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神域の従魔術師  作者: 泰明
大魔王
12/98

少年と海

「それでは明日の昼より、水の国に同盟強化の会談に向かいます」


 夕食後のティータイム中、レイアが突然言い放つ。


「そう、頑張ってね」


 気のない返事でユーマが返し、ラスティの淹れた紅茶に口をつける、熱い紅茶をズズッと啜った瞬間。


「何言ってんのよ? あんたも行くの!」


 言われてユーマが紅茶を吹き出す、慌てて躱した魔王の膝からクロが転がり落ち、ユーマに威嚇し抗議する。


「ゲホッ……え? 何で!? そんな国の重大行事に僕なんかが行ってどうするの?」


「重大な行事だからこそよ! なにせ今回は国のトップの交代もあるしね!!」


「え? 水の国の王様が代わるの?? だとしても僕には関係……」


「水の国は代わらないわよ? 代わるのは火の国、う~ち~よ!!」


 ユーマの頭上に大量の『?』マークが浮かぶ、魔王の方を確認するもユーマを見つめ無言で頷く。


「魔王が居るのに何で? 誰か代わりたい人が居たとか?」


「えっと……ラスティ、伝えてなかったの?」


 レイアがにっこり微笑みながらラスティを向く、逃げ出そうと抜き足差し足していたラスティの背中がビクリと跳ね上がった。


「えええっとですねぇ! まあ、あれです! なんというかその……サ……さぷら~いず?」


 レイアが眉間を押さえ盛大なため息をつく、そしてユーマに向き直るとにっこり笑い言い放った。


「って事でサプラ~イズ! 大・発・表! 明日からこの火の国の王様はキミだ!! よっ! 王様! 憎いねこのこの~☆」


「……は?」


 拍手で祝う三人、だがユーマの反応が無い。


「えっと……ユーマ様? ……へ? あれ? ………!? 息してない!」


 見ればユーマの口から半透明の何かが飛び出し、興味に駆られたクロがしきりにじゃれついている。


「ゴっ! ゴ主人様!?」


「ちょっ! 魂出ちゃってんじゃない! 早く戻して戻して!!」



……



 ラスティと魔王の介抱の甲斐あってようやくユーマが目を覚まス。


「……僕が王様とか初耳なんだけど……」


 迷惑そうに言うユーマの肩をレイアが叩く。


「初耳もなにも自分から言い出した事でしょ?」


 レイアが懐から取り出した水晶に魔力を注ぐと水晶が光り、音声を再生し始める。


『大魔王でも勇者でもなってやる!』


 聞き覚えのあるユーマの台詞が聞こえた。


「あの時の……! 録音まで……」


 ユーマががっくりと項垂れる。


「確かに言ったけど言葉のあやってもんでさぁ……」


「そうは言っても今の魔界はいつ戦が起きてもおかしくないからねぇ。人界との関係もきな臭いし、統一できるならしておいた方が安全なのよ」


「何百年も出来てないことを簡単に言うね……」


 ユーマが恨めしそうにレイアを見つめた。


「それは今まで旗印になれる人材がなかったからよ、そこへ種族こそ人間だけど圧倒的な力があり、ましてや自らの騎獣として赤龍を駆る者が現れた。そうなれば戦に疲れた民の心はもう握ったも同然! あとは権力者との交渉ぐらいかしら? まあ、内政に関してはこっちでやるから大丈夫、王様っていうよりは魔族統一の象徴って役割ね」


「魔界では力が全てって言うけどさ、戦わずにはそれを認めない人もいるでしょう? 正直挑まれたらまともに戦える自信が……」


「その為にこの半年間頑張ったんでしょ? フリードの戦闘訓練にラスティの魔術訓練、スペシャリストの訓練を受け続けたんだからもっと自信を持ちなさい!!」


 スペシャリストの訓練……ユーマがラスティの方を見つめるがラスティは露骨に目を逸らす。

 ここ最近は愚痴を聞きつつのティータイムと化していたが……あれも魔術訓練の一貫なのだろうか? 刺さる視線に耐えきれず、ラスティが目を逸らしたまま話題を変える。


「そっ、そういえば水の国への訪問ですが当初の予定よりかなり早くないですか?? そうだ! だからユーマ様に今回のことを伝えるのが間に合わなくなっちゃったんですよ!」


 プレッシャーから喉が渇くのか紅茶を飲みつつレイアの様子を窺う。


「……誰かさんが食糧庫を空にしたからその食料支援の要請も含んでるのよ、あちこちきな臭くなってきてんのに軍を動かそうにも糧秣がないじゃ話にならない。それに冬場に国内であんな量の糧秣確保したらあちこちで飢饉が起きかねないからね」


 今度はラスティが盛大に紅茶を吹き出す、まともに紅茶を被ったクロに襲われ、好機とばかりに部屋から逃げ出していった。


「……ごめん、考え無しな事して……」


 落ち込むユーマをレイアがフォローする。


「あんた一人の責任じゃないし、謝る事じゃ無いわよ、差し当たって怪しい動きをしてるのは統一王国と土の国だから、国境が近いうちが矢面に立つ代わりに戦になった場合の支援をしたいってのは水の国側が言い出した事だからね」


「戦争は……起こるの?」


「……十中八九起きるわね、元々土の国との国境付近では何度も小競り合いがあった、それに加えてここ最近の獣人達の挙動は明らかに大きな戦を想定した動きをしている、今は本隊は北の海岸を挟んで王国軍に対峙してるけど、なんだか今までとは違うのよね……」


 レイアが頭を掻きながら考え込む。


(今までもある程度動きが見えている部分があった、だが、今回は見えすぎている、陽動? 何か狙いが? ……考えても仕方ない……賽は投げられてる……)


「まあ、悩んでも仕方ない事ね、今は目の前の会談と明日の国民発表が最重要よ! とりあえず早く歯を磨いて寝る! 明日は早いわよ!」



……



 翌日早朝から行われた式典に置いてユーマは正式に火の国の王となり、魔王は後見人に退く。

 また、この場でユーマは魔界統一を掲げ大魔王を襲名する事を発表、事前にレイアが国内を巡り行った根回しにより大きな混乱も無く式典は無事終了した。

 そして、式典の広場に飛来したニールに騎乗しユーマ達はそのまま水の国へと旅立った……。



………



「これが……海!!」


 火の国を飛び立ち数時間後、ユーマ達は水の国の海岸に立っていた。


「す……すごい! 広い! これみんな塩水なの!?」


 初めて見る海にユーマが珍しく年相応にはしゃいでいる。


「ユーマ様、会談は明日ですが何処に誰の目があるか分かりません、油断なさらぬようにお願いしますよ」


 珍しくまともな事を言うラスティ、だがユーマの視線は不信感に満ちていた……。


「ラスティさん、その格好で言われても……」


 得意げに鼻を鳴らすラスティだが普段のメイド服で無く何故か水着を着用し、その手には浮き輪を持っている。


「ラスティ、あんたねぇ……遊びに来てるんじゃないのよ!? 早く着替えて来なさい! 浮き輪も没収!」


「そんな! 折角のビ-チなのに! 一時のバカンスも許されないんですかぁ!?」


 泣き崩れるラスティからレイアが浮き輪を奪う。


「でも……冬だって言うのにここは暖かい……っていうか暑い位だね」


「正装デ居るのハ少しキツいです」


 魔王の厚着はこの気候ではきついようで顎から玉の様な汗が滴り落ちている。


「水の国は精霊達の集まる聖地にあるのよ、人界でいう聖十字教国と同じね、精霊達のおかげでここは年中気候が一定で過ごしやすくなってるの、城の中に入れば涼しいから魔王様はもう少し我慢してね」


「でもお城って言われても見渡す限り砂浜だけど……」


 ユーマが指摘するように目の前には見渡す限り水平線と砂浜しか無い。


「何言ってんのよ、あっちよあっち」


 レイアの指す方向を目を凝らして見る、何も無いように見える海にゴボゴボと泡が立ち、盛り上がった水の中から巨大な水竜が現れた、思わず身構えたユーマの前に水竜から一人の人魚が降り立つ。


「火の国の魔王様とお供の方々ですね、お待たせ致しました、城へとお迎えにあがりました」


 人魚は優雅な手付きで最上級の礼をする、呆気にとられたままで魔王とレイアに促されユーマは水竜に乗り込んだ。


(凄く礼儀正しい人だな……振る舞いに隙が無い、水の国の使用人さんは皆こんな感じなのかな……うちとは全然違うな……)


「ちょっ! 皆さん私を置いてかないで下さいよ! ま……待って! ユーマ様! 待ってぇぇ!」


 ようやく着替えの終わったラスティが慌てて走ってくる、だが砂浜では思う様に走れないようで躓きよろけながら必死で追い縋る。


「置いテ行った方ガ良いようナ気がしますネ」


「あ、コケた……。」



……



「皆さん酷いですよ、慌てたんですからね!」


 服に付着した砂を払い落としながらラスティがふくれっ面をしている。


「いや、ごめんごめん、忘れてたわけじゃないよただ予想外だったからびっくりしてて……」


 水竜の背にある球状の結界の中に乗り込み、ユーマ達は海中を潜行していく。


「お連れ様に気付かず失礼を働きまして、誠に申し訳ありません」


 メリアと名乗った人魚が平身低頭詫びるのをレイアが制して止めている。


「不手際を働いたのはうちのメイドです、どうかお顔を上げて下さい」


「いえ、お客様に対しご無礼を働く様な事があってはこの国の名折れです、誠に申し訳ありませんでした」


 互いに謝罪しあう中、水竜は更に海の深くまで潜ってゆく。


(ラスティさんがコケた時に吹き出してたのは見なかった事にしてあげるのが人情だよな……)


「それにしても、海の底にお城があるとは思ってなかったよ」


「この水の国の城は聖地の守護を兼ねまして海中の魔力スポットの上に建てられています、水中までの交通手段が限られるため非力な人魚族でも魔界の中で国としての自治が可能になっているんです」


 程なくして海の底に巨大な城が姿を現す、不思議なことにかなりの距離を潜ったはずなのに、城の周囲は差し込む光に満たされ、色とりどりの珊瑚と魚達に彩られた幻想的な空間になっていた…。


「きれいな「美味しそうな魚ですねぇ……」」


 ユーマの発言に被せられたラスティの言葉に一同が肩を震わせる、ふと視線を移すとメリアが無表情で必死で耐えているのが見て取れる。


(この人とはなんだか仲良くなれそうな気がする)


 ユーマは水の国滞在に期待を膨らませた。




「正門から見て右手に来賓室、会議室があります、左手側には王族の私室などもありますので、立ち入りはご遠慮願います、正面階段を上がりましてホールを抜けて頂きますと謁見の間となっております、皆様にはこれより謁見の間にて女王様に謁見後、お部屋へのご案内をさせて頂きます」


 見事な調度品が立ち並ぶ中をメリアが一同を案内してゆく。


「中はちゃんと空気があるんだねぇ……」


 ユーマが調度品を眺めながら不思議そうに呟くのを見てメリアが説明を始める。


「我々人魚族は陸上でも水中でも呼吸できますから、陸上からのお客様を考え結界内を大気で満たす処理をさせて頂いております、また、危険な海獣等の接近も避けられる為国防の意味でも重要なものになっておりますね」


「廊下をヒレでどうやって歩くんだろって思ってたんですけど、人魚族の皆さんは下半身が足にもできるんですねぇ」


 ラスティがメリアの下半身をしげしげと観察し、レイアに後頭部を叩かれる。


「昔は水路を作ってあったんですがお客様に水を散らしたりと問題がありまして……今は城付きの者は皆形態変化魔法を使える者に

限る事となっております……到着致しました、この扉の奥に女王様がいらっしゃいます」


 メリアが扉に手をかけゆっくりと開く、重厚な音を立てながら開く扉……半分程開いた辺りで何かの影が扉の隙間から飛び出して来る、その勢いのままに魔王が床に押し倒され、ユーマとラスティが身構え、メリアがため息をついた、レイアが引き攣った笑顔を浮かべ、影に近付いていく……。


「ああっ! フレデリック様! お会いしとうございました! 私はこの日を今か今かと……」


 言い終わる前にレイアにひょいと持ち上げられ、影がバタバタと足をバタつかせる。


「グレース……あなた十年前と変わらないわね、女王の威厳が身に付いたか見に来たら、まだまだ子供のままねぇ……」


「あ~ら、そういうレイアは十年経って小皺がでてきたんじゃありませんこと? おばさんの嫉妬は見苦しくってよ?」


「……嫉妬するまでもないわょぉ? 十年経って中身が成長してないと思ったら体の方も全く成長してないのねぇ……」


 レイアとグレースの間で火花が散っている中、邪魔にならぬようにユーマが小声でラスティに話し掛ける。


「えっと……あの人が……?」


「そうですね、あの方が女王様のはずです」


「なかなか凄い人だねぇ……レイアにあそこまで言える人初めて見たよ」


「なんだかんだで女王様ですから手出しできないのを見込んでいるんですかね? 魔王様を慕われている様でしてレイア様が普段から天敵だって言ってました」


「あと、フレデリックって? 魔王の名前?」


「あれっ? ユーマ様ご存じ無かったんですか? 魔王様のお名前はフレデリック・ローゼスト・グランレイジア・カイゼリオ・レイリオル・ビスケッ―――」


「ちょっと待って、そんなに長いの??」


「歴代の魔王様のお名前を代々受け継ぐんです、まあ、フレデリック様でもいいかと思いますが……」


「またちゃんとしたのも教えてね、まあ、でも……言いやすいから魔王で良いかな」


「私も魔王様の方が楽だから叱られるまでは魔王様って呼びます」


 ヒソヒソ話の中も女の闘いは続く、メリアも魔王も手を出せずオロオロする中、謁見の間から立派な鎧を着た男性が現れ、レイアからグレースを受け取った。


「陛下が失礼を致しました、何分十年ぶりの思い人への再会、少々歓迎が行き過ぎてしまったこと、ご容赦願います」


 グレースを傍らに下ろし深々と頭を下げ、魔王もようやく立ち上がり改めて向き直る。


「この度ハ会談の申し入れヲ受けて下さリ感謝する、非礼は日程の変更を申し出タ我々の方ガ先、我々は対等であリ友誼を結んだ友ダ、どうか頭を上げて頂きたイ」


 魔王の言葉に男性が顔を上げる。


「ご厚情感謝致します、ご挨拶が遅れました、私、近衛騎士団長を拝命しておりますライオネスと申します、お見知りおき下さい」


 再び深々と一礼しグレースを促し謁見の間に入り、メリアに促されユーマ達もそれに倣った。



……



「ふぅ……今日は疲れたねぇ」


 あてがわれた部屋でユーマがベッドに寝転ぶ。


「晩餐会のお料理美味しかったですねぇ、変わった味付けが多かったですけど……お肉派でしたけど魚派になりそうです♪」


 窓の外の魚の群れがラスティの視線に気付いて慌てて蜘蛛の子を散らすように逃げだす。


「なんならこっちに移住する? こちらとしては食費が減って助かるけど」


「何を言うんですかレイア様! あのお城には私が居ないと! それにユーマ様のお世話係は誰がやるんですか!」


 自信満々のラスティがユーマに同意を求める視線を送る……。


(世話をしているのは果たしてどちらか……)


 ユーマは思考を顔に出さぬよう注意しながらにこやかに頷いた。


「明日は午前から会談だっけ? ……やっぱ僕もいないと駄目?」


 ユーマが不安そうな様子でレイアを見る。


「駄目に決まってんでしょ? 魔界統一への最初の同盟強化なんだから、主役のあなたが居なくてどうすんのよ?」


「変わっテ差し上げたいでスが流石にこればかりハ」


「まあ、ドンと構えときなさい、あ、あと、クロ使って脱出するとかも無しよ!」


「分かってるよ、ちょっと外を散歩してくる」


 深いため息をつくとユーマは部屋を出た。


(確かに水に怯えてついてこなかったからいつでもクロとニールの所に逃げれるな……実行はしないけど気分は楽になったや……)


 考え事をしながら廊下を歩いているとある部屋の前に人影が蠢くのが見える……。


(あれは……? それにあの部屋は……)


「魔王なら今その部屋にはいませんよ?」


 突然話し掛けられて影の主が跳ね上がった。


「女王様……何でこんな所に……?」


「な、なななんでっいうかなんといいますか! け、決して夜這いに来たわけでは! ……っていうかフレデリック様は居ないのですか……はっ!? まさかレイアの元に!?」


 グレースがハッとした表情になり手をわなわなと震わせる。


「いえ、先程まで僕の部屋で話をしていたので、もう少しすれば皆自室に戻ると思いますが……あ、呼んできましょうか?」


「いや、いいです、お呼び立てするだなんて失礼なことできません」


(廊下でいきなり押し倒すのは失礼じゃないのかな?)


 疑問に思うが口に出すのは憚られる。


「魔王の事好きなんですねぇ」


「はっ……はいっ、お慕いしています……けれどなかなかお会いする事も叶わなくて……」


 頬を赤らめる姿は女王と言うよりは恋する町の少女である。


「フレデリック様に初めてお会いしたのは20年前の私が女王になる前の頃でした、海底で迷子になってた私の所にフレデリック様が助けに来てくれたんです! その時感じたんです! これは運命だって!」


 興奮した様子でグレースが魔王の事を語り続け半時以上は経っただろうか?ユーマは声を掛けた事を後悔し始めた。


(話長いなぁ……流石に疲れてきたけど言い出せない……誰か早く来てくれればいいんだけど……)


「ユーマ様はお優しいんですね……こんな私の話に付き合って下さって……」


「い、いえ……女性には優しくと子供の頃から言われてますし……」


「それに凄く綺麗な瞳……」


 グレースの手がユーマの頬を撫でた……。


「えっ? ちょ……女王様??」


「うふふ……すべすべのお肌……」


 グレースの瞳が熱を帯びトロンと蕩ける、見つめたままの視線が絡みつき、荒い息がユーマの首筋にかかる……。


「は~いそこまで~!」


 レイアがグレースを猫のように吊り上げ傍らに控えるメリアに渡した、メリアが一礼して何事も無かったかのように立ち去っていく。


「一体……何なの……?」


「気にしないであげて、時々ああなるの、たちの悪い呪いみたいなものよ……」


「呪い……?」


「大罪の呪い、ラスティから習ったはずよ」


 大罪の呪いとは元は強力な加護を人造で作り上げ兵士に組み込み運用しようと試みた物である。人々の欲望の持つ膨大な力を利用し作られ実用化に至ったものの、人の欲望を媒介とした影響でその欲望を増幅する副作用がある、大戦の際に目覚ましい成果を上げたが、暴走した人造加護が宿主を取り込み人々を渡り歩く呪いと化してしまった、七つに別れたそれらを、欲望を表す七大罪に倣い『大罪の呪い』と呼んでいる。


「そっか……女王様もラスティさんと同じ……」


「ラスティの『暴食』は本人の努力である程度は制御できるようになったけど、グレースはまだ力に慣れてないからね……封印するための要の呪具は人界にあるし……彼女達の為にも統一と融和の道が必要なのよ」


「貸して欲しいってのは……無理かな?」


「大魔王が使ってた伝説の剣で人界にとってはトラウマの象徴、それを使って何かしようとしてると思われるし、魔族にホイホイ簡単に貸し出せる物じゃないわね。無理矢理借りるにも相手よりこちらが力を持っているのが前提よ、均衡状態の今では夢のまた夢ね」


「なんだか話を詳しく知る度にとんでもないことに巻き込まれてる気がするよ」


「……今ならまだ逃げれるかもよ……?」


「今更でしょ? 逃げるならとっくに逃げてるよ、それに、一生逃げたこと後悔して生きるより何があっても前を向いて歩く方が良いよ」


「……いっぱしの台詞を言っちゃって、村に居た頃よりは少しは成長したのね」


「僕だっていつまでも子供じゃないよ」



 子供じゃない、そう言いながら僕はまだ大きな勘違いに気付いていなかった、庇護され、大人に甘える子供らしい小さな願望、いざという時、自分さえ犠牲になれば上手く行くという子供らしい身勝手な自己犠牲精神、この世界に誰も彼も不死の人など居ないのに……。


 地の国から火の国への強襲の報が届いたのは翌日の会談の最中だった……

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