恐怖のはじまり
「心の声が丸聞こえ?? はあ?」
『だから何度も説明してるよ。亜門さん』
こ、こいつ出来る。幼女の癖に大人の扱い方を知っているとは……
恐ろしい奴だ。
『……あたし人間じゃないんだけど。これだから面倒臭い』
「冷たい所もそそられるな……俺様の女になれよ」
『人間如きに興味なんてないから。勇者様とかなら考えるけど。それに金持ちじゃないとね!』
よし、俺様は決めた。心の声がだだ漏れなら、何も隠す事などないと。俺って有能じゃね?
『はぁ……低能でしょ』
すかさず突っ込みも、美しか感じられないじゃねーか。なんだこの高揚感! 最高!
『もーキモすぎ』
「キモイと思うのなら、俺をぶってくれないか? 幼女にぶたれるのなら本望だ!」
『……』
「どうした? 無言じゃ何も分からないぞ?」
『……ロル』
幼女の掛け声でさっきのクマが俺に対して、攻撃態勢を整え始めた。
何で? 俺様何か変な事言った? 意味わかんねーよ
『心の準備……いいよね? 亜門さん』
「はぁ? 俺様は亜豪…亜と書いて豪と書く。そして呼び名は『あごう』だ! 覚えとけ幼女」
『ふうん……それが遺言なのね? OK』
遺言……? どういう事だ? 俺は何もしていない。まだ、何も……
そんな心の呟きを隠しながら、冷静に話合いを提案したんだ。
幼女の声のトーンが低くなったのと、クマの戦闘態勢を見ると、悲惨な状況しか思い浮かばないのが現実。
「おおう……話し合おう。誤解しているんだ」
『なにがあ? ごかいってなあにい?』
ご主人の口調が変わる度に、クマの様子がおかしくなっていく。
ガルルルルルッと叫んでいた。
唸り声がドンドン加速し、グギャアアアアと、まるでドラゴンのような鳴き声に移り変わっていくんだ。
やべえ。これはもしかして……
クマの姿をしたドラゴンの化身? 飼い主の感情でリンクしながら進化を遂げると言う伝説の……
――Conspiracy bear――
意味は『共謀なクマ』
狂暴なクマより、こっちの方がカッコいいから、俺の中でそう呼んでいる。
と言うか、今つけた。つけてみたよ。コレ!
俺って凄い才能あるよな? 英語なんか使っちゃってさ。これで女はイチコロなんだよなぁ。
やっぱ俺様吾豪は天才的センスを持っているのだ。
これこそオタクの真骨頂と言ってもいいだろうな!
自分の名前を付けるセンスに酔いしれながら、現実を忘れ妄想の中でニヤニヤしている。
傍から見るとキモイのかもしれないが、この優越感を崩壊させる訳にゃいけねーんだよ!
なんたって俺は勇者なのだから! ははっ! 格好良すぎぃいい。
『……ねぇもう黙ろうね? 煩いから、消すよ? この世から抹殺してあげる』
幼女がフフッと微笑みながら死刑宣告をする。そして右手を前に伸ばし、瞳が光る。
紫色に光る眼光は、まるで異人のように感じられるけれど、それもまた幼女の魅力の一つといった所だろう。
――おもしれえ――
ホストの吾豪を骨抜きにしようとする、こいつは堕天使。俺様の魅力よりは劣るが、まずまずだな!
上から目線の俺様は勝ち組。そう思っていたのに。
俺様が断言するから間違いない! て……言う事は、まさか。
『亜門、あんたの魅力なんかないから。ただの変態!』
やはりな。この世界では俺様の虹色に輝くオーラが通用しないらしい。
ここは多分、日本じゃねぇんだよな。
勿体ねぇよ。マジで!
『だからさぁ、亜門。だまれよ!』
ん? さっきから変な違和感があったけど、何故俺様が亜門と呼ばれているんだ? 俺は吾豪だ! それなのに。
――最悪だ――
それともう一つ疑問がある。俺様の事『さん』付けしていたのに、いつの間にか呼び捨てになっている。
これは……気のせい? もしかして……
「俺様に惚れた?」
『はぁああ?』
「そんなに俺様の事身近に感じてくれてるなんて、光栄だな!」
『……なんでそうなるの』
「え? 何が?」
『……』
「俺様を特別に思っているんだろ? 照れるなよ! 素直になれば俺様の女にしてやる」
『はあ……』
能天気な俺様の話術に勝てる奴などこの世には存在しない!