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神域の従魔術師  作者: 泰明
女神降臨
23/98

少年と女神2

「やっと……ようやく火の国の首都に……着いた……」


 火の国首都の城門を望む丘に立ち、ノルンが感無量といった表情でその景色を見おろす、昼夜問わず歩き続けた足は疲労でガクガクと痙攣し、威厳と威光を示すはずの女神の杖は既に体を支えるだけの棒と成り果てている……。


(海岸の密林地帯を抜けて関所に着いたら門前払い、挙げ句に拘束されそうになって逃げたら手配され、関を飛んで越えたらワイバーンに追い回され……)


「だけど! 私はここまでやってきた!! ついに! ついに辿り着いたのよ!!」


 ノルンの頬を感動の涙が伝い、天からは祝福の光が差す、両手を掲げ体全体で喜びを表現……している両手ががっしりと拘束された。


「水の国の関を抜けた怪しい女とは君だな? すまないが拘束させてもらう、君には黙秘権と弁護人を付ける権利がある、大人しく拘束されるなら権利を保証しよう」


「へ? は? ちょ……えぇぇ……」



………



 金属の軋む嫌な音をたてて鉄格子の扉が閉められた。仄かに黴の匂いのする地下牢に通され、ノルンは未だ状況が理解できているのか居ないのか、固まったまま動かない。


「済まないなお嬢さん、取り調べが終わるまではここにいてもらわなきゃいけないんだ、身元引受人が居るなら連絡を取るから詳細を牢番に教えてやってくれ、後ほど取り調べに人をよこすから大人しくしておいてくれよ?」


 ノルンを連行してきた兵士が一通りの説明を終えて去ってゆく、その様子を無表情のまま見送り、呆けた表情で牢内に立ち尽くす……暫くそのまま虚空を見つめていたが、やがてわなわなと手が震え始めた。


「……っなんで!? 私女神よね!?この世界唯一の宗教の信仰のシンボルよね?? なんで罪人として牢の中に居るのよ! なんで……」


 天を仰いだまま膝から崩れ落ちその場にへたり込む。


(命からがらようやく首都についたと思えばこの仕打ち、一体私が何をしたって言うのよ……一目見れば分かるでしょ? この神々しいオーラに溢れる美貌……女神の威光が見えないとでも……)


 ため息をつきつつ改めて自らの体を見渡してはたと気付く、地上に降臨して数日、昼夜もろくに休まずの強行軍により髪は乱れ服も顔も泥と埃で汚れている、水浴びどころか清潔化の魔法も使用せずに歩き通しであったのだから無理も無いことである。


「……なるほど、これじゃ女神って言っても信用されないわ……」


 合点はいっても状況は好転しない、少ない脳みそをフル回転させ考える、まずは牢から出ねば話にならない。


(何か……何か解決策は…? ユーマ君……を呼んだ所で女神だって信用される? そもそもこっちは色々知ってても接点は加護を渡したあの時だけ……フレイア先輩を探す……もなにも……拘束された状態で探しようが……あ~! 身元引受人って誰よ! 神界に行かなきゃそんな人(神?)いないわよ!!)


 高速で回る頭につられて空腹も手伝い目も回る、ついには景色が回り倒れそうに……なった所で牢の外から話し掛けられる。


「一体こんなとこでなにやってんのよ?」


 聞き覚えのある声が意識を呼び覚ます……が、ノルンが相手の顔を見て首を傾げた。


「えっと……どちらさま?」


 目の前に居る人物は記憶にある声の主とは似ても似つかない。だが、確かに聞き覚えのある声、必死に記憶を辿るノルンの頭から又もや煙が上がり始める……。


「あ~、この姿じゃわかんないわよね……」


 言うが早いか声の主の体が光に包まれ、深紅の瞳を持つ面影をそのままに、角が消え、尻尾が消え、蝙蝠のような翼が純白の白鳥のような翼に、ショートカットの髪の毛が炎の輝きもそのままにみるみる腰まで伸びてゆく……。


「あ……あ~~っ!! フレイア先輩!! 一体ここで何をしてるんですか!?」


「何をしてる? はこっちのセリフよ……何をどうしたら女神が牢に入ってるの? てか、私の後任あなただったのね……」


 驚くノルンにレイアが溜息をつく、牢の鍵を開け、よろめくノルンに手を貸して牢の外に出す……と……。


「うわっ!? ちょっ! いきなり何すんの!!」


 いきなり繰り出されたノルンの右フックがレイアの鼻先をチリリと焦がす、すんでのところで躱したレイアが間合いを取って構え直す。


「ふふ……ふふふ……何をするかですって? 先輩! あなたが管理ほっぽらかして逃げたお陰で、私とキリアがどんだけ苦労したと思ってんですか!」


 次々に繰り出されるジャブを、ストレートを、レイアがステップを踏みつつ華麗に躱す。


「あ……あ~……やっぱ怒ってる??」


「怒ってる? じゃないですよ!! いきなり管理任されて! キリアは不機嫌で! 針のむしろ状態で気が気じゃなかったんですよ!」


「ま……まあまあ、お陰であんたも女神に昇格できたじゃない?」


「いきなり女神交代だから気付かれないように世界中の像やら絵画やらをじわじわ先輩から私に形を変えていったり……どういうアハ体験ですか! お年寄りが口々に『なんか女神様が昔と違う気がするのぅ……』なんていうのをビクビクしながら見守っ……て……ふぐぅ……」


 空腹の限界が来たのだろう、ノルンがふらふらと定まらない歩調でその場にへたり込み、大きな音を立てた腹をさすり頬を赤くする。


「まあ、その様子じゃまともに話も出来ないでしょ? とりあえず食事にしましょう、こっちも言いたいことはたっぷりあるしね……」


 食事という単語を聞いてノルンの瞳に光が戻る、レイアはため息をつきながら手を貸し起き上がらせると、身なりを整えてやり、食堂へとノルンを引き摺っていった。



……



「まあ、そろそろ手を出して来る頃だと思ったわ、とりあえずこっちからも聞きたい事が……」


 レイアがノルンに対話を投げかけるも、ノルンの目は机に並ぶ料理にくぎ付けになっておりレイアが全く目に入っていない。


「いざ! いただきま……ああ!? ちょっと!」


 ノルンの手にしたナイフとフォークが空を切り、狙いの皿はレイアの手に収まる。


「食事の前にちょっと質問いいかしら?」


「せっ……先輩~……やめて下さいよ~、質問に答える前に飢え死にしちゃいますって!」


「たかが数日の断食で飢え死にしないわよ、ていうか、ユーマの事でわざわざ降臨したんだろうけど、あんたあの加護の封印なんで解いたのよ!!」


「うえっ? 封印?? 確かに金庫にしまってましたけど……確か引き継ぎの何かがないかな~って開けて……えっとあれは……?? ……先輩、封印って言いましたけどあれカステラの空き箱に入れてましたよね?」


 ノルンがレイアからパスタの皿を取り戻し、待ちかねたとばかりにくちいっぱいに頬張る。


「うっ……あ……あれは丁度いい容れ物が無くてそれに高級カステラだから桐箱だったし……っていうか! 御札と封印の術式かけてあまつさえ『危険物』『解呪禁止』って札に注意文も書いてあったでしょ-が!!」


「そんなのわざわざ時間停止機能付きの金庫にしまってあったんですから、秘蔵のおやつを食べられないための偽装工作にしかみえないでしょーよ!!」


 これほどまでに自信満々に言われると言い返す気力も無い、レイアが溜息をついてパスタを喉に詰まらせたノルンに水を注いでやる。


「でもその場にはキリアもいたはずでしょ? 封印には立ち会って無かったけども、あの加護が元で何が起きたか……あの子は知ってるはずよ?」


「ゲホッゲホッ……ふぅ……あの時キリアはカステラの箱見つけてテンション爆上がりになってましたからね、中から加護の光球が出た瞬間の落胆と来たら……数日間は先輩への呪詛を呟きながら仕事してましたよ」


「……あの子甘い物好きだもんね……」


 甘い物で思い出したようにノルンがケーキの皿を手に取り、奪われないように警戒する。


「そういえば先輩は推しの為に降臨したんでしょ? その人何処ですか? ちゃんと落とせたんです??」


 不意を突いたノルンの質問に、レイアが飲んでいた紅茶を盛大に吹き出す。


「まっ……ま、まあね! でも今は城に居ないのよ、水の国の女王が昏睡状態だから代理であっちのゴタゴタを片付けてるの、ってか、恋バナどうこうの前に、あなたは降臨してどうするつもりなのか、そこら辺を詳しく教えてくれるかしら?」


「ふむぅ……どうするつもり……?」


(調整作業に来たとはいえども、どうすればいいのか……迂闊に先輩を刺激してユーマ君に危害が及ぶのは避けたいし……何より、先輩が神界に居たときに『推しの為なら天界捨てれるわ~』って発言を思いっ切り馬鹿にしちゃったから……ユーマ君の為に降臨したなんて言いづらい……)


「……とりあえず地上のパワーバランスの調整ですかね? 今の現状は明らかに異常な状態ですから、先輩の意見を教えて頂きつつ、解決策を組み立てていく感じですかね?」


 ノルンの意見を聞いてレイアが腕を組み考え込む。


(なんか当たり障りの無い無難な答えね……何か隠している……? 他に何か解決策……まさかユーマを消すために?? だとしたら話し合いで軌道修正を……でも昔この子は私が地上の住人に恋したのを

笑い飛ばした過去がある……地上の人々を単なる駒のように考えてるならいざとなれば非情な決断をする危険が……)


「先輩? どうしましたか??」


 ケーキを食べ終えたノルンがレイアの顔を覗き込む、邪気の感じられない表情ではあるが、女性というものは仮面を被る生き物であるというのはレイア本人が嫌というほど承知している。


「……そうね、ご飯も食べた事だし、これからその張本人のとこに行ってみますか」


「えっ!? いきなりですか? ちょ! ちょっと待って下さい! 身支度しますから!」


「あ~……いいけど、とりあえず口の周りのトマトソースを拭きなさいね、あと、服にもソース、散ってるわよ?」


「え? へぇっ!? ああああぁぁ!!」


 慌てるノルンを見てレイアが再び大きな溜息をついた。

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