閑話自称チワワのフェンリン
自称チワワのフェンリンも最初はこんなんではなかった。
フェンリンは生まれ出た時から高魔力を持って生まれた。
ただ、よかったのは生まれて数年彼女はとても愛情深く幸せな時を家族で過ごすことができた。
でも、そんな幸せな生活は長くは続かなかった。
とても強い龍種と呼ばれる魔物との戦闘に巻き込まれたのだ。
それは自然災害のようなものだ。
どうしようもない一方的な殺戮。
彼女も殺されかけ家族は誰も生き残らなかった。
彼女はかろうじて生き延びることができた。
それは神様の気まぐれくらいのものだ。
それからは自分一人で生きていくしかなかった。
彼女はフェンリンとして才能をいかんなく発揮して力をつけていく。
そして段々と調子にものっていった。
「なんだこのゴミクズ共は。」
途中から完全に性格がねじ曲がっていた。
世界で一番強いと思って勘違いしだしていた。
でも誰もとめてはくれなかった。
日々魔物と戦う日々。
どんなに強いと言われる魔物でもこの自称チワワにかなう相手はいなかった。
あの時までは…。
その日も自称チワワは近くで魔物を狩っては自分で火であぶってミディアムくらいの焼きで食べていた。
「う〜ん。もっと美味しい食べ方はないのかしら。」
正直強すぎてやることがなくなり、他の分野で何かと思った時に食事をどうにかしようと思ったのだ。
そこで焼いてみたらば意外と美味しく食べられた。
でも、そこまでのインパクトはなかった。
うん。どうしようか。
そんなことを考えていると一人の従魔を連れた冒険者があらわれた。
(なんだ。人間か。)
人間は数だけはやけに多いが、正直相手にする必要もない。
私が軽く払ってやればそれで終わる。
でも、払うまでもない脆弱な種族だ。
いちいち蟻が歩いていても潰さないでしょ?
それと同じだ。
無視することにした。
…がその人間はいきなり話しかけてきた。
「なぁ悪いんだけどここに道を作るらしいからどいてくれないか?」
正直相手するのもめんどくさい。
ちょうどお腹もいっぱいになっていたのでそのまま寝て無視をする。
「本当に申し訳ないんだけどな。だけどここにいられると迷惑なんだ。」
それから10分くらいずっと反応をしめさない私に説得をしてくる。
うるさい。
もうめんどうなので殺すことにした。
だってさ。本当にうるさいんだよ。蚊と一緒だ。
プ~~~ンと耳障りな音君も嫌だろ?
だから殺そうと思った。
そして私がその人間を払おうとした瞬間、私の身体が浮いて空を見ていた。
いったいなにがおこったのかわからなかった。
「ごめんな。手荒いことはしたくないんだ。」
その男は頭をポリポリと書きながら言った。
今までにない感触。
なんだコイツは。
今までになかった新鮮な出来事だった。
そしてそれから私はそいつらと戦った。
いや、戦ったとは言えないかも知れない。
ほとんど一方的だった。
その男は私が怪我をしないようにあしらった。
私こそ最強だと思っていたのに、その男からしたらば私は子供のじゃれあい程度だったのだ。
男は私を殺すつもりもなく、私ではこの男に勝てないことを知った。
初めての屈辱。
でも、それはすごく嬉しいものだった。
退屈な日常から新しい世界が見えた気がした。
その日、その男が食事に誘ってくれたので一緒に食事をした。
その男の従魔にもフェンリンがいた。
そのフェンリンは幸せだと言っていた。
その日の食事は生まれてまもない頃家族と食べた食事。
ただ生きるだけに食べていた食事とは違う温かさと美味しさがあった。
そして今まで食べたことのない食べ物。
はじめて食事で幸せになれた。
そして仲間の暖かさも知った。
今まで孤独であることが普通だった私にとってはそれは新鮮なことだった。
仲間がいるとそれだけで世界が変わる。
それから彼女は仲間を探す旅にでた。
彼らのように強くて頼れて美味しい食事が食べられる仲間を探して。
でも、誰も彼女の仲間になってはくれなかった。
彼女を見た瞬間気絶をしたり逃亡をはかったり中にはいきなり殺そうと最大魔法を放ってくるものもいた。
1回…2回…100回を超えたあたりで数を数えるのをやめ、それから…。
彼女の心は完全に折れて島にひきこもることになった。
彼女はどんな感じでもいいから仲間にして欲しかっただけだった。
どんな感じでも繋がりが欲しかっただけだった。
それは隷属という形で希望が叶うことになる。
それは彼女が島に引きこもってから数十年の月日が流れていた。
その間に賢者と呼ばれる男がこの島にやってきたがそれはまた別の機会にでも。