冷たい身体
リリアの目の前で倒れ込む『ゴウ』の姿がある。
思い切りオシオキしてあげなくちゃと考えていた『リリア』はそんなゴウの姿を見て、驚きを隠せない。
『ゴウ……ちょっと冗談やめて……』
『ねぇ起きてよ』
『ふざけてるんでしょ? あたしを怒らしたから』
どんな言葉を浴びせても何の返答も返ってこない。それどころかリリアはある事に気付いた。
『なん……で? 冷たいの身体』
ゴウの右腕を触ってみると氷のように冷たい。服越しでも分かる程だ。まるで人間の身体を触っているのではなく、直接氷に触れているような冷たさだった。
それは死の香り。人間が急に冷たくなる、そんな事態に遭遇した事がなかったリリアは動揺を隠せない。
まさかと思い、ゴウの心音を確かめる為に服越しだが、胸に耳を当て確認してみる。
するとどうだろうか……
『え……止まってる』
急に現れて、訳の分からない事ばかり言って、気持ち悪い。
急に真面目にもなって不思議な『人間』なのに、生理的に受け付けない人種なのに、急にこんな展開になると、リリアはどうしていいのか分からなくなった。
『炎で体を温めなきゃ……炎造魔法主よ我に力を』
右手をゴウに翳すとゴウの身体を囲うように淡い炎が揺らぐ。
これは炎を調整しているのだろう。
普段攻撃に特化したこの魔法は精神力とリンクしていると言っても過言ではない。
感情で揺れ動く特殊魔法の一つ。
そうこの雪国『フラルゴ』は感情魔法と言う名のものがメインを占める。その中でもリリアは『ネライダ』と言う妖精族のハーフになる。
人間と妖精のハーフ。だからこそ、ゴウの事を放置する事が出来なかったのかもしれない。
自分と同じような匂いがしたのだろう。ゴウもゴウでリリアに懐かしさを感じていたはずなのだから。
これは運命の悪戯なのかもしれない。
<リリア……あなたの力を見させてもらいますよ。ゴウにも試練を与えましょう>
過去に出会っていた魂が再び、この異界の地で巡り合う。
二人にその記憶はないのだが、堕天使『レムレース』はある悪戯をするのだ。
ゴウに……。
『なんでぇ冷たいままなの? ゴウ』
何故ゴウの為に泣いているのか理解出来ない。
しようとしないリリアは複雑な感情の中で揺らいでいる。それは自らの作る感情魔法とリンクし続け、思い通りに上手くいかない。
そんな時、ふと母に教えられたある魔法の存在を思い出した。それは禁忌魔法
このカノナスは両手を空を翳しながら、生命の命を吸い続け自らの力へと替える『死の魔法』吸い取った生命の命を死した者に与える事により、生き返らせる事が出来る。
カノナスを使う為には自分の寿命を半分差し出すのと、周りの命を犠牲にしてしまう。
本当はしてはいけない『禁忌魔法』こんな一人の人間の為にする魔法なんかじゃない。
してはいけない魔法、なのにリリアは普通に使ってしまう。
ネライダの中で長の娘で予言者として母を持つ『リリア』は導かれた運命に逆らえずにいたのだ。
母が全ての力をリリアに託し『最後の予言』をした時『ある人の命を禁忌を犯してでも助けなさない』その遺言が頭から離れない。
何故母がその言葉を遺言として選んだのかリリアには分からないが、レムレースには全て理解出来ていた。
<サブマの娘よ。さぁカノナスを発動しなさい。その者を助けたければ……ね>
そこには含み笑いがあった……