……えっ!? め……女神様? え……嘘ぉ……」
「へ? ユーマさんそんな……いくらなんでも女神様がこんな所に居るはずが……確かに似ていますし美しい方ですけど、他人のそら似……」
「お~、ユーマよく気付いたわね、正真正銘、その子は女神その人よ」
言われてユーマとティリスの目が点になる、一拍遅れて顔を見合わせて二人が叫ぶ。
「「えええええええぇぇ!?」」
「それにしても女神すら一発でテイムするとは……ユーマったら流石ねぇ……でも……これは……」
レイアの視線の先ではノルンがユーマの膝に乗り、抱き付いたまま頬ずりをしている。
「ユーマ……あんたテイムだけじゃなくて変な魔法でもかけた??」
「ユーマさん……不潔です……」
「テイムだけしかしてないよ!! ってか自分から指示しといてドン引きしないでよ!」
距離を取ろうとする二人にユーマが涙目で抗議する。
「まあ、この現象は置いておいて、ノルン、質問するから答えなさい」
「先輩に答えることはありません!」
ユーマに抱き付いたままそっぽを向くノルンにレイアが目に見えて苛立つ。
(このままじゃ後でレイアの八つ当たりがくる! ってか胸が! 吐息がああぁ!! あああ……いい匂いが……じゃなくて!)
事態についてゆけず目を回しているユーマだが、助かりたい一心で何とか言葉を絞り出す。
「え……えっと……女神様? レイアの質問に答えてあげてくれますか?」
「ご主人さま、女神では無くノルンとお呼び下さい、私はご主人さまのお心のままに従います……」
熱の篭もった視線で上目遣いにユーマを見上げる、引き剥がそうにもしがみついたまま離れないノルンに、ユーマは諦めの表情でされるがままになっている。
「さて、と、気を取り直して質問するわね。ノルン、わざわざ地上に降臨したのはなぜ?」
「それは、朝いつもみたいに地上の様子を確認したらご主人さまの能力値がすごい事になってて、このままじゃ世界のバランスが崩れかねないから地上に直接降りて調整作業をしようと……」
「具体的にはどうするつもりだったの?」
レイアの質問にノルンがハッとし考え込む、真剣な顔で考え込むノルンを皆が固唾を吞んで見守る、程なくして頭から煙を上げながらノルンがレイアを向き首を傾げた。
「……う~ん……? どうしたらいいんでしょ?」
「は!? ノープランでここまできたの!?」
「キリアが先輩探して合流して、意見を貰いながら考えろって……このままじゃ世界ごと廃棄されかねないから……ご主人さまを護りたくて居ても立っても居られなくて」
「えっと……それじゃ世界の安定のためにユーマを消しに来たとかそういうのじゃないの?」
「!? そんなことするはずないじゃないですか! 神界に居たときからずっとご主人さまを見てたんです! それをご主人さまに支配して頂けるなんて……ああ……私! 生きてて良かった……」
ノルンが感無量といった様子でユーマを抱きしめる、男子には夢のような状態であるが、当のユーマは完全に目を回してしまい動かなくなってしまっている……。
「んん?? じゃ、じゃあ……あの加護をユーマに与えたのも?」
「ご主人さまが従魔術士になりたいっておっしゃってましたから最適な加護があったって、でもたった一年でこんなに強くなられるなんて! やっぱりご主人さま凄いです!!」
「はぁ……うん、大体理解したわ……」
「えっと……結局どういう事なんです??」
頭痛を抑えるように眉間を押さえたレイアにティリスが未だ混乱した様子で尋ねる。
「早い話がそこの駄女神がユーマに惚れて、あれこれ便宜を図ってたら世界のバランスが崩れそうになっちゃったって話よ」
「あ~……それでレイアさんはユーマさんを暗殺しに来たって勘違いして阻止するために女神様をテイムさせた……と……」
「まあ、予想とは違う形になったけど、この子テイムしたお陰でユーマの能力値はまた跳ね上がったし、前向きに考えていきましょう」
大きく溜息をつき頭を掻くレイアを見てティリスがはたと気付く。
「え? ノルンさんが女神様で……それでレイアさんが先輩?? 古い知り合い? え? ……って事は……?」
「あ~……まあ、隠しててもしょうがないわよね、つまりはこういう事よ」
呆然とするティリスの眼前でレイアの体が光に包まれ、神々しい女神の姿に変化する。
「は……はぁ……ああ、もう、何が起きても驚かない気がします……」
「へっ!? レイアも……女神!? え? えぇ~??」
放心状態のティリスと対照的に、驚いたユーマがようやく意識を取り戻す。
「ノルンの前の女神が私、誰かに聞いたりしたこと無かった? 『女神様の顔とかが昔と違うらしい……』とか都市伝説的なの、そりゃ違うはずよね、だって別人だし♪」
カラカラと笑うレイアを疲れ切った表情で二人が見つめる、流石に短時間で得る情報にしては濃すぎる内容であったのだろう。
「ま、でも無用な混乱は避けたいからノルンと私が神族なのは秘密にしておいてね」
「分かった……まあ、その方がいいね……」
「私も了解しました! 女神様の秘密は漏らしません!」
レイアが満足そうに頷いて元の姿に戻り、ユーマの膝の上のノルンに視線を移す。
「とりあえずこの子は多分テイムの影響で恋心が暴走して魅了状態になってるみたいね……ほっとけばその内治る……といいわね」
「へっ? それじゃ女神様ずっとこのままなの!? それは流石に困るよ!!」
「も~! ノルンって呼んで下さい! ご主人さま!」
抱き付くノルンに四苦八苦しているユーマを眺め、レイアが大きく溜息をつく。
「ってか、ユーマ、『離れろ』って命令したら離れてくれるんじゃないの? 案外満更でもなかったんでしょ? 憧れの女神様♪に甘えられて」
「ユーマさん……やっぱり……」
レイアがニヤニヤと楽しそうに笑い、ティリスが再びユーマから距離を取る。
「わ~~!? 違うってば!! めが……の……ノルン! 一旦離れて!!」
ユーマの言葉にノルンがショックを受けた表情をし、力無く膝から下りて正座する、潤んだその瞳からはポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちている……。
「ごめんなさいご主人さま、御迷惑でしたよね……わたっ……私なんかに……グスッ……それでも……わ、わたしはっご主人さまの事が……ヒック……」
泣き出したノルンを前にユーマが右往左往と慌て出す、その様子を見てここぞとばかりにレイアがはやし立てる。
「あ~あ、泣~かした! 中々のプレイボーイだねぇユーマ君は♪」
「ちょっ!? えっ? 僕が悪いの?? あ、あ~……ノルン? 僕はノルンを嫌ったりしないよ? だけど人前でそういうのは少し控えて欲しいんだ、分かって? ね?」
しどろもどろ言い聞かせているユーマの後ろでレイアの瞳がキラリと光る。
「ん~、そうねぇ、人目があるからいけないんだし、ティリス、お邪魔な私達は退散しましょうか?」
「えっ? あっ……はい! そうですね!」
「へっ!? えっ? 何を……うわっぷ! の……ノルン!? ちょっ! 二人とも待って!!」
ユーマの声を背に受けながら二人がホールを後にする。
「放っておいて良かったんですか?」
「まあ、取って食われるわけじゃないし、それにこうした方が面白いし?」
「確かに、いつも落ち着いた感じのユーマさんのああいった姿は新鮮ですね!」
「ん~、ティリスも案外イケる口だね~♪んじゃ小腹も空いたし、ティータイムにしますか♪」
「あっ、そういえば城下に新しいカフェが出来て評判らしいですよ?」
「あ、あの避難してきた獣人のご夫婦の? ならちょっと足を伸ばしてみようかしら?」
楽しげに歩く二人の背中にユ-マの助けを求める声が響いていた。
更新と同時進行で初期の部分の手直し中…
過去の自分に向き合うのは苦行と覚えたり…!




