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神域の従魔術師  作者: 泰明
魔女と騎士
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魔女と騎士1

 (元)近衛騎士団第三師団団長、ダリス・ハワードは困惑していた、国境に向かう馬車に揺られる中、向かいに居る年嵩としかさの婦人がにこやかにこちらに話し掛けてきている……が。


「そうなの~? 国境まで行くのね、そちらのお嬢さんは娘さんかしら? 可愛らしいお嬢さんね~お父さん鼻が高いでしょ♪」


 ダリスの傍らでは不機嫌そうなマリアが先程口に突っ込まれた飴を舌で転がしている。


(なぜだ……どうしてこうなった……! 私は故郷に帰る筈だったのに……なぜ……。)



 遡る事半日前、ダリスはユーマの故郷である山奥の村の教会を訪ねていた、応接間に通され、シスターが茶菓子を机に並べる。


「まあ、お久しぶりですね、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 シスターがにこやかにお茶を勧めた。


「ああ、お構いなく……いや、本日は遅ればせながら先日のご無礼のお詫びとご挨拶にと……」


「あら、気にしなくていいんですのに……えっと、それと……挨拶?」


「この度近衛騎士団を退団致しまして……」


 シスターの顔がサッと青ざめる。


「私達が巻き込んでしまったお陰でそんな……本当に申し訳ありません!」


 平身低頭、頭を下げるシスターに慌ててダリスが説明する。


「いやいやいや! 違うんです! 頭を上げて下さい、実際今回の件では魔王が現れたという特異性もあり騎士団員にお咎めは無かったんです」


 シスターが顔を上げ不思議そうに首をかしげた。


「え……? ならばなぜ……?」


「今回の事で騎士団に居る自分に疑問を感じまして……もう一度進む道を見直す為にも、今一度王家にでは無く人民の為の騎士を目指そうかと、この歳で青臭い考えだとは思いますが……」


 ダリスが恥ずかしそうに頭を掻く、が、その瞳は大きな決意を秘めたように少年の如く輝いて見える。


「いいえ、素晴らしい考えだと思います、一度得た地位を捨ててまで理想を追求するなんて、なかなかできる事じゃありません」


「あまり買いかぶられても恥ずかしいですが……まあ、その為に一旦故郷に帰るのでご迷惑をお掛けしたお詫びと挨拶にという事です、そういえばあの少年、ユーマくんでしたか? 彼のその後はどうでしょうか? あれから気になって仕方がありませんで……無事であればよろしいのですが……」


 多少なりとも関わってしまった罪悪感か、ダリスの瞳からは本気で心配している様子が伺える。


「私達もあまり分からないんですよ、でも数ヶ月前にはマリアに近況を知らせる映像水晶が届いたみたいなので、元気にしてはいるみたいですけどね……」


 ふと、シスターが考え込む仕草をして何かを思い付いた顔をしダリスの手を握る、突然の事に目を白黒させるダリスにシスターが微笑んで続ける。


「ダリスさん! 人民の騎士としての貴方に頼みたいことがあるんですが」


「は……はあ……私に出来る事でしたら……」


 何が何やらわからないが、シスターに促されるまま教会を出て村の外れまで案内されていく……歩いて行く先には見たことのある一軒家。


「ここは……」


 ダリスの笑顔が強張り、手先が震える……新兵の頃に魔物の巣への突入を命じられた時でも彼はここまで固い表情をしてはいなかっただろう……。


「マリア~? 入るわよ?」


 心の準備が出来ぬまま、ダリスの願い虚しくノックされたドアが開かれる。


「シスター、もうすぐ準備が出来る……??……なんでダリスがいるの?」


「や……やぁ、久しぶり……」


 訝しむマリアに対し、ダリスは曖昧に笑うしか無かった。


「っと……片付け中だったのか、すまないな」


「い~え、私が連れて来たんですからダリスさんが謝ることじゃありませんよ」


 見れば箪笥や戸棚が開いたままで分別された物が床に溢れている、一見空き巣に入られたかのような散らかりようにダリスが慎重に言葉を選ぶ。


「違うわよ、旅支度よ」


 マリアの言葉にダリスが目を丸くする。


「旅に出るのか? どこか旅行にでも??」


「旅行じゃ無いわ、先日の土の国の一件、あれであちこちキナ臭くなってるからちょっと周辺の国を調べて回ろうかと思ったの」


「そこでダリスさんにお願いがあるの」


 シスターの言葉にダリスの危機感知センサーが凄まじい勢いで警鐘を鳴らし続ける……。


「マリアの旅の護衛役をお願い出来ないかしら?」


「はぁっ!? ち……ちょっとシスター!? 何で勝手にそんなこと決めようとしてるの? ってかそれ以前にダリスは騎士団の仕事あるでしょ!」


「えっと……あ~……騎士団はだな、まあその……辞めたんだ」


「は!? 辞め……?? どういうこと?」


 マリアが事態が飲み込めず混乱する。


「え~……クレアさん? 私も詳しい事情が分からないので少し説明をお願いしてもいいですか??」


「マリアがね、一人で旅に出るって言い出しちゃってね、私は止めたんだけどこの子一度言い出したら聞かないから……。せめて護衛に誰か連れて行くように言ったら冒険者ギルドで人を雇うとか言い出してねぇ……」


 シスターが困り顔で溜息をつく、そして、次に満面の笑顔でダリスに笑いかける。


「せめてよく知った方なら……とお祈りしていたらダリスさんが訪ねてこられて……これはね、女神様の思し召しだと思うのよ、幸い二人は仲も良いみたいだし? ダリスさん位強ければ何の心配も無いわ♪」


 マリアが眉間を押さえ大きな溜息をつく。


「シスター……目が悪くなったの? 出発前に余計な心配事増やすのはよしてよ……何処をどう見て仲良しに見えてたの? それに護衛が要るほど私は弱くも無いわ! ダリスが多少強いからって心配されるほど……」


「いや、ダリスさん位強ければあなたが癇癪起こしても燃やされる心配はないでしょ?」


 ダリスが思わず吹き出し、鋭い視線に気付き慌てて両手で口を塞ぐ。


「人聞きの悪いこと言わないでよ! 私だって子供じゃ無いんだから分別位つきます!」


「じゃあ例えば……雇った護衛が夜這いを仕掛けてきたり……」


「そんなもん跡形も遺さないに決まってるでしょ」


 マリアの瞳が妖しく揺れ、次にハッとした表情を見せバツが悪そうに口を尖らす。


「そういうとこよ、その点ダリスさんなら紳士だし心配は無いわ、それにそういう時男性が近くに居たら相手側も警戒して近寄って来ないものよ?」


 マリアが腕を組み考え込んでいる、ダリスを連れていくメリットとデメリットを天秤に掛けているのか……?


(何だか決定事項の様に話が進んでいるが……俺に拒否権は……無いんだろうなぁ……)


 ダリスが頭痛を感じこめかみを押さえる、確かにマリアに護衛など必要無いだろう、学生時代もいらぬちょっかいを出した者達が一体どうなったことか……ダリスはここまで考えてはたと気付く。


(もしやこれは……マリアの護衛ではなく、暴走したマリアから無辜の民を護る、そういう依頼なのでは?)


 考えが表情に出ていたのか……マリアがジト目でダリスの事を観察している。


「なんかすっごい失礼な事考えてない?」


「いっ!? ……い、いやいやいや、な、何も考えてはいないぞ! も、問題なしだ! 何の問題も無い!」


 慌ててした言い訳が護衛依頼を肯定する内容になると気付いた時には既にマリアが口を開いていた。


「はぁ……そりゃあ私も知った人間の方がいちいち詮索とかしないですむしいいかもね……いざというときダリスなら心も痛まないし……」


「ちょっと待て、何で燃やす前提なんだ??」


 焦るダリスを見てシスターがクスクス笑う。


「私もね、娘同然に過ごしてきたマリアだから出来る限り安全に旅をさせてあげたいの、だから、ね? ダリスさんお願い出来ないかしら?」


 ダリスは少し考え込む様子を見せ、そして溜息をつき頭を掻く。


「マリアが問題ないのであればその依頼、お受け致します、護衛……が必要かどうかは分かりませんが、一応女性の一人旅ですからね、まあ、私も背を護る程度はできるつもりです」


 シスターの顔がパァッと明るくなり、ダリスの手を取り頭を下げる。


「ダリスさんありがとう、マリアをよろしくお願いしますね」


「旅先で変な気起こしたら承知しないからね」


「安心しろ、幼児体型に興味はな……ぬおっ!」


 言い終わる前に身を反らして躱した杖の先端がダリスの前髪を焦がしていた。



……



 馬車から婦人が降り二人だけになると、マリアは飴を不機嫌そうに噛み砕く。


「見た目が幼いのは百歩譲って認めるわ……でも、ダリスと親子?? あり得ない! どうやったら似てる部分が見つかるのよ!」


 憤慨するマリアを横目にダリスはダリスで元気が無い。


(同期生程の歳の子供が居るように見られるとは……老け顔と言われる事は多いがそれ程か?? マリアは不機嫌そうだが怒りたいのは俺の方だ……)


 二人が同時に盛大な溜息をつく、顔を見合わせ、不機嫌な視線にダリスが顔を逸らした。


「とりあえずは船で金の国へか……中立都市とはいえ何があるか分からないからな……ある程度は警戒して過ごさなきゃいけないな」


「まずは拠点を決めて情報収集かぁ……あわよくば火の国に入国出来れば良いけど……今の現状じゃ無理よね……あ、そういえばダリス、船賃宜しくね?」


「は!? 俺が出すのか? 今政情不安のお陰で値段上がってるから俺の手持ちじゃ足らんぞ!? というかこういうのは依頼人が出すのがスジだろうが!」


「だって私の貯金は今までのお礼にって教会に置いてきたんだもん! ダリスは騎士団の退職金が沢山出てるんじゃ……」


 ダリスがバツが悪そうに目線を合わせず頭を掻く……。



 その頃、村の教会でシスターがずっしりと重い革袋を二つ見比べて溜息をついていた。


「あの子達仲が良いとは思ったけど……考える事も似てるのね……」


 シスターは旅の前途を想いもう一度大きな溜息をついた。

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