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揺らぐ景色


 自己紹介を終えたところでリリアが不思議そうに問いかけてきた。



『心の声が聞こえる時と聞こえない時があるんだけど……これ何? 普通の人間なら全て聞こえるはずなのに……』


「そうなのか? 俺様は知らん」


 こんなヘンテコな世界に来たのも偶然だし、リリアとクマのロルと出会ったのも偶然。


 何故か分からず『餌』と間違われ、追いかけまわされたのも偶然。全ては偶然の積み重ねだ。


 それ以外の何がある。


(あ……)


 もしかしてこれって……偶然が重なり『必然』になっているという事か? 俺様はただ店から帰宅しようとして、外に出たら変な所に出て、変態扱いされたのも『必然』なのか?


「俺様達は出会うべくして出会ったのかもしれんな」


 真面目にそう思った。下心などはない。今回は特に。


 色々考えて行きつく答えがそれしか出てこないのだから、仕方ないと言えよう。


『ゴウが真面目に語っている……嵐でも来るのかしら』


「なんだ、それ。俺様は基本真面目だからな! 覚えとけ『幼女』」


『……は?』


「あ」


『今何て呼んだ?』


「……聞き間違いだ。風の妖精が悪戯(いたずら)したんだろ」


『ふうん? 言いたい事はそれだけ?』


「……え、おい、まてって」


 心の呟きなど出ない。出すとリリアからの『お仕置き』が始まるから。


 本来なら楽しく「ご馳走様でーす」とかふざけるのだが、今回はふざけても逃げられないような気がする。だから逆に素直に言う事にしたんだ。なんたって本職『ホスト』なんだし、それ位の空気くらい読めるつーの。


<ゴウ……> 


 俺様達の会話を遮るように誰かの声が聞こえたような気がした。


 風が俺様達を包み込みながら、空間の彩りを変えていく。日本から来た俺様にも、この世界の住人のリリアにも、理解出来ないくらい神聖な異空間が広がっていく。包まれながら脳裏に過るのは、知らない記憶の欠片達。


(なん……だこれ)


 空間が歪んでいく。頭の中に虫がウニャウニャ動いているように、痺れが広がる。始めは脳から始まり、少しずつだが確実に全身に浸透していく。何も考えられなくなる。


 この変な状況になっているのは俺様だけなのだろうか? リリアの事を確認しようと試みるが、視界は真っ黒な暗闇に変わり、意識は溶けていく。氷のように……


『ちょ……ゴウ』


 誰の声だろうか? 聞こえるような気がする。でも俺様には何も分からない。もうどうする事も出来ない。ただこの流れに逆らう事よりも受け入れる方法しか知らないのだから。



<思い出しなさい……ゴウ。そして私の思いのままに……今は眠りなさい。安らかに>


 懐かしい声が響いた……




 安定していた世界の『天秤』は少しずつバランスを崩しながら、時を刻んでいく。




 

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