飼い主登場!
「なんなんだよ、クマ! うぜえええええ」
始まりは俺『吾豪』の発狂から始まる……
夜は人気№1ホスト『吾豪』そして家に帰宅するとアニオタ『亜門』になるのだ。
いつもアニメ尽くしとホストの往復、二つの顔を持つ俺様は天下人と言っても過言ではないだろう。
アニメに出てくるのはカッコいい『モンスター。』
スマホの画面を見つめながら動画を見続けて、憧れていた。
――いつかこういうモンスターに会ってみてぇ――
画面の向こう事が本当の世界、ファンタジーの世界なんだよ。
皆分かるだろ? 戦隊モノに憧れるのと同じ感覚だよな! ははっ。
そんな事思いながら、毎日を繰り返していた……いたはずなのに。
「なんでクマなんだよぉおおおおおおお!」
俺の夢を返せよ。俺の憧れを。俺の涙をおおおおお!
そんな心の悲しみなんて『クマ』には届かない。これが現実なんだよ……
両手をブンブン振り上げながら、一生懸命走る俺様。
瞳からは微かに涙が滲んでいる。
こんなの俺じゃない! 気高い『吾豪』のキャラじゃねぇんだよ!
後ろを振り向くと『バウバウ』と涎を垂らしながら、俺を美味しそうな目で睨みながらついてくる。
――俺は餌じゃねぇよ!――
ここは『アニメ』の世界じゃない。走れば息切れするし足も疲れる。それに動悸も激しくなる。
「ぜーはーぜーはー」
スタミナ切れそうな身体に天使の俺様が囁くんだ。
――吾豪! 頑張るんだ!――
頑張るつーても、もう限界なんだよ。仕事以外はひきこもりの俺様に、そんな体力ある訳がないんだ。
「もう……だ……め」
俺の瞳が涙で埋もれ、酸欠で意識が遠のきそうになったその時だった。
『……ロル、おすわり』
落ち着いた声が暗闇の中で響く。そして俺様は吸い寄せられた。
あれ? クマの様子が変だぞ? 急に大人しくなった。
これは『呪文』か何かだろうか。いやそんなはずはない! もしかして『ロル』って『クマ』の名前か?
いや、そんな事よりも声の主の方が重要だ。この声……
可愛い声つーより、抜けてるような声が鼓膜を支配するんだ……俺の好物の……
――幼女!――
力が漲る。声に痺れた脳が酸素を取り込みながら、俺様のHPを回復させてゆく。
『なんで言う事聞かないの? 人間狩るなんて……山賊じゃないよね。この人』
ん……?
抜けているような声だけど、なんだか……嫌な予感がする。
『ロルぅ? 今日の狩りはゼロ。お仕置き覚悟なさい』
バシィイイイイン!
『キャウウウウウウン!』
バシンバシンバシンバシィイイイイイン!
『ウグウウグウウグウグウウウ!』
なんだろう……凄く寒い。
気のせいだろうか……。
プルプル震えるのは『クマ』だけじゃねぇよ! 俺様『吾豪』も震えるに決まってるだろーが!
背後から『クスクス』と笑い声とムチで体しばいてる音が交互に聞こえてきてさ。
俺様ドン引き……。
――俺様は強い、強いんだ……
空間の冷たさに身体が固まって動けない。その中で響く『お仕置きの音』が恐怖に叩き付けてゆく。
脳みその薄い俺様は、ない頭で考えてみる……するとさ、一つの答えが出てきたんだよな。
この幼女は『サイコパス』それしか出てこなかった。
いい声しているのにさ、勿体ねぇよ。
でも……そういうお仕置きも悪くないかも?
新しい扉が開く。次は心の扉だ。
新しいお仕置きが背後で行われている。滾る俺様の血は好奇心を抑えられずに、振り向くんだ。
「へ?」
ユラリと揺れるランプは空中を浮きながら、漂っている。
炎の揺らめきに合わせて動く『ロープ』を操る幼女がそこにいる。
白髪で長い髪を怪しく揺らせながら『サイコキネシス』みたいに自由自在に動かしている。
『ロル、悪い子、お仕置き、壊す』
ブツブツと呟く言葉はまるで『念仏』のようにしかきこえねぇええええ!
ブルブル震えながら、現実逃避しながら『サンタクロース』が来るのを待つ俺様!
そんなのいるわけねぇだろ――が!!!!
ここにあるのは恐怖の音と可愛い幼女の姿しかいない……