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神域の従魔術師  作者: 泰明
女神降臨
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少年と女神1

 季節は春を迎え、火の国に桜が咲き乱れる、桜の花びらが舞い散る廊下をティリスが足早に歩いていた。


「あっ……いたいた、ユーマさん!」


 話し掛けられたユーマが集中を解き、天井付近からレイアが逆さまに降ってくる。


「ふぎっ!? ……いたた……ユーマ!! なんでいきなり解くのよ!!」


「へっ? レイア? ってかまた魔力綿の上で昼寝してたんでしょ! 危ないからやめた方がいいっていったじゃん!」


「だって高級布団みたいで寝心地いいんだから少しは昼寝タイムに協力しなさいよ!!」


 いつもの喧嘩が始まる中、ティリスがおいてけぼりを食らいオロオロと右往左往する、気付いたユーマが慌ててティリスに向き直った。


「ごめんね、ティリスさん、えっと……何か用事だったのかな?」


「いえ、こちらこそ邪魔してしまって……そろそろお昼だから捜してと言われまして……今は何をしてらしたんですか??」


「ああ、魔力操作の訓練の一環で魔力を綿状に加工してたんだ」


「魔力を……綿状に……ですか?」


 首を傾げるティリスにユーマが手をかざして見せる。


「こっちに向かって歩いてきてみて」


「そっちにですか? いいですが……わっぷ!? ……へ? なんですか? 何か柔らかい物が……」


「それが魔力綿よ、目を凝らして見てみて」


 レイアに促され眼に魔力を集中すると、何かキラキラ光るモヤが目の前に見えてきた。


「おお……何か魔力のモヤみたいな物が……触った感じは……ふかふかしてお布団みたいですね?」


「そーなのよ、ふかふかで気持ちいいから昼寝するのに最適なのよ」


「だからって人が集中してる隙に勝手に乗らないでよ! こないだなんか頭の上に落ちてきて……こっちは遊びじゃないんだからね!」


「あはは、でも、この陽気だとお昼寝したいのも分かる気がしますね……暖かくて気持ちよくて……」


「まあ、確かに一年中春ならいいのになぁ……」


「そういえばユーマさん、季節と言えばこんな話を知ってます? 冬は女神様が眠る時間だから寒くなるって」


「あ~、魔界もそういう話あるんだね、人界でも春が遅かったら『女神様が寝坊した』なんていうこともあるよ」


「なら今年は女神様はかなりの寝ぼすけさんですね」


 二人が笑い合うのをレイアが複雑そうに眺める。


(春……か……そろそろ見つかる頃合いかしらね)



……



 巨大な神殿の廊下を金色の髪をなびかせ美しい女性が全力疾走している、中にある一室に飛び込むと同時に、入口の机に居る眼鏡をかけた黒髪の女性にカードを渡す。


「ギリギリセーフ! ……よね?」


 肩で息をしながら話しかける女性に眼鏡の女性が冷たく言い放つ。


「ノルン様、アウトです、一体何回目の寝坊ですか? いい加減にしないと創造神様に言いつけますよ?」


 眼鏡の女性がカードを目の前の水晶に差し込むと、カードが水晶の中に吸い込まれてゆく。


「だって昨日はいいことあったから寝る前に祝杯を……」


「またあの推しの子ですか? 世界への、ましてや個人への過度の干渉は規程違反になりますよ? 他の神様を見て下さい、ちゃんと職務を遂行してらっしゃいます!」


 ここは神界、巨大な神殿にある各部屋はそれぞれがひとつひとつの世界を管理する部屋で、毎日担当の神々が世界のバランス調整を行っている。


「だって可愛い子見たらやっぱり応援したくなるじゃない、それにね! とってもいい子なんだから! あ~……観察するのが楽しすぎる♪キリアも一緒に見守ろうよ~」


「そうやって入れ込んで前任者みたいに担当世界に逃げ込むとかやめて下さいよ? あちらは神界と違って時間の流れが早いんです、入れ込んだだけ推しロスが激しくなるだけですよ?」


 神界から見ての地上は時の流れが異なり、様々な事象に神界の影響を受ける。特に季節に関しては顕著であり、神々が眠りにつく夜から朝ににかけては注がれたエネルギーを消費しながらの運用になるため、徐々に気候が厳しくなり寒い冬に閉ざされる。この神界での一日の流れが地上の季節の移り変わりに繋がるため、神界での一日が地上の一年となっている。


「担当世界に逃げ込む……!」


 ノルンの表情が明るくなり、遠くを見つめる瞳に希望の光が宿る。


「その手があったか、って顔はやめて下さい、引き継ぎがどれだけ大変だったか覚えてますか? そんなことしたら降りた瞬間この世界消しますよ?」


 冗談じみた口調ではあるが目の奥に闇が宿り、えも言われぬ重圧が場に満ちる。


「そっ……そんなことしないわよっ!? さっ……さあ~地上はどうなってるかな~? 張り切ってみてみよ~!」


 ノルンが仕事を始めたのを確認し、キリアが溜息をつき紅茶に口を付ける。


「んなっ!? うえええぇぇぇ!?」


 ノルンの叫び声でキリアが勢いよく紅茶を吹き出す。


「ゲホッ……い、一体なんですか?? そんなに取り乱して何を……」


「ちょっ……キリア……これ……」


「なんですか? ああ、あの推しの子ですか? この子が一体なに……はああああぁ!?」


 涙目になっているノルンの横でキリアが言葉を失い口をパクパクさせている、二度、三度と深呼吸をしてようやく落ちつき水晶玉を改めて見直す。


「ど……どうなってるんですか?? この子……完全に我々を超える能力値じゃないですか! もうちょっとで武神の皆さんに迫る勢いですよ? 一体何をやったらこうなるんですか!?」


「わ……わかんない……けど……これ……やっぱヤバいよね……??」


「……どうなるかは分かりませんが、このまま放置を続けると世界ごと廃棄の可能性もありえますね……」


 ノルンの顔がサッと青ざめる。


「どうしよう! 初めて任された世界で大失態って! このままじゃ世界も私のキャリアも……それにユーマ君が消されちゃうじゃない!!」


「推しの心配してる場合じゃないでしょう……でも……私としてもこれは困りましたね……」


「ね! 困るよね! 折角二人で頑張って成長させてるのにね!!」


「いえ……面倒なんですよ……廃棄処理って、細かく分別しなきゃですし、書類も……」


「面倒!? 面倒って! ま……まあ……と、ともかく、何とかしないといけないわ……」


 ノルンが頭を抱えて考え込むが、すぐに頭から煙が上がりはじめる、容量の少ない脳味噌では処理に限界があるようだ。


「そうですね……いっそあっちに行って直接調整しますか?」


「へ? 直接?」


「幸い? あちらには前任者のフレイア様も居るはずです、協力して対処すれば何か解決策が見つかるのでは?」


「確かに……そういう手もあるか……」


(それに……上手くいけばユーマ君とイチャイチャ楽しい長期休暇……)


「ノルン様、顔がニヤけてますよ……? 飽くまでも仕事ですからね? よからぬ事を考えていたら……暴走に見せかけて世界ごと消しますよ?」


 ノルンの肩が跳ね上がり、ぎこちない動きで敬礼する。


「じゃ……じゃあ私が行っている間調整よろしく! 何とかできるように頑張るわ!!」


「まあ、善処はしますよ……ですが直接介入は権限上問題ありませんが、長期となれば監査が入る可能性があります、短ければ2~3日、現地時間で2~3年がタイムリミットだと考えて下さい」


「分かったわ! 急がないとね! あっ……でもさっき走ったからメイク崩れてる! ちょっと化粧直してくるわね!!」


 言うが早いか脱兎の勢いで化粧室に走り出す。


「ちょっ! 待て! 駄女神! 時間ないって言ったでしょ! どうなっても知りませんからね!!」


キリアの叫びが虚しく廊下にこだました……。



……



 水の国の海岸にボロ雑巾の様な何かが打ち上げられている、ボロ雑巾はもぞもぞと蠢き、上体を起こし体に付着した砂を払うと、ポロポロと涙を流し始めた。


「ふぐっ……ヒック……酷い目に遭った……グスッ……」


 遡る事10分ほど前、転送装置の前に立つノルンにキリアが尋ねた。


「そういえば降臨できる神殿は人界と魔界、二カ所にありますけれどどうなさいますか?」


「それは当然ユーマ君に近い魔界でしょ!」


「ですが……地形調査とかのデータが古いんですよね……今どうなっているのかが分かりませんが……」


「大丈夫よ~、お供え物とかもされてるし、管理されてるなら壁の中なんて事はないでしょ? 大丈夫大丈夫♪大船に乗ったつもりでドンとこい!」





「……まさか海底に神殿が沈んでるなんて……管理世界で溺れ死ぬ女神なんて前代未聞よ……」


 髪の毛に絡む海草を落としながら半泣きでぼやく、清潔化と乾燥の魔法で身なりを整え、気合いを入れて海を背に叫んだ。


「待っててね! ユーマ君! 私がこの世界を守って見せるからね!!」

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